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芸術品のように美しい、魚沼の美味しい水が育んだ「大力納豆」。

粒のサイズや付属のタレが豊富で、様々な種類が売られている納豆。普段の食卓で活躍する、ご飯のお供の定番です。今回ご紹介するのは、魚沼市の旧小出町で創業し今年で85周年を迎える「株式会社大力納豆」です。軍配マークと赤いパッケージがお馴染みの「大力納豆」。その美味しさの秘密などを聞きに、3代目社長の坂詰さんを取材してきました。

 

株式会社大力納豆

坂詰 仁 Hitoshi Sakatsume

1968年魚沼市(旧小出町)生まれ。株式会社大力納豆 代表取締役社長。高校を卒業し、後継者コースがある東京都の専門学校へ進学。都内のスーパーで数年間勤務した後、家業に入る。2010年に代表取締役社長に就任。「新潟県納豆組合」の理事長も務める。

 

納豆屋を継ぐことが、使命だった。

——今日はよろしくお願いします。まずは、坂詰社長のプロフィールをお聞きしたいのですが。

坂詰さん:高校のとき、先代である母親の意向で都内の大学を目指していたのですが、受験に失敗してしまいまして。でも浪人するのはなんだかカッコ悪くて、東京商科学院専門学校(現:東京商科・法科学院専門学校)の後継者育成コースへ進学して、経営マネジメントや簿記などを学びました。卒業後は、都内のスーパーマーケット「サンマート」に就職して、3年弱勤めてから家業へ入りました。

 

——最初はスーパーにお勤めだったんですね。

坂詰さん:母親から「人に使われた経験が経営者として役に立つ」と教えられていたんです。でも、小さい頃からずっと「将来は納豆屋になれ」と言われて育ったんですよ。自分の将来が勝手に決められているようで、当時はとても嫌でしたね(笑)。「野球選手になりたい」というような目標を持ったことがないから、小学校のときに「将来の夢はなんですか?」と言われて、とりあえず「億万長者」と書いたことをよく覚えています(笑)

 

 

——ふふふ、よく覚えていますね。それで、スーパーでのお勤めは3年で切り上げて「大力納豆」を継いだと。

坂詰さん:スーパーに勤めていた頃は景気が良くて、提携していた香港のスーパーと人事交流をしていたんです。香港には「部署で一番年上の独身が行かされるらしい」「行ったら5年は戻って来られないらしい」と、まことしやかに噂があって。当時、私はまだ20代前半でしたが、気づくと所属部門で一番年上の独身という立場になっていたんです。「もしかして、自分も香港に行くことになるのかな……」と不安に思っていたときに、実家の父が入院して。それで、祖母から「早く帰って来い」としょっちゅう電話がかかって来るようになりました。「香港に行かされるかもしれないし、このタイミングで地元に帰ろうか……」と迷っていたら、ついに人事部長から呼び出されて……。

 

——それで、どうしたんですか?

坂詰さん:人事部長の話がはじまる前に、私の方から「実は、お話があります」と切り出して、会社を辞めさせてもらいたい旨を伝えました。それを聞いた部長は「分かった。この話はもういい」と。なので、香港行きの真相はわからないままなんですが、それがきっかけで、23歳のときに実家に帰り、家業に入ったんです。

 

原材料には記されない「水」が、「大力納豆」の美味しさを作る。

——「大力納豆」は、全国的にも知られていますよね。

坂詰さん:2017年にテレビ番組の「マツコの知らない世界」に取り上げてもらって、美味しいと喜んでいただいたので、その頃はだいぶ忙しくさせてもらいました。それから「全国納豆協同組合」主催で毎年行われる「全国納豆鑑評会」では、2度の最優秀賞含め、計8回受賞させてもらいました。新潟産の大粒大豆を使った「小出っ子」や北海道産大豆を使った「大粒納豆 吟選」などは、都市圏の百貨店などでも販売されているので、県外のお客さまにもご愛顧いただいています。

 

——「大力納豆」のこだわりはなんでしょう?

