僕らの工場。#8 桐の優しさを大切に「桐建材株式会社」
ものづくり・僕らの工場。
2019.10.26
とにかく、“桐”と“人”を愛している。
「桐はね、優しいの。とにかく、その優しさがいいの。だから僕は桐しか使わない」取材のはじまりと同時に聞いたその言葉が、とても印象的でした。語ってくれたのは、桐建材株式会社の呉社長。桐建材株式会社はその言葉の通り、桐だけを専門に取り扱う建材会社であり、家具製造メーカーでもあります。
桐建材株式会社の商品といえば、「桐らくね」という桐でつくられた折りたためるベットです。この商品は、桐のもつ「優しさ」を伝えるため、「ワンタッチでおりたためる、軽くて、コンパクト、さらに移動もらくらく」というコンセプトで呉社長自ら開発、デザイン、試作を重ねて2011年に完成した、日本一軽い木製桐の折りたためるベット。そんな、使う人への「優しさ」だけを考えて作られたこの商品は、使い心地や機能性、デザイン性を評価され全国の200以上の旅館などで採用に至り、今では全国の百貨店や大手販売店、通販サイトや自社サイトでもの凄い勢いで売れている大ヒット商品なのです。

桐建材株式会社
呉 達仁 Go Tatsuhito
代表取締役社長。中国・北京市に生まれ、大学では絵を学び、留学生として東京学芸大学、新潟大学大学院(美術教育専攻)を修了。大学卒業後は大手電製品製造販売会社にて資材のデリバリー及び製造管理を学び、桐製品の製造販売会社に転職。この時にはじめて“桐”という素材に出会い、その虜になる。その後、桐の魅力をもっと多くに人に伝えたいと考え独立して現在の桐建材株式会社を設立。

日本に来て知った「優しさ」のありがたさ。それが原点。
ーー今日はよろしくお願いします。まずは日本に来られた当初のお話から聞かせてください。
呉さん:私は、世界を見てみたいと思って日本に来たんですね。アメリカには親戚がいたけれど英語が得意でなくて、東京に行く友達がいたからたまたま。日本には漢字があったからなんとかコミニケーションはとれました。でも、すごく心細かった。その中で、知らない私にも良くしてくれる日本人に触れて、そこで「優しさ」のありがたさを知ったんだね。今でもその人達の優しさは忘れてないです。
ーー留学生として美術を学ばれたんですよね。その後、社会人として仕事をされているときに桐と出会ったと。
呉さん:新潟にやってきて会社勤めをしたんだけれど、桐と出会って、すごく「優しい」素材だな。って思ったんですよ。そこからは、もうとにかく桐だけ。

ーー桐の魅力ってどんなところなんでしょうか。
呉さん:例えば、桐はスポンジみたいだから肌触りが良くて人を傷つけないでしょ?あとは熱伝導率が低いから、ほら!(冷蔵庫から出した桐と違う木材の見本を持たせてくれて)桐は外気温の影響も受けにくいの。
ーー確かに、桐の方はすぐ温かくなりました!
呉さん:でしょ? 桐は人が触れても体温を奪わないの。桐の家に住めば、体の調子だってよくなる。元気になりますよ。あとは調湿効果もあるから結露やカビを防ぐし、人にとってはとても素晴らしい素材なんですね。
ーー桐の素材としての機能の高さに惚れ込んだんですね。
呉さん:そう!色々な木材は知っていたけど、桐に出会って、その良さを知ってから「こんないい木材は他にはない」と思って。それからは桐だけ。海外の有名プロダクトデザイナーさんが自分の家のフローリングを全部「桐」にしたいってウチの桐フローリングを手配したんだけど、これどういう意味か分かりますか?
ーーすごいですね。でも…すみません、分かりません。
呉さん:そのデザイナーさんは仕事で色々な木材やその性質を知ってる中で毎日仕事をしているから、木材の善し悪しを分かった上で自分の自宅を桐にしたということ。桐が人の体に良いものだって理解してくれてるんだなって思いましたね。つまり、それだけ「桐はいい」ってことですよ。桐は傷つきやすいっていうデメリットもあるけれど、それ以上に人に優しい素材だから。だから私はこの桐の優しさを多くの人に伝えていきたくて会社を始めたんですね。とにかく桐はすごいんですよ。


