作品とともに、味わうひとさじ。
美術館の中にある「ひとさじ喫茶室」
食べる
2026.01.07
昨年、新潟市美術館の中にオープンした「スープとお茶 ひとさじ喫茶室」(以下、ひとさじ喫茶室)。ここでは、作品の展示に合わせたスープを楽しむことができます。スープやごはんをつくっているのは、過去にThingsで取材した「atori」の天野さん。松本を拠点に活動するデザイナーの小林さんとともに、お店をつくったきっかけやスープのことなど、いろいろお話を聞いてきました。
天野 千尋
Chihiro Amano(ひとさじ喫茶室)
1987年阿賀野市出身。新潟にUターン後、2022年に「atori-アトリ-」をオープンし、お弁当の販売やケータリングなどを行う。「ひとさじ喫茶室」ではメニューの開発や調理、接客などを主に担当。最近、牛乳をスープに入れるのが好きなんだとか。
小林 萌
Moe Kobayashi(ひとさじ喫茶室)
1988年長野市出身。松本市に自身のデザイン事務所である「vent de moe」を設立。グラフィックやプロダクトデザイン、パッケージのデザインを手掛ける。「ひとさじ喫茶室」ではイベントの企画や店舗のツールやポスターなどのデザイン制作を主に担当。味噌を使ったスープが好き。
きっかけは、小林さんのある経験。
ふたりが新潟で、お店をはじめるまで。
――今日はよろしくお願いします。まず、おふたりが出会った経緯を教えてください。
小林さん:天野さんが「atori」をオープンするとき、お店のロゴやお弁当の掛け紙、箸袋など、お店の見た目のアートワークを担当させてもらったことがきっかけですね。
天野さん:以前から小林さんのことは知っていて、素敵なデザインをつくられているなって思ったんです。いざ、自分のお店をつくることになったとき、ダメ元で小林さんにお願いしようと思ってお声がけしました。
――「atori」のオープンから約4年、今度はおふたりでお店をつくることになったのは?
小林さん:私が天野さんに「一緒にスープをつくりませんか」って声をかけたのがきっかけです。子育てをしながら毎日食事をつくることって、すごく大変だけど、とても大事なミッションだと感じていました。でも、小さい子どもって食わず嫌いをしたり、食べるのに積極的な気持ちがなかったり、ごはんをつくるのに苦戦することもあったんです。
――ふむふむ。
小林さん:私はよく、スープをつくってストックしているんですけど、これが自分にとってすごく助けになっていたんです。冷凍したスープをお届けできたら、私みたいな、食事づくりに苦労している人の負担を、少しでも減らせるんじゃないかなって思ったんです。
――普段、長野でお仕事をされている小林さんが、天野さんに声をかけたのはどうしてなんでしょう。
小林さん:最初にお仕事をしたときから、いい感じにコミュニケーションができたなと勝手に思っていて(笑)。天野さんがつくるお料理は、食事をすることが楽しい、嬉しいって思えるような、素敵なビジュアルが印象に残っていました。天野さんにスープをつくってもらえたら、日々の食事の手助けになるだけじゃなく、食事をする楽しさもお届けできるのでは、と思ったんです。
天野さん:嬉しいです。声をかけてもらってから、「ひとさじ」というブランドを立ち上げて、オンラインで冷凍スープの販売をはじめたんです。それを1年くらいやってきて、今回ふたりでお店をつくることになりました。
――「ひとさじ」の実店舗ということですね。
天野さん:「このブランドをこの先どうしようか」と考えたときに、食べてくださるお客さまに近い状態で提供したいなと思ったんです。ブランドを立ち上げたときは、感染症の影響もあって冷凍っていうかたちがよかったんですけど、だんだんスープの食べ方もご提案したいと思いはじめて。最初は「atori」の店舗を使って、「ひとさじ」のスープを楽しんでもらうイベントを、そろりとやっていました(笑)
――オープンした実店舗は、新潟市美術館の中にあります。
天野さん:スープって、じっくり味わってもらいたい料理なんです。美術館でいろんな展示を観た後に余韻に浸る感覚と、スープを味わって食べてもらう感覚が重なって、いいかなと思って。ちょうどこの場所が空いたので応募して、今に至ります。


