横浜から下田に移り住んだカヌー選手
三条市スポーツ協会「岩瀬晶伍」さん

その他

2026.01.18

text by Etsuko Saito

三条市スポーツ協会の理事でもあり、カヌーの競技選手でもある「岩瀬晶伍」さん。結果が出なかったり、怪我に苦しめられたり、いろいろあった岩瀬さんのカヌー選手としてのこれまでを聞いてきました。

Interview

岩瀬 晶伍

Shogo Iwase(三条市スポーツ協会)

1985年神奈川県生まれ。高校卒業後、一般企業へ就職。19歳のときに新潟国体(2009年開催)に向けて三条市下田地域に移住。以来ずっと下田地域で暮らしている。2008年に「三条市スポーツ協会」に入り、2014年に事務局長、2024年に常任理事兼事務局長に就任。2019年にフランスで開催されたワールドカップに出場、また同年のジャパンカップ第6戦では準優勝を果たす。

カヌーポロからワイルドウォーターへ。
19歳、下田村に暮らしはじめる。

――岩瀬さんは、どんなカヌー競技をされてきたんですか?

岩瀬さん:今の競技種目は「カヌーワイルドウォーター」なんですが、高校時代は「カヌーポロ」という、カヌーに乗りながらハンドボールをするようなスポーツをしていました。高校時代にチャンピオンを経験したからか、「2009年に新潟で国体があるから、強化選手として勝負しないか」と当時の新潟県カヌー協会の理事長からお声がけいただきまして。それで、旧下田村に拠点を移しました。

 

――高校生チャンピオンになる強豪校の練習がどんな感じか、気になります。

岩瀬さん:野球好きな方はご存知だと思いますが、甲子園にも出場経験のある横浜商業高校が母校です。カヌーポロにも力を入れている学校ですが、今思い返すと「厳しい」というわけではなくて。練習メニューの組み立てや戦術は、監督にアドバイスをもらいながら仲間内で決めていました。遊んでいるような感覚ではあったものの、朝、昼休み、放課後と自主的に練習していました。

 

――岩瀬さんとしては、競技選手になるビジョンもお持ちだったんでしょうか?

岩瀬さん:いえいえ、そんなことまったく思ってもいなくて。それにたぶん、僕より優れた選手は大勢いたんだけど、みんな学生だったから「大学を辞めて選手になりませんか」とはいかなかったんじゃないですか(笑)。そういう意味で、高校卒業後に就職していた僕は身軽だったから声がかかったんだろうな、って思っています。でもお誘いがあったときは、すごく嬉しかったですよ。カヌーで食べていけるなんて想像もしていませんでしたから。

 

――よく地方へ行く決断をしたものだと驚きます。

岩瀬さん:高校時代の監督からは「中途半端な気持ちで行くんじゃないぞ。石にかじりついてでもお前はそこにいろ」と送り出されて新潟に来ました。その言葉が強烈に心に残っていたんですよね。両親ともに関東出身で、僕自身は横浜から出たことがありませんでしたから、カルチャーショックはかなりあったんですけど、「ここに残るんだ」って気持ちの方が強かったです。

 

――しかもそのタイミングで、カヌーポロからカヌーワイルドウォーターへと種目を変えなくちゃいけなかったわけですよね。

岩瀬さん:それがいちばん不安なことでした。カヌーワイルドウォーターは川を下る競技で危険が伴うので、ひとりでの練習は現実的ではないんですね。まずは環境を整えようと、指導者や選手の人脈づくりに奔走しました。新潟に来て1、2年経った頃に、練習の仲間に入れてもらえるようになって。シドニーのオリンピックコースで1ヶ月の合宿をしたのも、その頃です。そこで練習した後に、少しずつ大会にチャレンジしはじめました。

 

――カヌーポロで培った技術は、カヌーワイルドウォーターでも生きたんですか?

岩瀬さん:う~ん。陸上で例えるなら、「共通点は走ること」ぐらいなものなんですよね。基本技術は同じなんだけど、漕ぎ方も道具も違うので、カヌーポロ経験者としてのアドバンテージはほとんど感じたことがないです。きっと若くて何も知らなかったから、転身できたんですね(笑)。純粋に「カヌーがしたい」って気持ちでいたので、種目は何でもよかったんです。今振り返ると、なんて浅はかだったんだ、とも思いますけど、チャレンジしたから今があるわけで。「よい決断ができた」と思っていますよ。

 

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持ち味が明確になった30代半ば。
国内最高峰の大会で成績を残す。

――選手生活を送る上で、葛藤を感じたことはありませんでしたか?

