港町・新潟にとって歴史的意義のある日和山と、「日和山五合目」。
カフェ・遊ぶ
2019.06.11
新潟市の下町(しもまち)にある日和山。わずか12.3mの高さしかない、一見どこにでもあるような平凡な小山ですが、実はそこに隠された歴史的意義があるとか。その素晴らしさを伝える活動を続けてきた「日和山五合目」館長・野内さんに、日和山のどこがすごいのか、どのような思いで日和山のアピールに関わってきたのか、お聞きしました。

日和山五合目
野内隆裕 Takahiro Nouchi
1968年、新潟市中央区生まれ。「日和山五合目」館長。「路地連新潟」代表。 日和山の顕彰活動や、新潟市のまちあるきガイドなどを行い、「グッドデザイン賞2013・2014」「第2回ニイガタ安吾賞」「まちづくり功労者 国土交通大臣表彰」などを受賞。
日和山を紹介する活動。始めるきっかけとは。
――今日はよろしくお願いします。日和山についていろいろ教えてください。
野内さん:こちらこそ、よろしくお願いします。
——野内さんは「日和山五合目 hiyoriyama coffee」のオーナーという事ですが、日和山に興味を持つようになったきっかけはなんだったんですか?
野内さん:ある時、「日和山(南波松太郎 著)法政大学出版」という本を手にしまして、新潟市の日和山が紹介されていました。
読んでみますと、みなとまち新潟にとって歴史的に意義のある場所だった事を知り、家が近所だったこともあり興味を持つ様になりました。
その頃の日和山は雑草が生い茂り、山頂に鎮座する「住吉神社」もだいぶ痛んでいて、訪れる人も少ない状態だったんです。
ですから本を読んで、何だか勿体ないなぁと思っていました。

——日和山にはどんな歴史的意義があったんですか?
野内さん:北前船等の帆船の行き交う時代、みなとに船が入出港する際「水戸教(みときょう)」と呼ばれる水先案内人が、近くの高台にて天候や海上の状態を観測していた場所が「日和山」と呼ばれていたそうです。 新潟だけではなく、全国に80か所以上もあるそうで、現在も方角を見るために使っていた「方角石」が各地の日和山に残されています。
——なるほど、港町にとってなくてはならい場所だったということですね。
野内さん:そうなんです。まだそこに残ってるのに、忘れられてる場所とか、価値に気づいてもらえない場所に目を向ける事が、好きみたいなんですよね、私。

個人の活動に行政が協力参加。
——それで、ご自身で活動を始められたと。
野内さん:まだネットが普及して間もない1997年頃に「にいがたなじらねっと( http://www.najiranet.com )」という個人サイトを開設しました。
日和山の紹介をメインに、新潟市の下町(しもまち)界隈の寺社や路地、銭湯のある風景などを通して、自分の好きな町の魅力を発信し始めたんです。
自分が発信した情報に対して、反響があることがうれしくて、勉強しては発信するというルーティーンができていきました。
——それが後の町歩きガイド活動にもつながっていくんですね?
野内さん:そうかもしれませんね。同時期から自作の「まちあるきマップ」を作り、年に何回か個人的に下町のまちあるきガイドをやっておりました。 「にいがたなじらねっと」で日時を指定し、集まった人たちを連れ、下町を案内し始めたという訳です。
そんな中で、新潟の歴史を内包した「小路」や「通り」といった「まちなみの現在の風景」に興味を持ちました。 それで、今そこに残っている「小路」を通して、まちを楽しむ地図や案内板を作り、案内していたところ、2007年、新潟市さんよりお声掛けをいただき、まちあるきのしかけとして「新潟の町・小路めぐり」プロジェクトがスタートし、コース、案内板、地図の制作に携わりました。 現在、まちあるきグループ「路地連新潟」として活動しているのも、これらのプロジェクトを「民間主導で活用し続けよう」という思いからなのです。
ありがたい事に、2013年「新潟の町・小路めぐり」の取り組みは、日本デザイン振興会の「グッドデザイン賞」に選ばれました。

