燕市の「まんなか商店街」にオープンした「まちトープ」。ランチメニューもあるカフェにイベントスペース、仕事や勉強ができるシェアラウンジなどを兼ね備えた複合施設です。施設の発足から携わり、運営者でもあるデザイナーの嶋田さんに、いろいろとお話を聞いてきました。
まちトープ
嶋田 雅紀 Masanori Shimada
1992年燕市生まれ。「まちトープ」代表。長岡造形大学を卒業後、新潟市内のデザイン会社に勤務。26歳で独立し「シマダマサノリデザインスタジオ」を立ち上げる。2024年3月「まちトープ」オープン。
——立派な建物ですね。
嶋田さん:この場所には、昔家具屋さんだった老朽化した建物がありました。商店街の再開発プロジェクトの一環でこの建物を壊し、街に公共施設のようなみんなの居場所を作ろうと新たに誕生したのが「まちトープ」です。
——どういった経緯でオープンに至ったのでしょう?
嶋田さん:「まんなか商店街」を再開発するプロジェクトがあって、いくつかの古い店舗を新しく生まれ変わらせようと活動しています。地元の企業さんを中心に商店街のみなさんが力を合わせて「まちトープ」が形になりました。コンセプト立案から運営管理まで私が担っているので、「民設民営」の公共施設です。民設民営っていうのは、おもしろいポイントかなと思いますね。
——嶋田さんは「まちトープ」の代表でもあり、デザイン事務所を運営していらっしゃいます。どういう流れで地域の活動に関わるようになったんですか?
嶋田さん:私のデザイン事務所では、土着的というか、地域に根ざした仕事ができたらいいなと思っています。地域の企業や行政の皆さんと一緒に仕事をさせてもらっている中で、必然的に地域振興というテーマにぶつかりました。空き家活用や移住といったことに向き合いデザインの仕事をしていると、地域振興について考えずにはいられなくて。それで、このようなプロジェクトにもどんどん顔を出すようになったんです。そして、この施設のプランを再開発の音頭をとっている企業様に提案しました。空き家だった土地を新たな施設に生まれ変わらせようと考えたんです。
——それはどんなプランだったんですか?
嶋田さん:今、いろいろな商店街で私のような若手が新しいお店をどんどんはじめています。「まんなか商店街」でも、花屋さんや古着屋さん、カフェが続々とオープンしてはいるんですが、まだまだ廃れている印象がありました。それを変えたいと思って提案したプランです。注目したポイントは「人が滞留する場所がない」というところ。新しいお店はあるんだけど、結局その商店街に居場所がないという問題がありました。それとリノベーション物件ばかりで、店内は素敵だけど、外見は変わっていないところも多くて。それも寂しく感じてしまう原因だと思ったんです。今回のリニューアルでは、「新築を建てる」と決まっていたので、幼馴染の建築士と一緒に施設のデザインにも力を入れました。見た目にもこだわった場所で、人がゆっくり過ごせる居場所を作っていこうという提案です。
——それ以外のエッセンスは何かありました?
嶋田さん:徹底的に居心地をよくするっていうのと、デザイン的に美しい場所にすることです。「え?! ここ田舎じゃないじゃん」っていう驚きがありつつ、ゆっくり過ごせる場所にしたかったんですね。それから、ただの居場所じゃなくて、来た人が街とつながれるようにしたいなって。
——街とつながる。素敵です。
嶋田さん:カウンターで私とおしゃべりするだけでも街の人とつながれますよね。この施設内では、編み物や絵を描いている人がいるので、そういう人たちが個展を開けるように物販スペースも構えました。一箱オーナー制の図書館でも発信ができます。ここにいる人たちが「何かしたい」と思ったときに発信できるようする。そうすることによって、商店街のコンテンツが増えるし、ただの居場所ではなく「つながる」ことができます。そうして生まれたものが、例えば雑貨屋さんのようになって、そこが話題になれば、さらに人を集めてくれるんじゃないかって期待があります。スモールビジネスからスタートして、商店街の次の担い手になってくれたらいいなって思いもありますね。
——「まちトープ」の隣にあるコンテナはいったい?
