地域を大切に、季節の素材を楽しむ内野「旬菜バルkansichi」。
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2021.08.08
日本酒は純米酒、ワインは自然派ワインのみにこだわった「旬菜バルkansichi」。串揚げから自家製のサルシッチャ、シャルキュトリー、パスタまで幅広い料理を提供している正木さんに、お店をオープンするまでの経緯や料理への想いなど、いろいろ聞いてきました。

旬菜バルkansichi
正木 大介 Daisuke Masaki
1973年広島市生まれ。広島の高校を卒業後、大学進学で上京。42歳まで東京で飲食業の経験を積み、その後新潟に移住し「旬菜バルkansichi」をオープン。
軽い気持ちではじめた居酒屋のバイトで、料理に興味を持つ。
――正木さんは飲食業界はもう長いんですか?
正木さん:東京の大学に通っているときに、家の近くの飲み屋さんでバイトしたのがはじまりでした。最初は軽い気持ちだったんですけど、そのままどっぷりって感じです。ホールスタッフで入って、気づいたらキッチン任されるようになって、楽しくてそのままずっと続けていました。
――飲食の世界は、特にどんなことが楽しかったんですか?
正木さん:それまで自炊は軽くはしてたんですけど、包丁とかまともに握ったこともなかったんです。でもバイト先で教えてもらったら、自分で思っていた以上にできたんですよね。「キャベツを千切りして」って言われて、千切りなんていきなりできないよ……って思ったんですけど、「あれ、できるじゃん」みたいな(笑)。それでどんどん調子にのっていきました。
――料理センスがあったんですねきっと。
正木さん:新しいメニュー考えていいよって言ってもらえたり、ある程度自由にやらせてもらえたのも楽しかったですね。社員でもバイトでもみんなが意見を言い合って作っていくようなお店だったんです。自分が考えたメニューをお客さんに美味しいって言ってもらえたり、リピート注文してもらったりするのも嬉しかったです。
――じゃあ、働く場所としてもとてもよい環境だったんですね。
正木さん:当時の飲食業界は面白い人がいっぱいいて、働いている人も飲みに来る人もそうだったんですけど、すごいいろんな人と出会うことができたんです。飲み屋があることでそういう人たち同士がまたつながっていく面白さも感じていました。


30歳を機に、専門的に料理を学ぼうと決意。
――そのお店ではどのくらい働いたんですか?
正木さん:30歳くらいまでいたので、バイトから含めると約10年ですね。でもやっぱり居酒屋だし、専門的に料理を教わった経験がなかったので、ちゃんと勉強してみたいなって思うようになって。「このままじゃまずいだろ」みたいなのもあったりで、レストランに転職しました。
――転職先はどんなお店でしたか?
正木さん:ちょうど代官山にクラブ併設のカフェをオープンするって話があるタイミングで、立ち上げスタッフとして入らせてもらいました。そしたら料理長が半年で辞めてしまって、僕が料理長を任されることになったんです。学びたくて転職したのに、教えてくれる人がいなくなってしまったので……、結局自分で勉強することになりました。本店もあったのでそこのシェフに教えてもらったりしながら独学で学んできたので、ほとんど我流に近いですね。約5年働いて、その後は中目黒に似たような形態のお店をオープンして、6年間店長兼料理長として働きました。そのあとで新潟に移住ですね。
――料理の独学というのは、どのように?
正木さん:とにかく見て学ぶみたいな感じでしたね。シェフも「別にたいしたことやってるわけじゃないから」とか言って何も教えてくれないので(笑)。あとは見たことを帰ってから試してみての繰り返しでしたね。

料理だけでなく、店舗運営を身につけた料理長の経験。
――料理長となると、料理を学ぶだけじゃなく、調理場をまわしていかなくちゃですよね。大変だったんじゃないですか。
正木さん:スチームコンベクションオーブンという、スチームをかけつつオーブンも使える機械があるんですけど、それを使うと大量に仕込んだりとか温度管理が簡単にできるんです。例えばスチームで何分とかいう設定をしてしまえばとりあえず肉に火は入るんですね。基本的に肉を焼ける人員が僕しかいなかったので、火入れと味付けはある程度仕込みの時点でしておいて、あとは表面を焼いて提供する、みたいな。料理というかお店のまわし方みたいな部分は結構学ぶことができました。
――その頃から独立は考えはじめているわけですよね?
正木さん:お店の運営とかキャパもあるので、全部が全部手作りでできるわけではない、そういうジレンマみたいなのはずっとありました。仕込みきれない部分がどうしても出てきてしまうんです。だから、いつかひとりでできる小さいお店をしっかりやりたいなって思うようになりましたね。
――新潟に来られたのはどういった理由ですか?
正木さん:妻の実家が内野なんですよ。東京で結婚して娘が3歳になるときに新潟に引っ越してきました。地震の直後に娘が生まれて、正直東京では育てたくないと思っていて、いずれ広島か新潟とか地方で育てた方がいいよねって話をずっとしていました。当時は世田谷に住んでたんですけど保育園とかも入れなくて。妻の親が新潟にいるので、妻が気持ち的にラクっていうのもあって決断しました。
――新潟に来てすぐオープンだったんですか?
正木さん:お店は出そうと思ってましたけど、新潟の感じがまったく分からない中でいきなりお店をオープンするのはかなりリスクがあるなと思っていました。どの街で出すのがよいのかとか、どういうお店がよいのかとか。
――じゃあまずはどこかに就職したんですね。
正木さん:東京で働いていた会社に古町出身の方がいて、その方の同級生が古町でバルのお店を出したいってことでお話をいただいきました。それで新店舗の立ち上げに携わることになって、5年間働きました。

