緑と海に囲まれた出雲崎町で木工製品を作っている「Ojn Handmade Hut」のワダさん。工房に置かれたテーブルや椅子、小物類からは木の素朴さや暖かみが感じられます。作家ではなくて「木の用務員」でありたいと話すワダさんに、開業したばかりの頃のエピソードやものづくりの考え方などいろいろとお話を聞いてきました。
Ojn Handmade Hut
ワダ ヨシヒト Yoshihito Wada
1972年長岡市生まれ。高校卒業後に東京で就職。新潟に戻り、実家の設備業で働く。その後、運送業に転身。2014年から「Ojn Handmade Hut」として木工家具やカトラリーをつくりはじめる。
——ワダさんが、「Ojn Handmade Hut」として活動をはじめたのはいつですか?
ワダさん:2014年です。その前からDIYにハマっていた時期が10年くらいありましたかね。働きながらDIYをするのも楽しかったんですけど、「なんとかこれを仕事にできないか」と思うようになりまして。もう好きすぎて(笑)。サラリーマンを辞めるタイミングで、「ダメ元でやってみるか」みたいな感じでスタートしたんですよ。
——ということは、ものづくりをしたいから仕事を辞めたっていうわけじゃないんですね。
ワダさん:う〜ん。それもありましたかね。木工仕事に夢中になりすぎて、休日だけじゃ時間が足りなくて。自宅の物置小屋を自作して、それ以外にも家具も作ってっていろいろしていたら「仕事している場合じゃないぞ」みたいな(笑)
——あはは(笑)。でもワダさんがハマった当時って、今ほどDIYが流行っていませんでしたよね。
ワダさん:注目されるずっと前からですよ。友人が「ローテーブルを作った」と聞いて、「なるほど。自分で作る手があったか」と閃きまして。若い頃に住宅設備系の仕事をしていたから、最初は現場に転がっている廃材でテーブルを作りました。「自分で使う分にはこれで十分」って、そういうところから入ったんです。
——最初に作ったテーブルの出来はどうだったんですか?
ワダさん:「家具」というには申し訳ないくらいでした。ありものの材料にただ脚を付けてテーブルにしただけで。でもそれを繰り返していると、だんだん満足できなくなってくるんですよね。「もっとかっこよくしたい」「どうやったらこういうスタイルになるのかな」って、調べるようになって。
——じゃあ、独学で今の技術を身につけたんですか。
ワダさん:かっこよくいうと独学ですかね。
——探究心が凄まじいですよ。
ワダさん:とにかくハマっているんですよ。もうそれしか見えなくなっているの。調べて、失敗して、改善しての繰り返しでした。
——そうこうしているうちに機材や道具もどんどん増えていくみたいな。
ワダさん:そうなんですよね。この仕事をはじめたばかりの頃は、6畳くらいのスペースに収まる程度の道具で作業していたんですけど、だんだんとそれじゃ足りなくなってきて。それで作業場を探して、この工房を設けたんです。
——最初の頃は、どうやってお客さんを作っていったんですか?
ワダさん:つながりもノウハウもないから、クラフトフェアっていう全国で開催しているイベントに出店しました。作ったものを持参して、販売してって、最初はそうしていましたね。
——会社員とフリーランスってぜんぜん違うじゃないですか。どうやってモチベーションを維持していたんですか?
ワダさん:「覚悟を決めて」って感じではなかったかな。もしうまくいかなかったら、職探しをすればいいと思っていました。仕事を選ばなかったら、なんとでもなるでしょうって。
——でも今も続けていらっしゃるわけだから、依頼は着々ときたわけですね。
ワダさん:それが、なかなか次にはつながらないんですよ。作って、週末はどこかのイベントに出る、そしてまた作ってって、なんとか売上につなげようとしていました。3年間くらいはそうだったと思います。
——では何か転機が?
ワダさん:ちょっとずつ「いいね」と言ってくださる方が増えてきて。「こういう家具が欲しい」「こんなもの作れる?」と相談をいただけるようになりました。家具を納品したお客さまがリピートしてくださったり、他の方を紹介してくださったりって、だんだん広がっていったんですね。もうひとつの収入の柱は、ワークショップのような体験教室でした。その参加費用をいただくこともすごく大きくて。販売とオーダー製品づくりとワークショップで成り立たせていたって感じです。
——最初は誰もが手探りですもんね。
ワダさん:振り返ってみるとキーパーソンみたいな人と節々に出会ってきたように思います。拡散してくれる、もしくは人脈を広げてくれるような人と。
——じゃあ、自然とお仕事が増えていったんですか?