嶋田さん:あそこは学生が無料で使える自習室です。隣で楽しそうに働いている大人を見て、「この街は捨てたもんじゃないな」って思ってもらいたいんですよ。
——いいですねぇ。
嶋田さん:というように、全体的なつながりを意識して、街が盛り上がる生態系をこの施設で作り直そうと取り組んでいます。
——改めて、施設の概要を教えてください。
嶋田さん:「まちトープ」は、民設民営の複合施設です。何が複合しているかというと、カフェとシェアラウンジと図書館、レンタルキッチン、自習室、それとショップスペースの6つです。
——それぞれ利用される方の層が違って、幅広そうですね。
嶋田さん:そうなんですよ。畳のスペースもあるので、赤ちゃん連れの方もいらっしゃいます。生後2ヶ月の赤ちゃんから80代のおじいちゃん、おばあちゃんまで利用してくれています。大きく売りにしているのは、ドリンクさえ購入していただければずっと過ごしていいってところです。会員制でも、利用代をいただくのでもなく、ドリンク1杯で過ごせる場所づくりをしています。
——お聞きしていいものか迷いますが、収益は得られるんでしょうか?
嶋田さん:ドリンクの売り上げ、テナント料金、貸切利用をする場合のレンタル料などで収益を得ています。いくつかの店舗がちょっとずつ場所を共有して、パブリックスペースとしても活用できているって感じです。フードコートみたいに「ちょっとずつ席を貸し合っている」っていうとイメージしていただきやすいですかね。すごく儲かりはしないですけど、問題なく運営できています。
——オープン後の反響はいかがですか?
嶋田さん:「居心地がいい」「おしゃれ」「ずっと居られる」「こんな場所が欲しかった」という声をたくさんいただきました。はっきりと数値化できているわけではないですけど、若い方が商店街を訪れるようになったと思います。意外なところでは、イベントを屋内で実施できるようになって、騒音問題の解消にもつながっていると地元の皆さんからは喜ばれました。
——ドリンクを頼めば滞在OKというルールは、コーヒーチェーンと同じではあるんですけど、もっと落ち着く感じがしますね。
嶋田さん:コーヒーチェーンとの違いは意識しています。ただの居場所ではなく、街の気配を感じられて、街の何かとつながる可能性を秘めているのが「まちトープ」です。各席でコンセント利用ができる、お冷が置いてある、ソファー席があるといった、普通だと利用者に長居して欲しくないから省かれているサービスも提供しています。断熱をしっかりしていて快適ですし、一般的なコーヒーチェーンが行っていないようなところまで頑張っているから、居心地よく感じてもらえているのかなと思います。
——「まちトープ」がもたらす効果としては、どんなことを期待していますか?
嶋田さん:施設のコンセプトは、「田舎暮らしをより豊かに」です。この街の魅力や豊かさを改めて感じて欲しいという思いを込めています。「まちトープ」という施設名は、「失われかけたこの商店街の生態系を取り戻すビオトープになって欲しい」と考えて名付けました。その名の通り、地域の皆さんの暮らしを支える場所にしていきたいですね。
——さて、今後はどんな展開を計画されているんでしょう?
嶋田さん:いろいろな種を蒔いたつもりなので、これから新しいショップが増えて欲しいし、訪れる人も増えて欲しいと思っています。「まちトープ」のような施設をもう1店舗拡張することにも取り組みたいです。
——嶋田さんの頑張り、これからも応援しますね。
嶋田さん:街に居場所を作りたい。それも人とつながれる公共施設を。そう思って活動しています。しかも民営で取り組むっていうのは、「すげぇ挑戦だな」と自分でも思います(笑)。この活動を皆さんがおもしろがってくれると、私が「まちトープ」で実現したいことが叶います。しかも、街が豊かになりますし、みんながハッピーになれると思うんですよね!
まちトープ
住所/燕市宮町2-26
営業時間/10:00〜20:00
定休日/火曜日