舞台美術や衣装、演出までも手掛ける人形作家「後藤信子」。
ものづくり
2025.03.13
「華やぎちんどん隊」をご存じですか? いろいろなイベントに登場しては、華やかに盛り上げてみんなを笑顔にしてくれるパフォーマンス集団があると聞き、詳しく知りたくて代表の後藤信子さんを自宅に訪ねてみると……、通された部屋にはどこかダークな世界観を持つ個性的な人形たちが……。


ロマネスク工房
後藤 信子 Nobuko Goto
1955年新潟市中央区生まれ。東京の北里大学技研衛生専門学院卒業後、臨床検査技師として新潟の病院で勤務。出産を機に退職後、人形作家である姉の影響で人形制作をはじめ、1990年に「ロマネスク工房」を立ち上げる。1998年のりゅーとぴあ開館記念公演「シャンポーの森で眠る」をきっかけに仮面や小道具の制作を担当するようになり、2010年以降はキッズ劇団「APROCOT」の公演やシニアワークショップ公演「瞼の母」などの舞台美術、衣装も担当。2020年からは「華やぎちんどん隊」を主宰している。3月に公演される「シニア劇団りゅーと」の朗読舞台演劇「弥生三月 祭囃子が聞こえる」では舞台演出も務める。
「華やぎちんどん隊」の主宰は、人形作家。
——お部屋のなかには、いろいろな人形が並べられていますね。集めているんですか?
後藤さん:私はもともと人形作家なんですよ。ひょんなきっかけで舞台の美術や衣装に関わるようになって、「華やぎちんどん隊」の主宰まですることになったんです。
——本職は人形作家さんなんですね。
後藤さん:その前は病院で臨床検査技師として働いていたんですけど、何かあると夜中でも呼び出されるので、子育てのために退職して専業主婦になりました。人形作家になったのは姉がきっかけだったんです。子どもと一緒に人形作家の姉から粘土細工を教わったら、私の方がハマってしまったんですよ(笑)
——さすが姉妹ですね(笑)
後藤さん:母は洋裁が得意だったし、父も刺繍をしていたので、私も子どもの頃からミシンで服をつくっていたんです。ものづくりの環境が身のまわりにあったんでしょうね。
——だから姉妹で人形作家に。人形づくりはお姉さんから教えてもらったんでしょうか?
後藤さん:基礎は姉から教わりましたけど、あとは独学なんです。姉は可愛い人形をつくっていたんですけど、私は「仮面ライダー」に出てくる怪人みたいに異形な存在が好きなので、姉とは作品のタイプが全然違ったんです。そのためか、最初は姉のところで一緒にやっていたんですけど「あんたとは一緒にやりたくない」と言われてしまい、独立することになりました(笑)

——確かに後藤さんの作品には、独特の世界観がありますよね(笑)
後藤さん:私は売れる売れないを意識せず、自由に制作することができたんです。だから自分がつくりたくなるまでつくらないんですよ。そのうちインスピレーションが降りてきて、つくりたいと思ったら一気につくり上げるんです。
——どんなときにイメージが降りてくるんでしょうか?
後藤さん:ドライブ先の自然からインスピレーションを感じることが多いですね。そういうときは行きたい場所が頭にひらめくので、夫に頼んで車を出してもらうんです(笑)
——そのときに掴んだイメージで人形をつくるんですね。
後藤さん:つくりはじめると粘土の方から「目はこのくらいの大きさでこのあたり、鼻はこの辺でこんな形」というように語りかけてくるんです。私はその言葉に従いながら手を動かして人形をつくっているだけなんですよ。

