Things

無垢材を使った、木のぬくもりを感じられる家具「nine」。

長岡市福島町にある「nine」は、無垢材を使用したオリジナル家具やオーダー家具を製作・販売している家具屋さん。シンプルなデザインで経年変化を楽しめる家具を作り続ける九里さんご夫婦に、オープンまでの経緯や家具づくりについて、いろいろお話を聞いてきました。

 

 

nine

九里 裕之 Hiroyuki Kunori

1976年長岡市生まれ。長野県の職業訓練校で無垢材を使った家具の加工を学び、大阪の「TRUCK FURNITURE」で7年間勤務。その後独立し、2009年に実家のある長岡市に「nine」をオープン。

 

nine

九里 美紀 Miki Kunori

神戸市生まれ。「TRUCK FURNITURE」の立ち上げ当初から販売として勤務。裕之さんと結婚後はしばらく子育てに専念し、その後新潟に移り住む。

 

家具職人の道に進むきっかけになった、一冊の本との出会い。

 

――九里さんはおふたりとも大阪の「TRUCK FURNITURE」でお仕事をされていたということですけど、家具の道に進むことは若いときから決めていたんですか?

裕之さん:いえ、一回、普通に家具とは関係ない大学に行って、三条で就職してサラリーマンやってるんですよ。そっからまた学校に行くんです、木工の。それが長野県の職業訓練校なんですけど、上松技術専門校っていう。

 

――サラリーマン生活をやめるのに、何かきっかけがあったんですか?

裕之さん:もともと「これになりたい」みたいなのがずっとなくて、大学で見つかればいいなって思ってたんですけど、結局何も見つからずそのまま就職してしまったんですね。サラリーマンのときは中国でBBQコンロとか園芸用品を製造して、日本のホームセンターに卸す仕事をしていました。でも結局、大量に作って安く売っても、お客さんに使い捨てられるっていうのがあって。今から思うと、なんかそういうのが辞めるきっかけだったのかなって思いますね。その当時は、全然それに対して幻滅する感じとかはなかったんですけど。

 

――家具作りに出会ったのは?

裕之さん:仕事を辞めてから、思うことがあって図書館に通う日々を過ごしていたんですけど。そこでたまたま一冊の本に出会って。「俺の椅子を作る」っていう自分専用の王様チェアを、木工の先生に教えてもらいながら手作りするみたいな本で。今まで仕事でやってきた大量生産とまったく真逆のことじゃないですか。その先生のプロフィール見て、「木工職人」てあって。こんなんで飯食えんのかな……みたいな(笑)。でもその本がすごくおもしろくて、加工方法とか道具の使い方とか。それで先生のプロフィール調べてたら、長野県の職業訓練校を卒業していて。まぁ暇だったから見学でも行こうかなと思って電話したら、ちょうど試験直前くらいのタイミングだったみたいで。「あぁ願書ですね」って(笑)。それで願書が送られてきて。とんとん拍子で試験受けることになって、受かったみたいな。

 

無垢材の持つ性質や、日本の木工技術の奥深さにのめり込む。

――そこはどんな訓練校だったんですか?

裕之さん:その職業訓練校は特殊で、無垢材を使った家具の加工技術を勉強できる数少ない学校だったんです。全国から無垢材の加工を知りたいっていう人が受けにくる感じで、実はすごい倍率高かったですよ。美大卒の人が技術を学びたいって来てたり、家業が木工所の2代目だったりとか。なので意識高い人が多かったんです。朝、授業始まる前からもうカンナ研ぎの練習してるんですよ、非常階段みたいなとこで。ちょっと俺も負けてらんないな、みたいな(笑)。授業は午前中だいたい座学で、木の仕組みだったり加工法を習って、午後から実技で機械とか道具使って椅子作ったり、整理箱みたいなの作ったりとかして。授業終わってからも先生が付き合って夜遅くまで教えてくれたりして。1年だけなんですけど、1年しかないからみんな必死にやってましたね。

 

 

――そこで初めて無垢材に出会うんですね。

裕之さん:勉強していく中で、木の奥深さみたいなのがすごくおもしろいなって。木は加工しやすいので昔から道具とか建築物とかに使われていて、人間の暮らしの一部になっていた歴史があったりとか。木の成長の仕方とか、加工技術のすごさに魅了されていくって感じで。