――どんなお店だったんですか?
正木さん:そこは炭火焼きをメインにしていて、あとはパテとかですね。そのあと独立するんですけど、お世話になったお店のすぐ近くに出すのもルールとしてよくないという思いもあったので、娘もまだ小さかったので住んでいる近くの内野に出すのがいいんじゃないかってなりました。1年間くらいずっと物件も探してたんですけどなかなかなくて、でもどうにかこうにかここを借りれることになって、去年の2月にオープンしました。
数ある個性的なお店の中の、ひとつの店として存在していたい。
――「旬菜バルkansichi」のコンセプトは?
正木さん:内野って飲み屋さんが結構あるんですけど、それぞれ個性があって、似たようなお店はあんまりないんです。そういう中で何をやろうかなって考えて、おつまみみたいな肉料理をワインなり日本酒なりと楽しんでもらいたいなっていうのはありました。


――他がやっていないことをやりたいっていうことですかね。
正木さん:他のお店と似たような店にしないっていうのは、いちばん大きいですね。うちはワインは自然派ワインのみ、日本酒は純米酒のみというかたちで他のお酒はほんとに少ないです。
――それは他店と差別化するために?
正木さん:内野ではしごして完結できるとか、他の街から内野にはしごしても完結できるというか、そういうところも考えました。内野には元気にお店やって発信している方がいっぱいいて、この内野エリアを盛り上げたいなって気持ちもすごくあって。僕にとっては地元でもなんでもないんですけど、娘にとってはここが地元になるので、寂しい街になってしまうのも嫌だなって思うので。今までこういう感じのお店、なかったよねっていうのがあれば、多少、近隣からも人は来るかもしれないし。内野エリアで3店舗くらいはしごして、小針とか青山の方に帰って行かれる方とかも結構いらっしゃって、そういうのってすごい有難いことだなって感じています。
――個人ではなく、エリア全体としてお店をとらえているんですね。
正木さん:内野は多くの店舗が駅前に集中しているので、電車で来て電車で帰ることが簡単にできますよね。それが内野のよさとか強みかなって思うんです。〆にラーメン食べて帰れるし、結構選択肢は多いんじゃないかな。そういう場所のひとつになれれば、という気持ちがあります。
意図せずに看板メニューとなったパスタ。
――看板メニューは何ですか?
正木さん:本当はあんまりパスタを打ち出してなかったんですけど、コロナ禍もあって夜に人があんまり出なくなっているので、じゃあランチやろうって思ったんです。でもひとりなんで定食やるのは手間がかかり過ぎるので、パスタだけのランチをはじめたんですよ。そしたらパスタ熱がすごい上がってしまって(笑)。もともと「お任せでパスタとかも作りますよ」ってスタンスでやってたんですけど、夜も普通に皆さんランチメニューを取り出して「これ頼める?」みたいな感じで注文されたりとかして(笑)


――裏メニューというか、裏技みたいに(笑)
正木さん:「よそで飲んで〆のパスタだけ食べに来てもいい?」っていうお客さんもいるので、全然いいですよそれは、って感じで(笑)。多く出るってことが分かってきたので、こちらも準備ができますし。昔はそんなパスタを推してなかったからお湯も常に沸かしていなかったんですけど、最近はずっと火かけるようにして、いつ注文されても「もうすぐできますよ」みたいになってます(笑)
――じゃあすっかり人気メニューなんですね。
正木さん:他に美味しいお店いっぱいあるし新潟にも好きなお店いっぱい知ってるので、うちのなんてそんなでもないって思ってるんですけど(笑)。でも、うちの妻はすごい好きで「絶対やったほうがいい」ってずっと言われていたんですよ。ランチのお客さんにも、常連さんができました。
――パスタを作る上でこだわりみたいなのはありますか?
正木さん:新潟は食材が豊富なので、できるだけ地元の旬の食材を使ってパスタを作りたいなって思ってます。例えばジェノベーゼソースとかもバジルではなく、春菊や青紫蘇で作ってランチで提供したりしています。新潟の食材ってあんまり県外に出ていかないんですよ。