後藤さん:それからストーリーを考えながらつくるようにしています。例えば、七福神をつくるときでも、ただつくるのではなくて私生活を想像しながらつくるんです。妖怪をつくるときも同様にしてつくるので、人間くさい作品になるんですよ。私は流派に所属せずフリーで作家をやっているので、「こうしたらダメ」という縛りがなくて自由につくることができるんです。
——後藤さんの作品には生々しいものも多いように感じます。
後藤さん:専門学院で臨床検査技師の勉強をしていたとき、解剖後のご遺体に触れる機会がときどきあったんです。そのとき学んだことを生かして、人形をつくる際は人体の構造を考えるようにしているんです。
——なるほど、だから説得力が生まれるのかもしれないですね。
後藤さん:そうかもしれません。おかげで「たけしの誰でもピカソ」という番組で紹介していただいたのをはじめ、いろいろな書籍でも紹介していただくことになり、それが舞台のお仕事につながっていったんです。

舞台衣装から演出まで、幅広く活躍。
——舞台の仕事に関わることになったいきさつを教えてください。
後藤さん:「新潟市民芸術文化会館 りゅーとぴあ」が開館する際に上演された『シャンポーの森で眠る』という舞台で、小道具の制作をお手伝いしたのがきっかけでした。演出家の先生がイメージしたものをかたちにする仕事だったので、「このシーンにはどんなものが合うと思う?」と聞かれたら翌日にはつくったものを見せて「これでどうですか?」と提案していました。
——舞台に携わってみて、どんなふうに感じました?
後藤さん:その後もいろいろな舞台で、仮面や小道具の制作を担当させていただいたんです。自分のつくったものが舞台上で生き生きと輝いているのを見るのが嬉しくって、夜も寝ないで小道具をつくっていました。悔しい思いや辛い思いも経験しましたが、楽しさが大きかったから続けることができたんです。

——仮面もつくっていたんですね。
後藤さん:『家なき子』という舞台では「ゴミ箱に捨てられたフランス人形」のイメージで、欠けたり古びたりした仮面を80人分つくりました(笑)。それを見たNoismの金森穣さんから、畏れ多くも仮面のオーダーをいただいただいたんです。オーダーされたのがシンプルな仮面だったので逆に難しかったんですけど、とても喜んでくださって今でも使っていただいています。
——それはすごい。今は小道具だけじゃなく、舞台美術や衣装にも関わっているんですよね。
後藤さん:2018年に上演された「りゅーとぴあ」20周年記念公演『シャンポーの森で眠る』で衣装や舞台美術も任されるようになりました。和紙を使った思いきりのある舞台美術が好評でしたね。最近ではキッズ劇団の「APRICOT(アプリコット)」や「シニア劇団りゅーと」にも携わっています。
——おっと、忘れるところでしたけど「華やぎちんどん隊」にも携わっていますよね。どういう経緯で誕生したんでしょうか?
後藤さん:シニアの演劇ワークショップ公演『瞼の母』のなかに、「ちんどん隊」が登場して舞台を盛り上げたんです。そのおかげで舞台は成功を収めて、「ちんどん隊」は解散を迎えたんですが、もっと続けていきたいということでパフォーマンス集団「華やぎちんどん隊」として復活しました。

——へぇ〜、どんな活動をしているんでしょうか?
後藤さん:人々に笑顔をお届けするため、いろいろなイベントを回っているんですよ。私は代表として脚本や演出、衣装を担当しています。
——とうとう演出まで担当しているんですね(笑)
後藤さん:「シニア劇団りゅーと」が3月15日に上演する『弥生三月 祭囃子が聞こえる』では、衣装製作はもちろん舞台演出もやらせていただいています。今までたくさんの舞台に関わってきてお稽古にも立ち会うことが多かったので、演技の良し悪しもわかるようになったし、演技指導のやり方も自然と身についていたんですよね。
——では、今後やってみたいことはありますか?
後藤さん:ずっとものづくりは続けていきたいですね。チャンスがきたときに尻込みせず挑戦してみたおかげで楽しい経験をしてこれたと思っているので、これからも頼まれたことにはできるだけ挑戦していきたいです。

ロマネスク工房
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