 

――どんどんのめり込んでいくんですね。

裕之さん:同期で入ってきた人に、東京のアンティークショップで働いていた人がいて。その人がすごいインテリアに詳しくて、そこで初めて北欧家具を教えてもらって。やれウェグナーだ、モーエンセンだ、フィンユールだって。かっこいいなって思って、家具とか全然知らなかったので、こういう世界もあるんだ、こんなの作りたいなって。それで真似して卒業制作でそういうのを作ったりして、さらにのめり込んでいくっていうか。

 

 

――ついにやりたいことと出会えたわけですね。

裕之さん:そこでやりたいことは見つかったんですけど、でも卒業後、就職先がないんですよ。職業訓練校の最初の授業でも、「無垢材の加工やってる会社なんて今どきどこもないぞ」ってまずその説教から始まりましたからね(笑)。それで実際に就職活動し始めるとほんとになくて。無垢材で募集していても、大きい会社のラインの中に入るだけだったりとか。

 

――技術もやりたいこともあるけど、希望の就職先がなかったと。

裕之さん:九州の作家さんの手伝いの募集があったので、とりあえずそこの手伝いで働かせてもらって。でもあんまり家具の仕事がないんですよね。そのときもう25歳とか26歳で、そもそも職人としてのスタートが遅かったので焦りもあって、まいったな……と思って。それで同期の北欧家具教えてくれた人に相談したんですよ。そしたら「そういえばTRUCKが募集してたよ」って教えてくれて。運良く採用してもらえて、そこからTRUCKで働かせてもらえるようになって。で、そこで今の妻とも出会うわけです。

 

美紀さん:私は接客をしてました。

 

 

――就職してからはやりたいことができました?

裕之さん:TRUCKは、ひとつの家具を、塗装前までの全工程ひとりで担当するっていうやり方だったんです。TRUCKの社長さんも長野の伊那市の卒業訓練校卒業してて。そこも無垢材の加工とか教えてくれるところだったので、社長さんのやり方とか考え方も近しかったので、それも良かったですね。

 

――そこから独立はどういったタイミングで?

裕之さん:7年大阪にいたんですけど、いっぱい良い経験をさせてもらって。ずっと働いててもよかったんだけどね。めちゃくちゃ独立願望があったわけではないんだけど。33歳くらいのとき結婚して子供もできて、それをきっかけに新潟の実家に戻って独立した感じですね。実家が兼業農家をやってて、この倉庫使えるんじゃないかなって思って。親父に「コンバインとトラクターどかしてほしいなぁ」って言って。ここぞとばかりに木工機械を並べて(笑)。

 

美紀さん:当時、SNSとかはそんなに普及していなかったけど、HPだけ作ってこっちにきたって感じですね。ネット環境はだいぶ整ってたから、地方でもなんとかなるかなって思って。根拠のない自信みたいな。なんか大丈夫な気はするよみたいな(笑)

 

裕之さん:こんな雪深いところ嫌がるかなと思ったけど、案外ふらっときたよね(笑)

 

美紀さん:てかこんな雪降るって知らなかった(笑)

 

お客さんからもらった条件の中で、より良いかたちを考え家具を作る。

――独立願望が強くなかったのはなぜですか?

裕之さん:「これが絶対作りたい」みたいなのはなくて。うちらはゼロからイチを生み出すのが得意なタイプではないので。でも独立してからは、どうにか定番商品を作らないとなって常々感じながらやってたよね。お客さんの要望に合わせて作ったなかで、「あ、この感じいいね」っていうのがあるとそれを定番として採用したり(笑)

 

美紀さん:お客さんの要望に合わせていろいろ考えるのは割と好きですね。条件がある中で、どうやったら良いものができるのかって。私はTRUCKでも別注担当でやってたので。お客さんからのあいまいな表現を具体的にかたちにしていくっていうか。

 

 

――デザインとかっていうのは?

裕之さん:まずお客さんの欲しがっている要望を満たすのを第一として考えてます。引き出しの位置や数、あとはサイズとか機能とか用途ですね。それにうちの質感とか素材感を足していく感じです。無垢材を使っているので、木そのものを感じてほしい。仕上げにしてもオイルフィニッシュって言って、オイルを染みこませてそのオイルが固まって木を保護するってやり方をしているんですけど。オイルも透明で、無着色なものを使用して。そうすると経年変化とかも感じてもらえますし、触り心地も良い。長く使ってもらいたいのでデザインもなるべくシンプルに。

 

――デザインの要望があったりもするんですか?

