「鉄道の町」として知られる新津に、旅のお供としての「三色だんご」を作り続けてきた老舗のお菓子屋さんがあります。大正初期から続く「御菓子司 羽入(おかしつかさ はにゅう)」です。今回は三代目店主の羽入由介さんから、お店の歴史やこだわりについてお話を聞いてきました。
御菓子司 羽入
羽入 由介 Yoshisuke hanyu
1963年新潟市秋葉区生まれ。三代目店主。東京の大学を卒業後、都内や横浜でお菓子作りの修業をし、1990年頃に新潟へ戻り「御菓子司 羽入」を継ぐ。趣味はゴルフ。
——「御菓子司 羽入」はいつ頃創業されたお店なんでしょうか。
羽入さん:大正時代初期に私のおじいさんが開業したお店です。当時はお菓子の他に砂糖も売っていたようです。
——ずいぶん長く続いてきたお店なんですね。初代がおじいさんっていうことは、羽入さんは三代目の店主になるんでしょうか。
羽入さん:そうですね。当たり前のようにお店を継ぐつもりで、東京の大学を卒業した後は都内と横浜でお菓子作りの修業をしたんです。
——修業はいかがでしたか。
羽入さん:東京では八王子にある和洋菓子屋でお菓子作りを学びました。住み込みで朝から晩まで働いて、休日も給料も少なかったので、サラリーマンをやっている大学の同級生がうらやましかったですね。でも早く仕事を覚えた方が楽になると思ったので、仕事が終わってからも自分で勉強をしていました。横浜のお店では、お菓子作りだけじゃなくて接客も経験することができました。ただ、父が急に亡くなって新潟に帰ることになったんです。
——それはお気の毒でした。
羽入さん:28歳でいきなり継ぐことになったんですけど、父からは何も教わっていなかったので、お店のことをまったく把握していなかったんです。だから最初のうちは母親に聞きながら手探りで経営していました。
——いろいろなお菓子が並んでいますけど、おすすめはありますか?
羽入さん:やはり大正5年から続いている「三色だんご」ですね。当時はどこへ行くにも時間のかかる時代だったので、汽車のなかでも食べられるように考えられた団子なんです。食べやすくひと口大にした団子を駅弁と同じような折り箱に入れ、その上からこしあん、白あん、ごまを掛けていて、それを楊枝やスプーンで召し上がっていただきます。
——汽車のなかで食べるということは、駅で売っていたんですか?
羽入さん:はい、以前は地元のお弁当屋さんが作っている駅弁と一緒に駅のホームで売っていました。昭和に入って鉄道が交通の中心になった最盛期には、20人以上の売り子がいたほどで、朝から晩まで団子を作り続けていたそうです。これが当たって「御菓子司 羽入」の看板商品になりました。
——へぇ〜、作り方は当時と変わっていないんでしょうか。
羽入さん:味も製法も昔から変えずに、愚直なほど同じように作り続けてきました。毎朝石臼で餅をついて、ひとつずつ手作業で作っています。私たちは何百個もの団子を作っていますけど、お客様にとっては大切な1個なので、1個1個丁寧に作るよう心掛けています。
——それが長い間続いてこられた秘密なのかもしれませんね。
羽入さん:そうですね。「三色だんご」以外に「秋葉山」という銘菓も創業以来続いてきました。抹茶やくるみ、小麦せんべいを使った、新津の秋葉山をイメージしたお菓子ですが、手作業でしか作ることができないんです。
——昔からの伝統を守り続けているお店なんですね。
羽入さん:その一方で「かきのもと饅頭」という新しいお菓子にも挑戦しています。新潟には菊を食べる文化があって、代表的な食用菊が「かきのもと」なんですよね。それを地元で消費しようという市の取り組みの一環で開発したお菓子なんですけど、「かきのもと」を饅頭の皮に入れてみたところ、見た目がとても綺麗になったんですよ。
——もともとは菊の花ですもんね。
羽入さん:全国でも珍しいお菓子だと思うので、この「かきのもと饅頭」で新潟を発信していけたらと思っています。おかげさまで「新潟市みやげものコンクール」で新潟市長賞を受賞させていただいたり、天皇陛下がご来県した際にお召し上がりいただいたりしました。
——それはすごい。新しいお菓子作りにも積極的に取り組んでいるんですね。
羽入さん:最近は「鉄道の町・にいつ」をモチーフにした洋菓子も作っているんです。
——「三色だんご」って今はお店でしか売っていないんですか?
羽入さん:今も新津駅や新潟駅の売店に置いていただいていますよ。あと、20年前から全国各地の物産展で、三色だんごや笹だんごの実演販売をさせていただいているんです。今はコロナ禍で旅行に行きにくくなった分、物産展が盛り上がっているので、私も力を入れて地元のお菓子をアピールしたいと思っています。北海道で開催された物産展に出店した翌週に、鹿児島で開催された物産展に出店したこともありました(笑)
——全国を北から南まで飛び回っているんですね(笑)
羽入さん:そうですね。ただそれも限界があって、四代目になる娘が頑張ってECサイトを含めたホームページを作ってくれたんです。そのおかげでさらに全国からお買い求めやすくなったと思います。
——イベントへの参加は県外が中心なんでしょうか。
羽入さん:ここ最近は開催が減っていますけど、地元のイベントにも積極的に参加しています。地元に愛されるお店を目指して今まで続けてきましたからね。全国各地の物産展で「三色だんご」の出店をしていると、地元出身のお客様から「子どもの頃によくお父さんが買ってきてくれた」というような思い出話を聞く機会も多いんですよ。これからも皆さんの思い出に残り続ける味を守っていきたいと思います。
御菓子司 羽入
新潟市秋葉区新津本町1-6-30
0250-22-0462
9:00-18:00
日曜休