坂詰さん:大豆にはもちろんこだわっていますが、他のメーカーさんとの一番の違いは「使っている水」ですね。食品のパッケージには、原材料が表記されていますよね。納豆の場合は、主な原材料が大豆と納豆菌で、その2つとタレの原料が表記される決まりになっています。水は原材料として記載されませんが、納豆作りに欠かせない大切な材料なんです。

 

——納豆といえば、大豆が肝かと思いましたが、水も大切なんですね。

坂詰さん:大豆を水に漬けて2〜3倍の大きさにしてから、釜で蒸して、納豆菌をかけることで納豆が完成します。大豆を水で戻す工程で、当社では魚沼の美味しい水を使っているんです。大豆を水道水で戻すのと魚沼の水で戻すのとでは、味の違いが出そうでしょう。

 

 

——確かに。説明を聞いて水の大切さがなんとなくわかりました。どんなふうに食べると「大力納豆」の美味しさが引き立ちますか?

坂詰さん:軽く塩を振って食べると、大豆の味がよくわかって美味しいですよ。私は「当社の納豆は芸術品」だと思っているので、ぐちゃぐちゃとかき混ぜるのが忍びなくて、あまり混ぜずに食べることが多いかな。

 

——今度、真似してみます。ところで大豆はどんなものを選んでいるんですか?

坂詰さん:農家指定はせずに美味い大豆を選んでいて、北海道産が多いですね。北海道で作られる大豆は糖質が高いものが多くて、納豆や煮豆に向いているんです。それに、土地が広いから、複数の農家さんが作った大豆の中から美味しいものを選ぶことができますから。

 

——すべて国産大豆の商品なんですか?

坂詰さん:いいえ、メイン商品には中国産の大豆を使っているんですよ。中国産の大豆は決して安くありませんが、他の外国産の大豆より断然美味しいんです。

 

——国産大豆が美味しい、とは限らないと。

坂詰さん:もちろん国産の大豆を使った納豆も美味しいですけど、国産大豆だけでは、日本の納豆の総量は賄えません。日本で発売されている納豆の80%以上が北米産の大豆を使ったものですし。今は消費者の方がいろんなものを選択できる時代ですから、国産大豆にこだわる人もいれば、産地は気にせずに味や価格で選ぶ人もいます。選ぶのはお客さまですから、私たちは当社の製品を選んでもらえるような商品を作ってお出しすることが大切だと思いますね。

 

納豆メーカーが苦しい環境でも、「100年企業」を目指したい。

——坂詰さんは「新潟県納豆組合」の理事長もお務めなんですよね。

坂詰さん:「新潟県納豆組合」には、7社の納豆屋さんが所属していて、そのうち現在も製造を続けているのは6社だけなんです。昭和40年代には47社加盟していたそうですから、新潟の納豆メーカーは減少しています。大手メーカーが参入して競争が厳しいこの業界で、美味しい納豆を届けようと踏ん張っている会社さんばかりです。だから、ぜひ新潟の納豆を食べて欲しいですね。

 

——これから、どんな展開を考えていますか?

坂詰さん:納豆の消費量は増えていますが、一時期流行った納豆ダイエットブームを機に納豆の価格が下がってしまい、地元の納豆屋としては厳しい面があります。昔からある納豆メーカーさんでも、採算の都合で製造設備の更新をせずに「機械が古くなったから」と廃業するケースもあります。そんな環境ではありますが、細く長く会社を続けて、「100年企業」を目指したいですね。

 

 

「大力納豆」は、魚沼市近郊のスーパーや「大力納豆」本社、旧小出町の横町にある売店、その他百貨店などで買うことができます。興味を持った方はぜひ探してみてください。

 

 

株式会社大力納豆

新潟県魚沼市十日町360-6

TEL 025-792-0411

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