「新潟5大ラーメン」のうちのひとつ「三条カレーラーメン」。三条市民に長く愛され、最近ようやく全国的にも知られるようになってきたこのソウルフードは、「ラーメンの上にカレーがかかっている」という大まかなスタイルが決まっているだけとあって、お店ごとにいろんな個性を楽しむことができます。今回は「大衆食堂 正広」の店長・阿部圭作さんに、「三条カレーラーメン」についての話をお聞きしました。
正広
阿部 圭介 Keisuke Abe
1967年三条市生まれ。大衆食堂正広代表。高校時代から三条市内のホテルにある喫茶コーナーでアルバイトをはじめ、卒業後親戚の喫茶店をまかされる。その後会社員となり「正広」先代である父の病気を機に店を手伝い、2代目となる。テレビの料理番組を見て店のメニューに取り入れることが趣味のようになっている。
——今日はよろしくお願いします。さっそくですが、三条カレーラーメンの歴史は古いんでしょうか?
阿部さん:三条市にある1番古いカレーラーメン提供店は、創業90年以上の「大黒亭」だと聞いています。閉店した「東京亭」と、「正広」がそれに続く形になっています。高度成長期の三条市は町工場がひしめいて活気に満ちていて、あまりに仕事が忙しく食事に出る暇もなかったそうです。そういう人たちは出前で食事を済ますことがほとんどだったので、冷めにくいカレーラーメンは出前にぴったりなメニューだったみたいですよ。あと本寺小路(ほんじこうじ)という繁華街でお酒を飲んだ後は、〆にカレーラーメンを食べるのが定番でした。そのように三条の人たちから愛され続けてきたのがカレーラーメンなんです。
——なるほど、工場で働く人たちのメニューだったんですね。
阿部さん:町工場の労働で汗をかいた後、スパイシーなカレーラーメンの濃厚な味がぴったりだったと思います。寒い冬には体があったまりますし、暑い夏にはスタミナ料理にもなりますから、町工場で働く人の食事としてうってつけだったのではないかと。
——ところで、どんないきさつで「新潟5大ラーメン」に入ったんでしょうか?
阿部さん:バブル崩壊後にラーメンブームがあって、それまではあまり取り上げられなかったラーメンに脚光が当たるようになってきたんです。新潟市でも「新潟ラーメン博覧会」とか大々的なラーメンイベントが開催されて、「大衆食堂正広」もそこに参加させてもらいました。でも、その頃カレーラーメンの認知度は三条市以外ではほとんどなくて、「カレーがかかったラーメンなんてラーメンじゃない」と言われ、見向きもされなかったんです。転機となったのは平成21年の「新潟大観光交流年」でした。「JRディスティネーションキャンペーン」、「トキめき新潟国体」などが重なって、新潟県の観光産業を盛り上げようという年だったんです。そこで三条市ではカレーラーメンをご当地グルメとして推していくことになりました。それまで「新潟4大ラーメン」として紹介されていたところに、三条カレーラーメンが加わって「新潟5大ラーメン」と呼ばれるようになったんです。
——なるほど。今では全国的にもかなり知名度がありますよね。
阿部さん:平成27年に、全国のご当地ネタを紹介する人気番組で紹介されたんです。テレビ局で専属フードコーディネーターが調理してスタジオの出演者が試食することになって、カレーラーメンの材料を送ってほしいと依頼されました。でも、カレーラーメンの調理は加減がむずかしいので、私がテレビ局にいって直接作ることにしたんです。三条カレーラーメンが全国に紹介されるチャンスだと思ったので、気合を入れて渾身の一杯を作って提供しました。そのせいか、ほとんどの出演者が完食してくれて。司会の大物タレントの方から「持って帰って家でも食べたい」とまで言ってもらえたんです(笑)。放送の翌日、開店前から敷地の外まで行列ができました。その中には四国から来たという人もいて、前夜の放送を見てすぐ翌朝の開店前から並んでいたのには驚きました。おかげで三条カレーラーメンは全国的に認知してもらえるようになったんです。
——目の前には正広さんのカレーラーメンとミニタレカツ丼のセットが運ばれてきました。カレースープが濃厚で麺が見えないので、普通のカレーのように見えますね(笑)
阿部さん:以前は醤油ラーメンの上にカレーをかけて提供していたんですが、今は最初からカレーと醤油スープを混ぜてカレーラーメン専用のスープを作っています。ですから、とろみが強く味がなじんだスープになっているんです。スープのダシは、豚骨、鶏ガラ、カツオ、昆布、煮干し、野菜などでとり、カレーライスに使っているカレールーを合わせて作ります。
——おいしい食べ方ってありますか?
阿部さん:ご飯ものとセットメニューが充実しているのには理由があるんです。「正広」ではカレーラーメンをライスと一緒に食べることをおすすめしてるんですよ。最初はカレーラーメンだけ食べてもらって、麺がなくなる頃にライスを食べてみてほしいんです。なぜかというと、麺とライスを食べたとき、それぞれでスープの味が変わるから。麺と絡むとカレースープに甘みが出て、ライスと食べるとスパイシーな絡みが出てきます。味の変化を楽しんでほしいですね。
——カレーラーメンを作る上でのご苦労はありますか?
