新潟市江南区に、豊かな緑と美しいバラに囲まれたケーキ店があります。庭には季節の草花が咲き、それらを眺められるテラス席も用意された素敵なお店。今回は「菓子工房カシュカシュ」のオーナーの渡辺さんに、ケーキ作りのこだわりについてお話を聞いてきました。
菓子工房カシュカシュ
渡辺 厚司 Kouji Watanabe
1960年阿賀野市生まれ。家電製品の営業マンや運送会社の運転手を経て、ケーキ店でお菓子作りの修行を始める。「クレーシェル」「菓子工房 風花(ふうか)」「丸屋本店」でパティシエとしての経験を積み、2007年新潟市江南区に「菓子工房カシュカシュ」をオープン。趣味はガーデニング。若い頃はバンド活動でギター、ベース、キーボードを担当。レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、クリエイションなどを演奏していた。
——渡辺さんはお菓子作りをはじめてから長いんですか?
渡辺さん:以前は東京で家電の営業をやっていたんですよ。でも、人が作ったものを売る仕事が性に合わなかったので、辞めて新潟に帰ってきたんです。帰ってきてからは、親戚が運送会社を立ち上げたので、3年くらい運転手として手伝ってました。
——お菓子作りへと進路を変えたのは?
渡辺さん:父がパン屋をやってたんです。その姿を見て育ったので、私も子供の頃から何かを作る仕事をしたいと思っていました。そこで知り合いからケーキ屋を紹介してもらって、お菓子作りの修業をすることになったんです。そのお店はパン屋とケーキ屋を2店舗やっていて、ケーキ屋を私に任せたいから「3ヶ月以内にケーキ作りを覚えてほしい」って最初に言われました。
——おっと、3ヶ月って結構タイトじゃないですか? ケーキ作りは初めての経験だったんですよね?
渡辺さん:それまでやってきた営業や運転手って、比較的自分のペースでできる仕事だったんです。でもケーキ屋っていうのはオープンの時間に合わせて作業しなければならないので、慣れるまでは大変でしたね。1つの作業をしながら2つ3つ同時に作業しなければならないことも多いですし。あと工程の積み重ねでできている仕事なので、ひとつの工程を忘れてしまったら、最初からもう一度積み重ねていかなければならないんです。でも、このお店では東京やフランスのケーキ店へ研修に行かせてもらえたので、とてもありがたかったですね。
——へ〜、フランスまで。海外研修は大変じゃなかったですか?
渡辺さん:大変でしたね(笑)。フランスは2回行ったんですけど、1回目はお菓子作りを何もしないまま帰ってきたんです。現地で研修させてくれる店を探したんですが、100軒くらい当たってすべて断られてしまったんです。お金もなくなってきたから、公園の噴水で体を洗ったりして3週間ほど野宿して暮らしました。それで完全にお金が底をついて、しかたなく日本に帰ったんです。
——異国の地でそれは過酷な体験でしたね。2回目はどうだったんですか?
渡辺さん:前回の反省もあったので、日本で開催されたフランス人パティシエの講習会に参加した時、講師のフランス人からフランスのお店を紹介してもらったんです。おかげでそのお店と、また別のお店でも研修させてもらうことができました。
——研修から帰ってからはケーキ作り一筋だったんでしょうか?
渡辺さん:そうですね。川岸町の「クレーシェル」がオープンするときに、オープニングスタッフとして参加して13年間勤め、その後「菓子工房風花」を少し手伝ってから、「丸屋本店」でウェディングケーキを担当させてもらいました。最初のお店でお菓子作りの基礎を学んで、「クレーシェル」ではケーキ作りのプロセスや細工の技術を学び、「丸屋本店」ではスタッフの動かし方を覚えました。「菓子工房風花」もお店としていろんなことをリスペクトさせてもらってます。修業したすべてが今のお店をやる上で役立ってますね。
——お店はいつオープンしたんでしょうか?