——現在の活動は多岐にわたりますよね。
野内さん:2000年に「にいがた寺町からの会」という、まちを楽しむ市民団体が発足し、その活動をお手伝いさせていただいていた中で、日和山住吉神社の宮司さん、近所の方々、新潟大学工学部、長岡造形大学、近所の小学校の学生さん達に協力していただき、日和山の歴史と魅力を発信するイベントや講座を数多く開催していたところ、新聞などのメディアでも日和山を取り上げていただける様になってきました。
——いいアピールになったんですね。その効果はありましたか?
野内さん:そんな中、新潟市さんが「新潟のまち・小路めぐり」プロジェクトに続き、民間主導でがんばっている日和山の顕彰活動に「協力参加」して下さる事となり、官(市)・学(大学)・民(我々)で構成された「日和山委員会」が中心となり、日和山の整備が始まる事となりました。
2009年「みなとまち新潟の名所・日和山」を復活させる為、日和山の歴史を学べる案内板の設置、山頂へのアプローチである階段、現在の山頂からの眺め意識した整備等が完成すると、山頂の「住吉神社」は地域住民が寄付金を集め再建しました。
2010年に「路地連新潟」と新潟市とで制作したマップ「新潟下町あるき・日和山登山のしおり」が発行されると、「みなとまち新潟の名所」として、まちあるきにて再び人々が日和山に登り始めるようになりました。

日和山を楽しんでもらうためのカフェ「日和山五合目」。
——そうして活動をする中で、「日和山五合目」というカフェを始めたいきさつを教えてください。
野内さん:そんな感じで、日和山にも足を運んでくれる人が増えたんですが、滞在時間がとっても短い(笑)。
せっかく来てくれたのに、さらっと見てすぐに帰ってしまう。これではもったいないと思い、日和山に登って下さった方々が楽しんでくれる場所を作りたいなぁと思ったんです。
最初は日和山などの歴史がわかる「日和山歴史資料館」のようなものを考えてました。

——それが、どうしてカフェになったんですか?
野内さん:調べてみると、もともと日和山には茶屋があったらしいんです。
いろんな年代の人たちに足を運んでほしいという思いもあったし、のんびり過ごしてもらえるような場所として「日和山五合目 hiyoriyama coffee」を2014年にオープンしました。

——そうだったんですね。ずいぶん凝った造りの建物ですよね。
野内さん:建物のデザインは私が考えました。
とにかく日和山を眺めながらのんびりお茶を楽しんでもらい、歴史を感じてもらいたいという気持ちがあったので、日和山が見える壁面は、可動式の大きな木製サッシにしました。日和山の風景を借景としたピクチャーウインドーですね。
開けると日和山のシンボルツリーでもある榎(えのき)の木陰越しにいい風が入るので気持ちいいですよ。
反対側にある小さな窓は、新潟港に出入りする佐渡汽船が見える様に配置してもらいました。

——カフェではどんなものを提供しているんですか?
野内さん:ウチの奥さんが店長でして、世田谷の「堀口珈琲」の豆を使用した、オリジナルの「日和山ブレンド」を提供しています。
苦味と酸味のバランスを楽しんでいただきたいですね。すっきりしているので、ケーキとの相性も抜群です。
それから、日和山の山頂にある「方角石」を模した「方角石アイスもなか」もあります。季節ごとに旬の果物とミルクを組み合わせています。
サクサクした皮の食感と、アイスのさっぱりした舌触りがバランス良く楽しめると思います。

進化する日和山物語。
——日和山をアピールしてきて、成果はいかがですか?
野内さん:おかげさまで、日和山委員会の取り組み「みなとまち新潟・日和山(進化する 日和山物語)」は、2014年「グッドデザイン賞」に選ばれました。
日和山の魅力を最大限に生かした整備と、そこに誘う町歩きの仕組みづくりが評価されたようです。
また2017年には、文化庁の日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~(新潟市)」の構成文化財のひとつとして日和山が選ばれました。
他にも、現在の小学五年生の理科の教科書(学校図書)に、新潟市の日和山が載った事ですかね(笑)。
——歴史じゃなくて、理科の教科書ですか?
野内さん:はい。気象のページの中で、天候を観測するために使われていた山として、各地にある中から新潟の日和山が紹介されてました。これは嬉しかったですよね。
——ずいぶん幅広く紹介されてますね。これからも日和山を盛り上げてください。
野内さん:これからも、日和山はもちろん、自分たちが住んでいる新潟の町の身近なものに目を向け、良さを楽しく伝えていけたらと思っています。ありがとうございました。

自分の身近にあった一見何の変哲もない山が歴史的意義のある場所だったことを知り、多くの人に伝えようと活動してきた野内さん。その活動が実を結び、日和山は新潟の重要な観光スポットにありました。これからも日和山をはじめ、下町の魅力を伝えてほしいですね。

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