岩瀬さん:新潟国体の前後は、生活が苦しかったです。スポーツの育成指導員としてお給料をいただいていたんですが、種目転向した側の人間ですし、結果が出せずに契約を切られてしまって。その後は市の臨時職員として働いたものの、それだけでは生活できずにアルバイトもしました。退勤後にトレーニング、それからバイトという生活に「この先やっていけるのか」と弱気にもなって。部活の同級生たちが就職した頃だったから、余計に惨めでしたね。今思い出しても、あの頃はやっぱり切ないです。いろんな思いをしながらなんとか暮らしてきて、2008年に「三条市スポーツ協会」に入りました。生活が安定して、アルバイトをしなくてよくなったので、僕にとっては大きな転機です。

 

――やっぱりスポーツ経験者の精神力は、お見事ですね。

岩瀬さん:精神力っていうか、あきらめが悪いだけだったような(笑)。新潟県と三条市の皆さんに大変お世話になった、という気持ちが大きいんですよ。「なんとか恩返ししたい」って気持ちが、今までの原動力です。

 

――肝心の2009年の新潟国体はどうだったんでしょうか?

岩瀬さん:実は国体の前年に、何度も脱臼を繰り返した左肩を傷めてしまって。このまま国体を迎えるのは危険だということで、手術を受けることにしたんです。2007年の秋田国体で、国体に初出場・初入賞を果たして、成長の手応えを感じていたときだったんですが……。結局、術後は競技力が低下してしまって、新潟国体では納得のいく結果を出せませんでした。それからしばらく、なかなか入賞できなくて。10年近くは、泣きたいくらい悔しい日々が続きました。結婚をして生活が変わり、仕事もどんどん忙しくなっていきましたけど、朝練は欠かさずに続けていました。そしたら、30代半ばでやっと自分の持ち味が見えてきて。2019年にフランスで開催されたワールドカップに出場し、ジャパンカップで準優勝をすることができました。

 

――「自分の持ち味が見えた」とは?

岩瀬さん:先輩から「ストロングポイントをよく理解しろ」とずっと言われてきたんですが、自分では何のことかさっぱり分からずにいたんです。それがたまたま競技で使用する船を変えてみたら、とても調子がよかったんですよね。「これが自分に合ったスタイルだ」と気づくことができて。成績として結果が出ているわけではありませんが、スキルが向上している手応えはあり、大会でも上位に迫るレースができるようになりました。

 

――それは船との相性がよかったということ?

岩瀬さん:というより、船を変えたことがきっかけで、落差があるコースや荒れているスポットを処理する技術が僕のストロングポイントだと分かったんです。上り調子の2019年、フランスのワールドカップではカヌーそのものを存分に楽しめました。フランスの川は激しい急流箇所が多く、スピードや体力があるから勝てるというような単純なコースではなかったんです。攻略が難しくて、パドリングの技量が試されるコースを経験できたことが大きかったですね。直後のジャパンカップも似たようなコースだったのでフィットできた、と思っています。

 

濁流を進む岩瀬さん。それにしてもすごい迫力。(写真はご本人提供)

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結果が出ない日々と、
それでも続けた理由。

――お会いしてご挨拶したときに「生涯スポーツとしてカヌーを続けるつもりです」とお話されていました。それくらい楽しいってことですか?

岩瀬さん:僕にとって、カヌーはライフワーク。仕事をする上でも、家族と過ごす上でも、すべてがカヌーにつながっていると思っています(笑)。競技ばかりしている時期もあったけど、今は社会人としての責任もあるしカヌーだけをやってはいられません。それでも続けているのは、やっぱり新潟県と三条の皆さんへの「恩返しをしたい」って気持ちがあるからです。思うような結果が出ずに苦しかった時期でも「やめよう」と思わなかったんだから、これはもう「生涯スポーツとしてずっとカヌーに関わって生きていく」ってことなんだろうと思っています。

 

――今は競技者として、どんなステップにいるとお考えですか?

岩瀬さん:選手として、どう競技に向き合うかを考える年齢になりました。でもまだまだ競技者としてカヌーを続けたいと思っています。大きな怪我を乗り越え、年齢と戦いながら、仕事も手を抜かない「40歳新人アスリート」として、新たな気持ちで競技に取り組んでいこうと思っています。

 

岩瀬 晶伍

所属:一般社団法人三条市スポーツ協会 

三条市新堀2113番地(三条市栄体育館内) 

0256(45)1150

※最新の情報や正確な位置情報等は公式のHPやSNS等からご確認ください。なお掲載から期間が空いた店舗等は移転・閉店の場合があります。また記事は諸事情により予告なく掲載を終了する場合もございます。予めご了承ください。

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