渡辺さん:2007年です。この土地は高校時代の同級生から「自由に使っていいよ」って貸してもらったんです。当時は庭もテラスもなくてまわりは砂利だったんですよ。庭はいろいろアドバイスをいただいた「菓子工房風花」のオーナーから、バラが嫌いな人はいないし、ケーキ店には女性客が多いからバラを植えた方がいいと勧められて植えたのがきっかけです。全くのガーデニング初心者だったから、いろいろ教わりながら庭作りをしました。
——とてもおしゃれなお庭だしテラスもいい感じですね。
渡辺さん:テラスを作ったのはきっかけになる出来事があったんですよ。以前入り口の前に段差があって、そこにつまづいて女性が転んでしまって。それで、危ないので段差をなくす工事をしたついでに、テラスを作ったんです。お買い上げいただいたケーキをそこでも食べてもらえるようにしました。
——庭を見ながらケーキが食べれていいですよね。では、このお店のこだわりを教えてください。
渡辺さん:一番こだわっているのは鮮度です。だから「今日売るものは今日作る」ということを大切にしてます。スポンジも作り置きはせず朝から作っているので、ケーキがお店に揃うのはお昼頃になってしまうんです。残ったものを翌日も出すようなことは絶対にしません。ケーキはできたてが一番美味しいので、時間が経てば経つほど味が落ちていくんです。
——なるほど。できるだけ美味しい状態で食べてほしいっていうことなんですね。他にもこだわっていることってありますか?
渡辺さん:自分がお客様に説明できないような材料は使わないようにしています。マーガリンに使われている色々な薬剤は私にもよく内容がわからないので使ってないんです。バターしか使わないと酸化しやすくて賞味期限が短くなってしまうんですけど、賞味期限を無理に持たせるようなことはしたくないんですよね。1ヶ月前に作ったケーキをお客様に売りたいとは思わないですし。たとえ長持ちできたとしても、美味しくはなくなりますからね。ときどきお客様から「明日でも食べられますか?」聞かれることがありますが、そういう時は、「明日食べるようでしたら明日買ってください」とお願いしています。
——それでは渡辺さんおすすめのケーキを教えてください。
渡辺さん:まずは「いちごのショートケーキ」です。ショートケーキが美味しい店は何を食べてもだいたい美味しいんですよ。材料が少なくてシンプルだからごまかしが効かないんです。だから私は初めて行ったお店ではショートケーキを買うようにしています。「いちごのショートケーキ」に使っているいちごは江南区の農園から直接仕入れています。ハウス見学に行ったときに、あまりの香りに後ずさりしたほど、いちごの香りが強かったんです。食べてみると甘いだけじゃなく酸味もあって、理想的な味のいちごで、すっかり惚れ込んでしまったんですよ。いちごだけじゃなくフルーツはできるだけ農園から直接仕入れるようにしています。そのときは生産者の顔を見て仕入れ先を決めます。農産物には生産者の人柄が表れるような気がするんですよね。
——なるほど。使うフルーツにもかなりこだわってるんですね。では他のおすすめも教えてください。
渡辺さん:「アンブロワジー」っていうチョコレートケーキですね。東京でケーキ作りの研修をしたときに、神戸の有名なパティシエが作ったものを食べて感動したので、オマージュとして自分なりにアレンジして作っています。チョコレートクリームとピスタチオムースの他に、コンフィチュールという木いちごを使ったジャムとムースの中間のようなものが入っています。
——チョコのコーティングがテカテカして高級感がありますね!もうひとつおすすめをお聞きしてもいいでしょうか?
渡辺さん:「ショコラバナーヌ」ですかね。子ども向けのチョコレートケーキとして作ったものです。生チョコは既製品を使う店が多いんですが、私は自家製の生チョコを使っています。子ども向けなのでお酒は使わず、ココアも癖のある香りが好きじゃないので使っていません。
——チョコレートを使ったケーキが多いような気がしますね?
渡辺さん:チョコレートって好きな素材なんですよ。スポンジ、クリーム、シュークリーム、ボンボン、どんなものにも使えて、いろんな可能性がある素材だと思います。
——今後作ってみたいケーキってありますか?
渡辺さん:イリュージョンっぽいケーキを作ってみようと思ってるんです。どんなものかっていうと、ケーキの上に乗せた球体の中にソースが入っていて、割ると中からソースがあふれるというようなものです。そうすることで食べる直前までソースとケーキを分けることができて、美味しく食べてもらえるんじゃないかって思うんですよ。そんな感じでこれからも美味しいケーキを作っていきたいと思います。
素材や鮮度に強いこだわりを持ってケーキを作っている「菓子工房カシュカシュ」の渡辺さん。そのこだわりは、お客さんに一番いい状態の美味しいケーキを食べてほしいという思いからのものでした。今後も強いこだわりを持ちながら、美味しいケーキを作ってお客さんを笑顔にしてください。
菓子工房カシュカシュ
〒950-0134 新潟県新潟市江南区曙町1-4-369-1
025-381-4488
10:00-19:00
火曜水曜休