阿部さん:醤油ラーメンにカレーをかけているのではなく、カレーラーメン専用スープをあらかじめ1日分作っているので、スープがあまってロスが出てしまうのも困るし、足りなくなっても困るんです。作りたてのスープは、香りが強いんですけどコクは弱くて味も薄い。時間の経ったスープは、香りは薄いけどコクや味は濃い。だから、前のスープが完全になくなる前に新しいスープを継ぎ足して使っています。そのタイミングやバランスがむずかしいんですよ。あとカレーラーメンを提供するとき、スープを寸胴から手鍋に移し、加熱してから提供します。このとき、沸騰させてはダメだし、ぬるくてもダメなので火力や時間などに気を使います。カレーラーメンはスープの管理が大変ですね。
——「大衆食堂 正広」さんも歴史は古いんですよね?
阿部さん:昭和41年に三条市の繁華街・本寺小路で創業して、私で2代目になります。父である先代は三条市にあるそば店「更科」で修行したのち、暖簾分けの形で独立したので、最初は「更科」という店名にするつもりだったんです。ところが近所に同じ名前の店がすでにあったことから、先代の名前である「正広」を店名にしました。当時はまだ名前を屋号にする店が少なかったそうです。景気のいい頃だったので繁華街も活気があり、「正広」も繁盛していました。
——阿部さんが2代目を継いだのは、どんないきさつだったんですか?
阿部さん:私は高校生の頃からホテルの喫茶カウンターでアルバイトをしていて、卒業後も調理師学校へ通いながら続けていたんです。その後、会社勤めをしていたんですが、父の病気を機に「正広」の手伝いをするようになったんです。それがいつの間にか、手伝いでは済まないくらい仕事のウエイトが大きくなってきたので、会社を辞めて「正広」を継ぐことにしたんです。
——なるほど。今の場所に移転したのはどんな理由があったんですか?
阿部さん:はい。本寺小路にお店があった頃は、お客さんの90%が飲んだあとの〆にラーメンを食べに来ていたんです。景気が良かった頃は飲屋街に来る人も多かったんですが、バブルがはじけて不景気になると、街に人が来なくなり店の売上も下がり始めました。そんなとき、中年サラリーマンの常連さんから言われたんです。「駐車場と小上がりがある、家族連れで入れるような店だったら、もっと食べに来れるのに」って。景気が悪くなったこともあって家族の手前、自分だけ飲みに出にくくなってしまったそうなんです。家族みんなで食事できるなら、堂々と食べに来れるというわけなんですね。それを聞いて「広い食堂」を作ろうと思ったのがきっかけです。
——それで、少し郊外の広い土地へ移ったんですね。
阿部さん:そうなんです。ところが、最初は身内、同業者、銀行など、みんなから反対されましたね(笑)。街中で営業していた食堂を田んぼの真ん中に移転しても、食べに来るお客なんているわけがないと言われたんです。金融機関からの融資額も少なかったので、何ヶ所からも融資を受けて、足りない分はローン会社からキャッシングまでして(笑)、開業資金を準備しました。カレーラーメンのヒットで借金は完済することができました。
——そうだったんですね…。そんなお店を今はどんな思いで経営されていますか?
阿部さん:1人でも多くのお客さんから「なくては困る店」と思われたいですね。たとえば、1〜2日休んだだけでも心配してもらえる店。閉店しても気づかれない店じゃ、さみしいじゃないですか。だからお客さんから必要とされる、存在価値のある店でありたいと思っています。そのためにも毎年メニューの見直しを図り、お客さんのニーズに合わせて入替えをしています。
——今後やってみたい新メニューなどはあるんでしょうか?
阿部さん:新メニューではないんですが、以前人気のあった「冷やしカレーラーメン」をいつか復活させたいと思っています。カレーラーメンの人気がすご過ぎて、提供に時間のかかる「冷やしカレーラーメン」には手が回らなくなっちゃったので、4年前からお休みしていたんです。でも復活をのぞむ声も多いので、落ち着いたら復活させたいですね。
——三条カレーラーメンを盛り上げる活動は続けるんでしょうか?
阿部さん:もちろんです。現在、三条カレーラーメン提供店で行うスタンプラリーのようなものを考えています。ただのスタンプラリーではなく、お店ごとにミッションを用意して、お客さんからチャレンジしてもらいながら次に進むような、遊び要素のあるものを企画しているところです。そちらもぜひ楽しみにしていていただきたいですね。
三条市の人たちから長く愛され続けてきたソウルフードのカレーラーメン。「新潟5大ラーメン」のひとつに取り上げられたこともあり、全国的な知名度を誇るご当地ラーメンとなりました。これからも盛り上がっていきそうな三条カレーラーメン、楽しみにしています!
カレーラーメン 800円
ラーメン 600円
みそラーメン 780円
カレーラーメンセット 980円
カレーラーメンとミニタレカツ丼セット 1,280円
大衆食堂 正広
〒955-0084 新潟県三条市石上2-13-38
0256-31-4103
ランチ 11:00-14:30/ディナー 17:00-21:00(日曜祝日のランチは15:00まで)
月曜、火曜午後定休