ワダさん:そうですね。徐々につながっていったんですね。でも「Ojn Handmade Hut」を立ち上げたばかりの頃は、本当に仕事がなくて。イベント以外に販売方法がなかったから、一度だけどこかのお店に置いてもらえないかと営業したことがあります。でもね、メンタルが削られるんですよ。あちらにしたら何者かわからない人が突然やってくるわけだから、そりゃすぐに成約にはならないんでしょうけど、「俺、営業は向いていない」って思いました。それで営業せずにどうやって知ってもらえるか、声をかけてもらえるかを目指したんです。
——そのためにはどんな心づもりでいようと思いました?
ワダさん:ひとつひとつの仕事を大事にするのは当たり前で。できることはぜんぶやるっていうか、そのときのベストを作ったものに落とそうと思っていました。今の時代で良かったなって思うのは、SNSの存在ですね。これがなかったら生きていたか死んでいたかわかりません。
——ちなみに、こちらの工房で販売もされているんですか?
ワダさん:一応お店みたいに営業しています。でもここで作業をするし、納品や打ち合わせで不在にすることもあるので、オープンできない日も多くて。できれば月1日くらいは営業日を設けたいと思っているんですけど、なかなかできずにいます。
(Ojn Handmade Hutの営業日等は、Instagramをご参照ください)
——作家さんの工房でもあって、お店でもあるわけですね。
ワダさん:「作家」って自分がいいと思ったもの、作りたいと思ったものを発信する人だと思うんですね。僕にももちろん「いいもの」っていう概念はあるんだけど、「こういうものが欲しい」っていうリクエストを「いいかたち」で提供したいって気持ちが強くて。だから「木の用務員さん」を目指しているんです。
——木の用務員さん?
ワダさん:投げかけてもらってどんなふうに応えられるだろうって仕事もけっこうあるんです。例えば「クローゼットの取っ手が鉄で味気ないから木でいい感じのものを作る」みたいな。「あれが壊れた」の対応ももちろんだし、作ったことがなくてもいけるかなと思ったら手を出しちゃいます。これはまさに「木の用務員」の仕事だなと思ったのは、足が悪くて正座ができないおばあちゃんのために、低い座卓に高さを加える土台を作ったとき。座卓の脚のサイズを測って、フィットするものを作りました。「ご相談いただければ、うちで調達できるものはなんでも作ります」ってスタンスです。
——「営業はしない」ということでしたが、ワダさんの作品を扱っているお店はあるようですね。
ワダさん:県内4店舗にお世話になっています。ひとりで作業しているので、納品できる量やペースが限られてしまいます。ご理解いただける関係性のある方にはお願いしています。
——時間、体力ともにひとり分ですもんね。
ワダさん:なかなか仕事が進みません。悩みでもあり、マイペースに働ける喜びでもあり。忙しいとありがたいけど、一瞬でキャパオーバーです(笑)
——作り手さんにはお聞きしたいことがありまして。「これで完成」って区切りをつけるのは難しいのでは?
ワダさん:「ベストを尽くした」と思えれば、それでいいわけですよ。愛情がないと思われるかもしれませんけど、作り終わったものにはあまり執着しません。今できる最良を作ったわけですから。
——独立したばかりの頃と今とで、作ったものに変化はありますか?
ワダさん:明らかに変わっていますね。それは当たり前というか、デザイン的なところもありますからね。ライフスタイルだって多少は変わっていますし。それはそれでいいアップデートだと思っています。ただ軸にあるのは「木で作るもの」なので、できるだけ自然でシンプルに、足し算しない方がいいという基本の考え。それは変わっていません。その中で、自分の中で「いいな」と思う方向にずっと進んでいますかね。たまに10年前に作ったものが出てくるときがあるんですよ。今だったら、こうはしないって当然思うんですけど、当時は「これがいい」と思っていたんだから良しとしています。恥ずかしいですけどね。
——詳しい知識はないんですが、ワダさんの工房にある作品はぜんぶ「木」を感じられる気がします。
ワダさん:大量生産とはちょっと違いますよね。僕自身、古道具や素朴なものが好きなので、そういう風合いにものづくりを進めているんだと思います。
——家具以外に、カトラリー類などの小物も作るんですか?
ワダさん:細かいものも作りますよ。外に販売しに行くとなると、小物類があった方がいいですから。それに家具を作るとどうしても材料の端っこが余るんです。それを有効活用する意味でも小物を作っておきたいと思っています。
——最近、新しい取り組みをされているそうですね。
ワダさん:県内9つの木工工房が集まって、県内産の広葉樹を使用した家具作りに取り組んでいるところです。新潟には家具に使用される広葉樹があまり流通していないんですよ。こんなに木がたくさんあるのに、需要がないから材木に加工する意味がないそうで。それはもったいないと思いまして、なんとか製材屋さんの力を借りて、我々で「新潟の木での家具作り」を実現しようとしています。
Ojn Handmade Hut