こんな世の中だからこそ、あきらめずに桐のベッドの優しさを。
ーー「桐らくね」はどういう経緯で生まれたんですか?
呉さん:これはね、桐ってすごく軽いでしょ? 昔、パイン材で折りたたみベットを作ってくれないかって話があったんだけど、それなら桐使ったほうがいいよ、って言ったら桐はダメだってなって。でも、絶対に桐の方がいいと思ってたから自分で作ろうって思ったの。それからは自分で試作を繰り返して、でも自分が思い描く桐のベットがなかなか実現できなくて、一度は断念したんですよ。
ーーあきらめちゃったんですか。
呉さん:東日本大震災があったとき、知り合いが被災して、原発放射線の心配でウチに避難をしたいとお願いがあった。3歳とゼロ歳の小さい子供を連れてうちに来たんですよ。その時、床の上で授乳しているのを見て、辛いそうにしていたので、これはやっぱりベッドが必要だろう、と思ったんですよ。こんな世の中だからね。だからもう一度作ろうと決めたんです。
ーーちなみにどんな部分で断念して、どういうふうに克服したんですか?
呉さん:桐のことはよく知っていたから、桐の弱い部分というのは技術的に解決できましたよ。ほら、大人が何人乗っても大丈夫ですよ。あとプロダクトとしても他社のものを色々調べて、コンパクトに使いやすく完璧なものが出来た。でもキャスターの部分がダメだったんですね。いくら桐が軽いからって言っても床にあとがつくでしょ? でも、たまたま家具専門店に行ったときに学習椅子を見て、そのキャスターが重みに合わせて沈んでるのに気づいたんですよ。「あっ!これだ」ってなって、でもこのキャスターは特殊で、他では手に入らないの。だからこのキャスターを作っているメーカーの社長さんに直接手紙を送ったんですね。想いを伝えたんですよ。普通だったらあり得ないですよ。まだ作り始めたばかりの会社で、しかも小ロット取引でね。でも、その手紙を読んでくれたメーカーの社長さんが、新潟まで来てくれたんですよ。ビックリでしょ? それで快く受けてくれてね。本当にここでも感謝ですよ。


桐は優しい。そのことをこれからも伝え続けたい。
ーーすごくいい話ですね。いよいよ完成して、世の中に発信されることになるわけですけど…。
呉さん:2011年に卸とネットで正式に「桐らくね」を販売するんだけど、最初はなかなか売れなかったんですよ。でも、注文される人が横浜方面の人が多くて「なんで横浜の人が多いんだろう?」って思って、そしたら自分で調べてみたくなってね。それで、横浜に車で行って、横浜とはどういうところか?なぜ売れるのか?ってね。そしたら新潟と違うでしょ?広さが。横浜の知り合いに聞いたら布団で寝てる人が多いって言うんだよ。なるほど!って思ってね。それから、東京の展示会に出店したりしてね。そしたら、大手販売店のバイヤーさんが目をつけてくれて。とくに、折りたたみ時の軽さにビックリして、「これすごいですよ」って。それからこのベットの良さを伝えるために実演販売をしてくださいって言われてね。やっぱりただ置いてあるだけだと本当の良さは伝わらないんだなって、この軽さや使いやすさ、床が傷まないことだったりね。そしたら、お客さんも感動してくれて。このベットの高さも「起きる時に、立ち上がりやすい」高さに設計しているから今まで布団で寝ていたときとは違うでしょ?
ーー手応えがあったわけですね。でも一度作ったらそのままではなくて、大ヒット商品でも日々改良されているそうですね。
呉さん:とにかく、優しさが大切なの。そして、桐は優しい素材だから。それと知ってもらうこと、きちんと伝えることが大切。僕は、絵が好きで、デザインも好き、昔は仲間や家族から何してんのよって言われたけど、ようやくここにきてつながったんだよね。作ること、伝えること。そして色々な人の出会いとその優しさがあったから、だから今は桐を通して多くの人にその良さと優しさを伝えて行きたいですね。

「桐らくね」は、女性でも持ち運びができる総重量の軽さ(従来品の半分ほど)、桐の持つ柔らかさや寝蒸れを低減する調湿効果、人差し指をかるく動かすだけで折畳める機能性などに優れ、床や畳を傷つけない工夫や日本人の立ち上がりやすさなど細かなディティールまでしっかりと設計されています。でもいちばんすごいのは、それらがすべて、呉社長の桐にかける想い、桐で人に優しさを届けたいという気持ちから生まれていることです。ものづくりへの愛情の強さが本当に胸に響く取材でした。社長、ありがとうございました!

桐建材株式会社
新潟市西蒲区遠藤863-1
0256-77-8950
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