新発田市の五十公野公園近くに、美味しいメンチカツのお店があると聞いて行ってきました。お店近くの道路横には「いじみのの肉や」と書かれた遠慮がちな赤い看板があり、その矢印に従って細い小路を入っていくと、突き当たりに2軒の民家が現れます。そのうち1軒の玄関に、よく見ないとわからないほどの小さな看板があり、「肉や入口」と書いてあります。そこが新発田で有名なメンチカツのお店「藤倉メンチカツや」なんです。今回は奥さんの藤倉サキさんにお店やメンチカツについてお話を聞いてきました。
藤倉メンチカツや
藤倉 サキ Saki Fujikura
1933年新発田市生まれ。実家は田んぼと養豚を営む農家。藤倉家に嫁入りして家族で「ふじくら食堂」という食堂を経営していた。2006年、食堂を長男に引き継いだのを機に自宅で「藤倉メンチカツや」を開店。店が忙しく趣味の手芸に費やす時間がないため、しばらくやっていない。
——今日はよろしくお願いします。看板とか表札とか雑誌とかによって店名が違いますよね(笑)。一体どれが本当の店名なんですか?
サキさん:「いじみのの肉や」とか「藤倉メンチカツ店」とか「藤倉メンチ店」とか出てるもんね。本当は「藤倉肉店」が正式な屋号なんだけど、ふだんはわかりやすく「藤倉メンチカツや」にしてるの。あんた、いいように書いておいてよ(笑)
——えっ、それも困るんですけど…(笑)じゃあ「藤倉メンチカツや」にしますね。このお店はご自宅なんですか?
サキさん:そうそう。家の自転車小屋を調理場にして、孫達が小さい頃に遊び場にしてた和室を休憩所に改築したの。ちょっとわかりにくい場所にあるから、看板は目立つように真っ赤にしたんだて。
——あの看板がないとたどり着けませんよね(笑)。このお店はいつから始めたんですか?
サキさん:平成18年くらい。それまでずっとやってきた食堂を長男夫婦に引き継いだんだけど、私もまだ仕事したかったんだわね。近所の人たちから、食堂で出していたメンチカツの店をやってみたら?っていわれて、そしたらやってみようかって思ったの。
——てことは、メンチカツは食堂の人気メニューだったんですね!
サキさん:いや、そうでもねえ。
——(笑)
サキさん:でも、メンチカツだったら自宅でも作れるし、やってみようと思ったんだろうねぇ。そのとき75歳だったから、無理するなって家族から反対されたけど、近所の人たちや孫に手伝ってもらってなんとかやって来れたんだて。
——今は何人くらいでお店をやってるんですか?
サキさん:お父さんと私と孫、それから近所のお母さん2人の、5人。近所のお母さんは午前と午後1人ずつパートで来てもらってるの。
——お客さんはやっぱり近所の人が多いんですか?
サキさん:近所の人も来てくれるけど、遠くの人も結構来てくれるんだわ。村上市、阿賀町の津川、燕市、三条市…。近県からは山形県や福島県の会津からも来てくれるね。おみやげとかでもらって食べた人が、おいしかったから買いに来てくれるみたい。1日400個〜500個売れてるね。お休みの人の多い土日や五十公野公園でイベントやってるときはお客さんもいっぱい来てくれるわ。
——すごい人気ですけど、何か特別な作り方をしているメンチカツなんですか?
サキさん:何も特別なことはしてないんだて。使ってる材料も豚ひき肉、玉ねぎ、卵、塩、コショウと当たり前のものだけ。ただ、豚肉には越後もち豚を使ってるし、揚げる時の油もいいのを使ってるから胸焼けしないね。肉の配合は開店当初からずっと変えずに続けてるんだよね。赤身だけではダメで脂身もないと甘みが出ないんだわね。
——いい材料使ってるんですね。
サキさん:そうだろっかね。あとパン粉はきめの細かいものを使ってるね。それから玉ねぎはとにかくいっぱい入れてる。よそがどれだけ玉ねぎ入れてるのかわからないけどね。まあ、あとは愛情だこってね(笑)
——愛情が一番のスパイスかもしれないですね。ところで、このお店ではメンチカツしか売ってないんですか?
サキさん:越後もち豚のトンカツも売ってるよ。注文をもらってから揚げるから、揚げたてを持って帰ってもらえるの。あと、もつ煮もやってるわ。だいたい2鍋以上作って20杯ちょっとになるんだけど、3日もしないで売り切れるね。
——これからの寒い季節にもつ煮は体があったまっていいですよね。サキさんは普段どんな気持ちでお店をやってるんですか?
サキさん:こっちから売りに行くわけでもなく、遠くからわざわざお店へ買いに来てくれるお客さんがいるっていうのは感謝しかないわね。本当にありがたいっていう気持ちで毎日やってるて。だからせめて味は落とさないように気をつけて作ってるの。あとはやっぱり愛情だこってね(笑)
——やっぱり愛情なんですね(笑)。では、今後どんな風にお店をやっていこうと思っていますか?
サキさん:まあ年も年だっけ、このまま現状維持だろっかね。とにかく頑張れるだけ頑張ろうと思ってますて。
現在86歳のご高齢にもかかわらず、とてもしっかり取材に応じてくれたサキさん。長い間一生懸命働いてきて、今もなお忙しく働いているからこそ、しっかりしているのだと思います。そして、そのサキさんを支えるお孫さんや近所のお母さんたち。そこにもサキさんの慕われる人柄を感じることができました。そんな方々の作るあったかいメンチカツ。これからの寒い季節、体だけじゃなく心も暖かめてくれるはずです。
藤倉メンチカツや
〒957-0021 新潟県新発田市五十公野3131
0254-22-6941
10:30-18:00
水曜休