種類が豊富でクオリティが高い、新潟のラーメン。新潟にはラーメン好きが多く、ラーメン消費量もお隣の山形と全国トップ争いを繰り広げているほどです。そんなラーメン人気にひと役買ったのが「新潟ラーメン伝道師」こと片山貴宏さん。雑誌やテレビを通じて、多くに人達に新潟ラーメンの魅力を伝えてきました。今回は「中華そば石黒」さんで「極にぼ」中華そばをいただきながら、片山さんからラーメン愛溢れるお話を聞いてきました。
ミナシル
片山 貴宏 Takahiro Katayama
1978年糸魚川市生まれ。大学時代より放送作家としてテレビ番組の制作に関わる。2004年より株式会社ニューズ・ラインで『新潟Komachi』『新潟WEEK!』の編集に携わり、『新潟WEEK!』では編集長も務めた。2024年に独立し、2025年度からは新潟拉麺協同組合の副理事長兼広報を務める。
——片山さんって、これまでかなりの量のラーメンを召し上がっていますよね。食べるときに心掛けている「流儀」があったら教えてもらえますか。
片山さん:そんなに大げさなものじゃないんですけど、まずはかき混ぜたりしないでスープの表面から味わうようにしています。つけ麺も、麺をつけだれにじゃぶじゃぶつけず、軽くつける程度にして麺の風味を楽しむようにしているんです。お店がいちばん美味しい状態で提供してくれているわけだから、そのままを味わうようにしていますね。
——片山さんって、もともとラーメンがお好きだったんですか?
片山さん:じつはラーメンには特別な感情を持っていなかったんです。……というよりも、食べものへの興味が薄かったんですよね(笑)。それが変わったのは出版社に勤めて、ラーメン店への取材をするようになってからなんです。それまでは東京でテレビ番組の放送作家をやっていました。
——えっ、テレビ番組をつくっていたんですか?
片山さん:大学在学中から情報バラエティ番組に携わっていたんです。とても厳しい業界だったので「お前の代わりはいくらでもいる」と言われながら、他には無いような斬新な企画を考えようと必死でやっていましたね。
——そんな片山さんが、新潟で雑誌の編集をすることに。
片山さん:出版社に入社して『新潟Komachi』というタウン誌の仕事をはじめました。最初から「これまで掲載されたことのない県内のラーメン店を、地元の人に聞いて50軒紹介する」というミッションを与えられたんです。あちこちの駅前で『新潟Komachi』片手に張り込みをして、通りがかりの女子高生にオススメの店を訊ねたりしていました(笑)
——なかなかハードルの高いミッションですね(笑)
片山さん:取材拒否を続けてきたお店も多かったんですけどね。この取材を通して交渉術を学ぶことができましたね。いきなりお邪魔したら断られるだけなので、地元の常連さんから紹介していただいて訪ねるんです。その経験は『新潟WEEK!』で特集した「取材拒否のお店」を紹介する際にも役立ちましたね。
——なかなか攻めた特集をやったんですね(笑)
片山さん:王道路線の『新潟Komachi』に対して『新潟WEEK!』では違った切り口の紹介を意識していました。2006年からラーメン店を紹介する「新潟麺辞苑(にいがためんじえん)」という連載をはじめたんですよ。そのときからラーメンの奥深さを知って、どんどん魅了されるようになっていきました。
——具体的にはどんなことがあったんですか?
片山さん:あるお店の取材で、塩ラーメンをつくる作業を見せていただいたんです。そのラーメンはダブルスープだったので、動物系のスープを丼に注いでから魚介系のスープを合わせるんですけど、その作業がとても慎重なんですよ。どうしてなのか聞いたら、動物系のスープに対して魚介系のスープは脂が少ないから上に浮いて、上下に層が分かれるんですね。ふたつの味を楽しんでもらいたいという気持ちで、そのようにつくっていたわけです。
——なるほど。
片山さん:それを聞いて、頭をハンマーで殴られたような衝撃でした。それまでラーメンをかき混ぜてから食べていた自分を反省したんです。それと同時に、つくり手の思いを知ってから食べることで、もっと美味しくラーメンを食べることができると気づきました。それが「新潟麺辞苑」の「読んだ後にラーメンを食べると10倍美味しい」というコンセプトになったんです。
——ラーメン店を取材する際は、どんなことを心掛けていたんでしょうか?
片山さん:お店へのリスペクトは常に忘れないようにして、事前に勉強してから伺うようにしていましたね。あとメモは取らずに自然な流れで話を聞いて、リラックスした雰囲気で取材するよう心掛けていました。記事をつくる際には「なぜ、そういう味を選んだのか」「どうして、そういうつくり方をするのか」といったストーリーを大切にしていたんです。
——大変勉強になります。その後は『新潟WEEK!』の編集長に就任されましたよね。
片山さん:それまでは、ただ面白いと思うことを考えていたんですけど、印刷費や取材費といった予算管理もするようになったことで、お客様あってのメディアだということをより強く意識するようになりました。その経験がラーメン専用アプリ「ラ〜ポン」につながっていったんです。
——考え方の幅が広がったわけですね。「新潟ラーメン伝道師」という肩書きは、どういう思いで名乗ることになったんでしょうか?
片山さん:『新潟WEEK!』が休刊になって「編集長」という肩書きが使えなくなっちゃったんです。テレビをはじめとしたメディアでラーメンを紹介する際に、編集長に替わる肩書きはないかと「ラーメン研究家」「新潟ラーメン非公認大使」などいろいろ考えた末に「新潟ラーメン伝道師」と名乗るようになりました。
——そうだったんですね。伝道師として、様々な場面で新潟のラーメン業界を盛り上げていますよね。
片山さん:いかに面白い奴だと思われて必要とされるかを考える、放送作家をやっていた頃の経験が役に立っていると思います。「ラーメンといえば片山」と言ってもらえるよう、また「新潟ラーメン伝道師」の肩書きに恥じない活動をしていきたいです。
——昨年、出版社を退社して独立されたのは、どういう思いがあったんでしょうか?
片山さん:ラーメン店の取材を重ねるうちに相談を受けることも多くなって、お店のサポートなんかもやっていたんです。でも出版社で管理職になったこともあって、当然ですが会社員として求められることが変化していきました。その中で自身が積み上げてきたラーメンの経験やつながりを生かして、もっと必要とされ続けるために、新潟ラーメン業界を盛り上げていくために、独立することにしました。
——さすが「新潟ラーメン伝道師」です(笑)。今はどんなお仕事をされているんですか?
片山さん:今までの経験を生かしながら、ラーメン店を中心に飲食店の広報をお手伝いしています。お店の特徴や悩みに合わせた広報の方法を一緒に考えて、ご提案させていただいています。また今年から「新潟拉麺協同組合」の副理事長兼広報として、「ラーメン」を「米、寿司、酒」と並ぶ新潟のコンテンツにするための活動に取り組んでいます。
——それは心強いですね。どんな活動をしていく予定なんですか?
片山さん:新潟ラーメンの価値や知名度をより高めていくために、開業支援や事業承継、勉強会などによる次世代育成。そしてイベントやさまざまツールを使った発信。あとは新潟のご当地ラーメンとそれにまつわる産業や観光をめぐるツアーも考えていきたいです。
片山貴宏