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忙しい日々の中で、ほっとひと息。
鑑賞の余韻に浸れる、スープとお茶。
――「ひとさじ喫茶室」では、天野さんはお料理、小林さんはデザインを主に担当されています。
小林さん:それぞれの役割はもちろんあるんですが、お店のビジョンやコンセプトは一緒に考えています。ここは美術館の一角にあるお店だから、「芸術や文化に触れつつ、お料理を通して自分の生活にちょっと目を凝らすきっかけをつくりたい」って思っているんです。生活することって、大変じゃないですか。そんな中でもちょっと視線を上げて、ひと息つけるような場所でありたいなと思っています。
――名前に「喫茶室」をつけたのは、どうしてなんでしょう。
小林さん:ここの図面を見たときに、「喫茶室」と書いてあって。当店はコーヒーよりもお茶を推していたので、「喫茶室」っていう言葉はすごくしっくりきたんです。お茶の時間をゆっくり楽しんでほしくて、この名前を天野さんに提案しました。
――そんなお店の名前にも関わっているお茶ですが、こちらでは中国茶も楽しめるんですね。
小林さん:新潟の「IDLE MOMENT」さんの中国茶をご用意しています。私たちふたりともコーヒーよりお茶派で、個人的に好きな中国茶を置きたいなと思ったんです。
天野さん:紅茶は神戸の「Uf-fu(ウーフ)」さんのお茶を出しています。紅茶やお酒は「Bar Book Box Store」さんに選んでもらったんです。美術館のある場所や、展示に関連したお酒なんかもご用意していますよ。
――改めて、スープのことについて教えてください。
天野さん:美術館でやっている展示にあわせてメニューを考えています。今、開催している『実りの季節に』というコレクション展にあわせて「実りのスープ」をご用意しています。作品に描かれている野菜を使ったり、作品の色味とスープの色を合わせてみたり、作品展とスープがつながるようにメニューを考えています。
――作品を観た後に食べたくなります。スープをつくる中で、大切にしていることはありますか?
天野さん:「atori」でお弁当をつくっていて、「この野菜使いたいけど、お弁当には使えないな」っていう野菜が結構あるんです。そういう野菜を使いつつ、学芸員さんが教えてくれる、メニューに活かせる展示のことや、私たちがお店を通して伝えたい雰囲気をバランスよく取り入れた、「真ん中」のスープをつくっていきたいなって思っています。


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いろんな人と関わってできたお店。
ふたりに聞いた、これからのこと。
――「ひとさじ喫茶室」をオープンしてみて、今の心境はいかがですか?
小林さん:普段はデザインの仕事をしているので、ここでやっていることは、はじめてのことだらけなんです。天野さんや美術館の皆さん、関わってくださる方と一緒にひとつのものをつくっていくのがすごく新鮮ですね。
天野さん:ここのお店では「誰かと一緒にお店をする」っていうことが、私の中でひとつのテーマになっているんです。このお店を通して、たくさんの人と関わってきたと実感していて。美術館の方はもちろん、小林さんと、この喫茶室をよくするために考えられることが、すごくありがたいなって日々感じています。
――最後におふたりが今後やってみたいことを教えてください。
天野さん:せっかく美術館の中にあるので、映画鑑賞をした後に、みんなで感想を言い合う時間みたいな、絵画を鑑賞した後に、お茶を飲みながら感想を言葉にして、自分の中で余韻に浸ったり、感じたことを消化したりするような会ができればいいなって思っています。
小林さん:このお店を一緒につくってくれた、新潟の方をお招きして、イベントをしていけたらなと思うんです。美術館というパブリックな一面もあるので、ご近所の方、街の方もゆるりと参加していただけるような企画を今後も計画しています。3月には、ここの制服をデザインしてくれた「TULIP EN MENSEN」さんなどを呼んで、イベントを開催して感謝の気持ちを伝えていきたいですね。


スープとお茶 ひとさじ喫茶室
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