裕之さん:最近はうちが作る家具の雰囲気を分かってきてくれる方が多いので、奇抜な感じのデザインの要望はほぼないですね。それよりは、「このくらいのサイズの食器棚がほしい」とか「こういう見せ方ができる本棚がほしい」とか、入れたいものの要望だったり、「ごちゃごちゃしてるルーターを隠してすっきりさせたい」っていう相談だったり。用途とかサイズに合わせて作れるので、そこがうちでできるオーダーの強みですね。

 

――フルオーダーできるんですか?

裕之さん:厳密に言うとセミオーダーに近いのかなっていう。特に椅子なんかに関しては、座ってみないと分からない部分多いので、試作を作るだけでものすごい金額になっちゃうので。箱モノはフルオーダーに近い感じ。椅子だけがセミオーダーになるかな。そこらへんは、相談しながら決めていく感じです。

 

――家具は長く使うものなので、住む家に合うものが一番ですね。

裕之さん:やっぱり家具を買おうと思うタイミングは、家が建つときなんですね。そう考えたとき、自分たちもいいなって思える家に置いてもらえるのが一番だなって。だから今は設計士さんとのつながりのなかで、家を建てるタイミングでその家に合った家具も一緒に考えてもらえるような流れを作らせてもらっています。

 

――なるほど。

裕之さん:工務店さんとか設計士さんも家具をとても重要だと思ってくれる方がすごく多いので。お客さんを紹介してくれる方もいますし、テーブルありきで設計を考えてくれたり。いい流れが出来つつあるかなと。

 

――お客さんも設計士さんも九里さんもみんなハッピーになりますね。

裕之さん:着工する直前とかのタイミングで、図面持ってきてくれるお客さんがいたり、お家の図面見ながら家具のサイズ調整しながら作ったり。だいたい家が建つまでに4~5カ月あるので、引き渡しのときには一緒に家具も渡せて喜んでもらってます。そうやって、家具も予算としてしっかり確保してもらえると、家の統一感というか、より満足してもらえる暮らしの空間を作ることができると思っています。家が一生モノと考えらえているように、無垢で作る家具も長く使っていただけるものなので、そんな考え方で一緒に家具作りができたら嬉しいなと思いますね。

 

――納品のときはお客さんも喜ぶでしょうね。

裕之さん:納品は可能な限り、自分たちで行くようにしています。素敵なお家に置かれている自分たちの家具を見たり、お客さんの喜んだ顔が見れるのはやりがいにつながりますね。あとはうちの家具は無垢材だから、直すことができます。机の上の傷や落書きとかも、カンナかければ新品にもどせるので、無垢材は水分を吸ったり吐いたり呼吸をしていて、木が反ったり動くので、どうしてもそういったサポートは作り手側に付随してくることなんですよ。そのためには作り手が近くにいないといけない。そうなると、あんまり手広くもできない。でも、それが誠実なやり方なのかなって。遠くの方の家具を作るときはそれを覚悟の上で作ってます。

 

自分が死んでも、作ったものは残る。

――今後の目標はどういったことになりますか?

裕之さん:地味に続けることかなって。低空でも飛び続ける。派手に花火あげるんじゃなくて。今まで家具を作らせてもらったお客さんにも責任をもって対応していかないといけないので。これからは、そういう人を育てていかないといけないのかなとも思ってます。「あの職人さんはnineで働いてたから直せるんじゃない」とか言ってもらえるような職人さんを。ここから独立してく人がいたらいいなって。この10年くらいはほんと自分自分だったけど、自分が死んでも作ったものは残るから。それをどうつないでいくかっていったら、それを直せる人を育てたいなと思っています。

 

nine

〒940-0896 新潟県長岡市福島町2525-7

Tel&Fax 0258-77-2565

メール info@nine-furniture.jp

予約制

 

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
  • 部屋と人
  • She
  • 僕らの工場
  • 僕らのソウルフード
  • Things×セキスイハイム 住宅のプロが教える、ゼロからはじめる家づくり。


TOP