バス会社に所属することなく、個人で活躍しているフリーランスのバスガイド・なぐも友美さん。自分で企画したバスツアーを開催したり、新人バスガイドのための「観光ガイド講座」などを開いたり、幅広く活動しています。「にいがた観光カリスマ」にも認定されたなぐもさんに、フリーランスのバスガイドのお仕事ややり甲斐についてお聞きしました。
きずなクリエイション
なぐも 友美 Tomomi Nagumo
1974年新潟市生まれ。地元バス会社のバスガイド、大手百貨店の案内係兼エレベーターガールを経て、2004年に湯沢町で唯一のバスガイドになる。2006年に最年少で女性初の「にいがた観光カリスマ」に認定される。現在、フリーの観光バスガイドを務める傍ら「観光ガイド講座」を開催して新人バスガイドの養成にも力を入れている。
——今日はよろしくお願いします。なぐもさんはフリーランスのバスガイドなんですよね?
なぐもさん:はい。「きずなクリエーション」という事務所を立ち上げ、新潟県内専用のフリーバスガイドをやっています。県外からワンマン観光バスに乗って来県されるお客様、県内で観光バスをチャーターするお客様のご依頼を受けて乗務しています。
——なるほど。そうすると県内外のいろんなお客さんにガイドをされるわけですね。
なぐもさん:新潟県のことを全く知らないお客様や、既存のコースに飽きてしまったお客様にご利用いただきたいですね。旬なローカル情報のご提供、ニーズにあった行程のご提案をさせていただきます。
——フリーランスのバスガイドさんをお願いするメリットはどんなところですか?
なぐもさん:融通が利いてフットワークがいいことと、お客様それぞれに合わせた、きめ細やかな対応ができることではないでしょうか。ツアーの企画も自分で作っちゃいます。
——今日は、なぐもさんオススメの観光スポット「旧齋藤家別邸」にお邪魔しています。…かる〜くガイドしていただいてもいいでしょうか。
なぐもさん:わかりました。この建物は元々「新潟三大財閥」のひとつに数えられた名家・齋藤家の別荘として建てられたものです。齋藤家は清酒問屋でしたが、明治時代に入ると北前船の経営に取り組み、海運業で得た利益を元に地方財閥として発展していきました。昭和28年に新潟の建設会社・加賀田組社長がこの別邸を買い取り、半世紀にわたって住居として使っていましたが、平成17年に加賀田組の所有から離れたんです。その後、マンション建設の予定などもあったんですが、保存を願う市民運動が起こり、平成21年、新潟市によって公有化されることになりました。
——へ〜なるほど、そうだったんですね。では続いて旧齋藤家別邸の観光ポイントを教えてください。
なぐもさん:建物は数寄屋造を基調とした近代和風建築です。1階、2階どちらからもパノラマ的にお庭の全景を見ることができて、建物と庭園が一体化した美しい空間を楽しめます。私は特に2階の窓と庭園の眺めが好きですね。お庭は自然の砂丘地形を生かした回遊式の庭園です。斜面には川や滝が流れ、まるで小さな渓谷のよう。もみじが紅葉する秋にはライトアップも行われて、たくさんの人が見物に訪れます。
——フリーのバスガイドになる前は何をしていたんですか?
なぐもさん:高校を卒業してすぐ、地元バス会社に就職しバスガイドになったんです。平成5年から3年間くらいやった後、大手百貨店で案内係兼エレベーターガールを2年間やっていました。
——1度辞めたバスガイドに復帰したのはどうしてでしょうか?
なぐもさん:26歳の頃、結婚をきっかけに湯沢町に移り住むことになったんです。子どもも生まれて、主婦として家庭の仕事をやっていたものの、ふと社会から取り残されたような少しさみしい気持ちになったんですね。その頃、ホテルの会員制プールでアルバイトを始めてプールの常連客だった65歳くらいの紳士と知り合ったんです。私が以前バスガイドをやっていたことを何気なく話したところ、「せっかく湯沢という観光地にいるのに、バスガイドの経験を生かさないのはもったいない!」と言われ、バス会社への営業回りをするように勧められたんです。
——なるほど。それでバスガイドに復帰されたんですね。
なぐもさん:ところが、そんなに簡単ではありませんでした。地元バス会社を回ってバスガイドの営業をしてみたところ、すべて断られてしまいました。子どもがまだ小さかったので、宿泊のある乗務はできなかったことが理由でした。
——それでもバスガイドをあきらめなかったんですか?
なぐもさん:プールの常連紳士に、営業してみたけどダメだった話をしたんです。すると、バス会社がダメならタクシー会社や観光協会などに当たってみたらどうかと再度勧められました。いわれた通り湯沢町観光協会に電話営業をしてみると、町ではガイドの募集をしていないものの、需要はあるかもしれないということでした。そこで担当の方に勧められるまま、湯沢町の人材登録バンクに登録したんです。それと同時に湯沢町の歴史や文化について勉強を始めました。
——それで、人材登録バンクから仕事はきたんでしょうか?
