長岡市にある「フランス酒場 meli-melo(メリメロ)」は、フランス料理に限らず、焼きそばやカレー、果ては薬膳料理まで出てくるという不思議なお店です。しかも「酒場」というわりに、子どもの絵があちこちに飾られているアットホームなムード。いったいどんなお店なのか、オーナーの片平さんにお話を聞いてきました。
フランス酒場 meli-melo
片平 浩之 Hiroyuki Katahira
1977年宮城県生まれ。調理師専門学校を卒業後、イタリアンレストラン、カフェバー、日本料理店、フレンチレストランなどで経験を重ねる。結婚して子どもができたのを機に、奥さんの実家がある長岡市へ移住。交通整備や自動車用品の営業などを経て、2015年に「フランス酒場 meli-melo」をオープン。木工をはじめとした工作が趣味で、店内のインテリアもほとんど手づくり。
——手づくりっぽい内装がアットホームな感じで、落ち着くお店ですね。
片平さん:実はほとんどが手づくりなんです(笑)。僕は工作が趣味なんで、店内のイスやテーブル、棚、カウンターを作っただけじゃなく、壁塗り、床張りまで自分でやったんですよ。毎日朝から晩まで作業して、1か月くらいかかりましたね。
——これがほとんど手づくりなんですか! それはすごいですね。ところで「meli-melo」っていう店名にはどんな意味があるんですか?
片平さん:フランス語で「ごちゃまぜ」っていう意味があるんです。うちは店名の頭に「フランス酒場」ってついているんだけど、フランス料理だけじゃなくて焼きそばやカレーもあるし、ワインをおすすめしているけど他のお酒もいろいろ揃っているんですよ。ほんと、ごちゃまぜなんです。ワインは30種類あるうちフランスのものは4種類くらいで、あとは他の国のワインなんですよ。僕と妻が飲んで美味しいと思ったものしか置いていません。
——たしかにメニューを見ると、いろんな料理があるんですね。
片平さん:子どもから大人まで楽しめるように、わかりやすいメニューにしているんですよ。だからフレンチの技法を使って作っていても、わざわざお客様に説明したりはしません。敷居を低くして、誰もが気軽に料理を味わえる店になったらいいなと思っています。
——どうしてそういうお店を目指しているんですか?
片平さん:僕が子どもの頃って、大人と一緒に居酒屋でご飯を食べたりしていたんです。家族でひとつの料理を頼んで、みんなでシェアして食べたりして。そんな、家族で来られるような店にしたいんですよね。家族だけじゃなくて、他のお客様もみんなが仲間っていうような、フラットでアットホームな空間をつくりたいんです。そのせいか、家族連れのお客様も多いですね。
——いろいろある中で、片平さんのおすすめの料理はなんですか?
片平さん:仔羊を使った料理は人気がありますね。うちの仔羊はオーストラリアやニュージーランド産で、凍る手前の低温で熟成する「氷温熟成」したものなんです。そうすることでラム肉特有の臭みがなく、旨みや甘み、柔らかさが際立った肉質になるんですよ。仔羊が苦手でも、うちの肉は食べられるっていう人も多いです。
——本当に美味しそうですね。他におすすめはありますか?
片平さん:季節によってはジビエ料理もお出ししています。以前、ハンターのお客様からいただいたイノシシ肉を食べてみたら、それが衝撃的な美味しさだったんです。あんまり美味しかったので猟期になると分けてもらって、料理に使わせていただいています。
——それはなかなか食べられない食材ですよね。ところで、薬膳も料理に取り入れているみたいですね?
片平さん:料理って、味が美味しいとか見た目が綺麗とかも大事なんですけど、それ以前に身体のために食べるものっていうのが原点だと思ったんです。そこで薬膳の勉強をして、昨年10月に薬膳師の資格をとりました。季節の旬の野菜が、身体にどんな効能があるのかを考えて「薬膳プレート」っていうメニューで提供しています。薬膳のカウンセリングにも対応していますし、イベントを開催して薬膳を知ってもらう機会も設けています。
——イベントは他にも開催しているんですか?