――そうなんですか?こんなに美味しいものたくさんあるのに。
正木さん:海産物に関しては、ほとんど新潟消費です。越後姫とかも基本的にそうそう県外には出てないと思います。本当に美味しいものがいっぱいあって、地元の人たちが美味しいもの食べてるみたいな感じなんでしょうね。だから新潟に来た頃は知らない食材が多かったですよ。「越後姫って何?」って感じでしたし。あといちじくとかル・レクチェもそうですね。東京でル・レクチェ使いたいってなったら結構大変で、農家と直接やりとりしないといけないと思います。東京の市場では見かけたことないですね。
――県外の方にそう言われると嬉しいですね。
正木さん:こんなに美味しいものたくさんあるんだったら、よその県からわざわざ食材取り寄せる必要もないなって思ったんです。ここをやる前のお店で食材のことは、一から業者さんと話をしながら教えてもらう感じだったんで。「かきのもと」もこっちきて始めて食べて「これなんですか?」「菊!?」「へぇー」みたいな(笑)。でもすごい美味しくて。そういう発見とか驚きがすごい多くて楽しいですよね。
生産者さんが近くにいる贅沢さに気づく。
――東京時代にはわからないことですね。
正木さん:東京にいたら何でも翌日には届くんです。でもそれが本当に恵まれていることなのかどうなのかって疑問に思うようになりました。地元で採れて「そろそろこの時期だね」なんて話しながら常に口にできることの方がよっぽど贅沢なんじゃないかなって思います。東京で全国のいろいろな食材を触らせてもらったからこそ、こういうふうに思えようになったのかもしれないですけど。新潟の食材にはこだわりたいなって思っています。


――生産者が近いのは良いですよね。
正木さん:それこそ農家さんとかも、直接やりとりさせてもらっていると作っている人の顔もちゃんと見えるのがすごく重要だし贅沢だなと感じます。お肉も、これは宮城の登米市から仕入れている仙台牛なんですけど、代官山で務めていたときのバイトの女の子がそこに嫁いだんですよ。そういうつながりとかも大事にしています。誰が作っているか分かっているお肉を使いたいなって思っています。
――食だけでなく人とのつながりを大事にされているんですね。
正木さん:子ども食堂のお手伝いとかもさせてもらったりして、そこに集まる人たちとお話ししていると、結局、地域を元気にしたいから半分ボランティアみたいな感じで活動されていたりするんです。コロナ禍もあって前みたいに自分のお店さえ繁盛すればいいみたいな考え方では、ちょっと難しいんじゃないかなと思ってきていて、共存共栄じゃないですけど、みんなで街を盛り上げれば必然的に人も集まるし。俯瞰して物事を考えたほうがいいなと思っています。
――自分だけでなく地域の活性化が必要だと。
正木さん:ものすごい大きいことを考えているわけじゃないんですけど、内野の皆さんも結構僕と同じ考えの方がいて、「内野を元気にするには」とか「内野に人を呼ぶには」みたいな話はよくしますね。僕は地元が内野じゃないですけど、お店を出すときはすごく歓迎してもらえましたし。「内野でお店やろうとしている人がいるなんてすごい嬉しい」って言ってもらえたんです。こういう言葉をかけてもらえたのは僕としてもすごく嬉しかったですね。
――今後の目標は?
正木さん:お店はお店で、日々やっていくのは当たり前なんですけど、そこにプラスアルファで何かしたいです。子ども食堂やられている方たちと次はどういうことやれるかなって話をよくするんです。例えばお店同士のコラボメニューとか作って、それぞれのお店で売るのではなくてどこか他の場所で販売してもらうとか。それで「内野ってこんなお店があるんですよ」っていう紹介できるといいなって思います。今、大きいイベントができないので、僕らができる小さい動きかもしれないけど、やっぱり来てもらえないなら届けるしかないなって思っているので。なんか面白いことやりたいなって思っていて、やってみてダメならやめればいいっていう、軽いノリでいろいろ試してみたいです。


旬菜バルkansichi
新潟県新潟市西区内野町552
025-201-8387
ランチ: 11:30-13:30(火~金)11:30-16:00(土日)
ディナー: 16:00-23:00
不定休
お電話かインスタグラムDMからご予約頂けます。
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