なぐもさん:ある日突然、仕事が飛び込んできました。平成15年に放送された「NHK朝の連続ドラマ」のロケ地にお隣の六日町市(現魚沼市)が選ばれ、湯沢町からもロケ地巡りの定期観光バスが運行することになったんです。その観光バスのガイドをやってほしいという依頼でした。定期観光バスは番組名から「こころ号」と名付けられ、番組終了後はロケ地に関係なく観光バスとして活躍しています。
——それはラッキーでしたね!その後も湯沢町の観光バスガイドを続けたわけですね。
なぐもさん:はい。ところが平成16年に新潟県中越地震が起こったんです。上越新幹線が浦佐駅—長岡駅間で脱線し、1ヶ月半もの間運休してしまいました。その時、新潟県内の観光バスが湯沢駅に集結して、JRの鉄道に代わって運行したんですよ。私はJR代行バスに「裏バスガイド教本」と名づけたものを配布しました。私が個人的に作っていた湯沢町観光ガイドのネタ帳(案内マニュアル)を、パソコンのWordでマニュアル化したものです。JR代行バスの間は使うこともないだろうけど、観光バスに復帰した際にはガイドさん達に使ってほしいという思いでした。そんな活動が認められたのか、平成22年、新潟県内の観光振興に貢献している人が選ばれる「にいがた観光カリスマ」に認定されたんです。とても名誉なことですよね。
——すごいですね、大活躍じゃないですか。
なぐもさん:ところがですね…、平成20年に母が亡くなったのをきっかけに観光バスガイドを辞めまして。湯沢町から新潟市に帰ったんです。仕事もノッていた時期だったので本当は辞めたくなかったんですけどね。
——それは残念でしたね。どのような経緯でまた復帰されたんでしょうか?
なぐもさん:新潟市に帰った翌年の平成21年に「新潟大観光交流年」がやってきたんです。新潟県内でロケをしたNHK歴史大河ドラマの放送、「トキめき新潟国体」や「大地の芸術祭」の開催、それにJRディスティネーションキャンペーンが重なりました。新潟県中越地震でダメージを受けた観光を盛り立て、県外からお客様を呼ぶチャンスの年だったんですね。私のところにも湯沢町観光協会から依頼がきて、新潟市からの通いで1年間、湯沢町の観光バスガイドに復活することになったわけです。
——それからはフリーのバスガイドとして活動を続けているわけですね。
なぐもさん:はい。平成25年〜26年にかけては、UX新潟テレビ21で毎週土曜日に生放送されている「まるどりっ!」の中で、新潟県内の情報をお伝えするレポーターなどもやらせていただき、バスガイドの仕事も増えていきました。
——バスガイドの仕事をする際、気をつけていることはありますか?
なぐもさん:なんといっても体調管理。ひとりなので、バス会社の社員と違ってかわりはいませんので…。乗務前日は深酒しないように注意しています。あと、ツアーというのはトラブルがつきものなんです。特に多いのは観光地に忘れ物をしたり、バスの出発時間に乗り遅れるお客様。そうしたトラブルが起こるのは、バスガイドにも責任があると思うんですよ。繰り返しアナウンスするだけではなく、お客様にその内容をちゃんと聞き入れてもらい、行動してもらうまでをしっかり見守るようにしたいですね。
——フリーのバスガイドをやっていて嬉しかったことはありますか?
なぐもさん:いろいろあるんですけどねぇ。私の噂を聞いて会いに来てくれたお客様がいましたね。伊豆の観光地で知り合ったお客様同士の会話の中に、私の噂が出たらしいんですよ。「新潟県に面白いバスガイドがいるから、ぜひ会いに行った方がいい」って。とても嬉しかった。あと私の作ったツアーに毎回来てくれる常連のお客様もありがたいですね。お土産をいただいたりしてね。
——バスガイドの仕事以外でやっていることってあるんでしょうか?
なぐもさん:講演の仕事が増えてきました。「ガイド養成講座」として、新人観光バスガイドの研修や講座を開いています。観光ガイドについてはもちろん、接客マナー、ホスピタリティなどをお伝えしています。最初はバス会社から依頼されていたんです。そのうち、タクシー会社や宿泊施設からも依頼されるようになり、今では県や市などの自治体、建設会社のセミナーにまで呼んでいただくようになりました。バスガイドに必要なコミュニケーションやホスピタリティなどの要素は、汎用性が高くて他業種でも使えるものなんだと思います。
——最後に、なぐもさんオススメの新潟観光スポットを教えてください。
なぐもさん:「新潟開港150年」ということもあり、まずは新潟市中央区にある「みなとぴあ」。「新潟市歴史博物館」はじめ「旧新潟税関庁舎」「旧第四銀行住吉町支店」などを見学することができます。船が河口を行ったり来たりする風景を眺めるのが好きなんですよね。続いて新潟市中央区にある「本町市場」。商店街モールの中には、新鮮な魚介、青果、惣菜などのお店が建ち並ぶ他、道路脇に並んだ露店も活気があります。市場って立派な観光資源なんですよね。最後は新潟市西蒲区の「西蒲原ワインコースト」。角田浜に広がる「カーブドッチワイナリー」をはじめ6つのワイナリーや、飲食店、温泉施設などが集まり、気軽にワイン蔵巡りを楽しむことができます。新潟県にはまだいかしきれていない観光資源もたくさんあるので、発掘してどんどん紹介していきたいですね。
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