片平さん:毎月「泡会」っていうイベントもおこなっています。SNSのつながりで参加者を募集して、知り合いだけで楽しむイベントなんです。ジビエ料理や塊肉を気軽に楽しんでいただけて好評ですね。
——片平さんはいつ頃から料理の道に進んだんですか?
片平さん:小学生の頃からテレビの料理番組を見て、料理人に憧れていました。自分でも家でチャーハンを作ったり、カップラーメンに炒めた野菜をのせて食べたりしていたんです。だから高校卒業後は調理師専門学校で料理の勉強をしました。1年制だったので、とにかく授業が詰め込まれていて、1年のうち6日休むと退学という厳しい学校だったんですよ。
——おお、それはハードでしたね。でも卒業したんですね?
片平さん:なんとか卒業しました(笑)。その後はパスタをメインにしたカジュアルなイタリアンレストランで働いていました。でもパスタを作る仕事になんだか違和感を感じ始めて、カフェバーや日本料理の店で経験を重ねながら、自分のやりたい料理を探し続けました。そんなときフランス料理に出会って、自分がやりたい料理だということに気づいたんです。
——フランス料理のどんなところに、それを感じたんですか?
片平さん:フランス料理では、バターやオイルの使い方、だしのとり方といったソースづくりが、イタリアンにはないつくり方だったので奥深さを感じたんです。そこで、新しくオープンするフランス料理の店でシェフとして働くことになりました。
——そこでフランス料理の勉強をされたんですね。でも新潟に来たのはどうしてなんですか?
片平さん:結婚して子どもが生まれたので、奥さんの実家がある長岡市で暮らすことになったんです。こちらでも飲食店で働いたんですけど、僕が勤めていた店舗が閉店するになったので、生活のために自動車用品の営業を始めて、新潟県内のガソリンスタンドを回っていました。
——料理の仕事から離れてしまったんですね。そこからどうやって「フランス酒場 meli-melo」をオープンすることに?
片平さん:きっかけは東日本大震災です。宮城県にある僕の実家は無事だったんですけど、親戚の家は津波で流されてしまったんです。その惨状を目の当たりにして、自分だって次の瞬間にはどうなるかわからないと強く感じました。だったら自分の好きな仕事をやっていたいと思って料理の道に戻り、2015年に「フランス酒場 meli-melo」をオープンしたんです。
——「フランス酒場 meli-melo」をやってきて、ご苦労はありますか?
片平さん:自分ひとりで仕込みをやっているから、予約が重なると大変ではありますね。あと夫婦ふたりだけで店をやっている上に子どもがまだ小さいから、目が届くように夜は店に連れてくるんです。でも平日は翌日に学校もあるから、あんまり夜遅くまでは店にいさせるわけにいかないし……。そんな感じで、店と家庭のやりくりが難しいところかな。
——なるほど。もうしばらくは大変かもしれないですね。逆にうれしいことってありますか?
片平さん:仲のいいお客様ができることですね。うちの子どもがすごく懐いていたり、家族ぐるみでお付き合いさせてもらっている方もいます。遠く県外から来てくれる方もいるし、店でライブをやってくれる方もいます。そうなふうにお客様の輪が広がって行くのがうれしいんです。これからもいろんな方々が楽しめる、アットホームな店を続けていきたいですね。
「ごちゃまぜ」という意味のある店名のとおり、メニューも雰囲気もごちゃまぜな印象のお店ですが、その根底には年齢も身分も気にせず、ごちゃまぜになって楽しんでほしいという片平さんの思いがあるようです。子ども連れで気軽に食事ができる店を探している方は、ぜひ「フランス酒場 meli-melo」を訪れてみてください。
フランス酒場 meli-melo
新潟県長岡市城内町3-3-4
0258-88-9098
11:30-14:00/17:30-23:00(要確認)
水日曜、祝日休(連休の場合は最終日)