関川村では毎年8月の終わりに、竹と藁でつくられた大蛇が村内を練り歩く「大したもん蛇まつり」がおこなわれています。このお祭りには、村に伝わる大蛇伝説を下敷きに、1967年に発生した羽越水害を忘れないようにという思いも込められているのだとか。その羽越水害を契機につくられたのが「大石ダム」で、その周辺には湖畔公園もつくられました。公園ではミニSLやゴーカートなどが楽しめる他、「大石小動物園(おおいししょうどうぶつえん)」では馬やうさぎと触れ合うことができるんです。蝉しぐれが降り注ぐなか、自然豊かな小動物園にお邪魔して、飼育員の角田さんからお話を聞いてきました。
大石小動物園
角田 雪子 Yukiko Kakuda
1975年新潟市中央区生まれ。新潟理美容専門学校を卒業し美容師として10年働いた後、2005年に夫の転勤で関川村へと移住。デイサービスの介護士を経て「大石小動物園」の飼育員として働きはじめる。2年前からバイクに乗っている。
——可愛い動物たちがたくさんいますね。
角田さん:この馬やポニーは、肉屋さんから引き取ってきた子達なんです。うさぎ達も以前は狭い箱のなかに閉じ込められていました。
——そんな境遇にあった動物たちなんですね……。角田さんは昔から動物が好きだったんでしょうか?
角田さん:そうですね。よく捨て猫や死にかけた鳥の雛を拾って帰ったりしていました。でも家では犬や猫を飼わせてもらえなくて、インコや金魚が限界だったんです。そこで近所にある乗馬クラブへ行っては馬を見学して餌をあげたりしていました。
——その頃から馬が好きだったんですね。じゃあ、最初から動物を飼育する仕事を目指したんですか?
角田さん:新潟市で美容師をやっていました(笑)。子どもの頃からジョキジョキと髪を切る音が好きで、床屋さんになろうと思っていたんです。ところが高校生の頃から美容室へ行くようになって、その技術に憧れて美容師を目指すことになりました。
——その美容師を辞めたのは、どうしてだったんでしょう?
角田さん:夫が関川村にある職場へ転職したので、私も移住することになったんです。移住したばかりの頃は知り合いがひとりもいなくて、誰にも頼れず不安を抱えて過ごしました、でも子どもが生まれてからはママ友を中心に付き合いも増えていきましたね。
——それはよかった。「大石小動物園」で働くことになったいきさつは?
角田さん:働きはじめる前から、子どもと一緒によく来ていたんです。でも、見るからに元気のないボロボロの馬がいるのを見て、何とかしてあげたいという気持ちでいました。そんなときに知り合いから「飼育員として働いてみない?」って誘われたんですよ。
——動物好きの角田さんにとって「大石小動物園」の仕事は天職じゃないですか。
角田さん:動物好きだからこそ、気になることもたくさんありましたね。以前から気になっていたボロボロの馬は、高齢のせいで厩舎から外に出さず餌だけ与えている状態でした。脚が悪いからと乗馬体験もできない状態だったんです。予算不足も影響していたので、この子たちがもっとお客様を呼ぶことができれば、大切にしてもらえるんじゃないかと考えるようになりました。
——なるほど。
角田さん:そんなとき胎内市にある「松原ステーブルス」という養老牧場が、「大石小動物園」で開催する乗馬体験イベントのために馬を連れてきてくれたんです。それをきっかけにオーナーの松原さんから、馬の飼育について教えていただくようになりました。
——それはよかった。馬の飼育においては大先輩ですもんね。
角田さん:「松原ステーブルス」の会員になって、厩舎作業を一緒にやりながら教わりました。松原さんも「大石小動物園」に足を運んでは、設備の改善に力を貸してくださったんです。
——具体的にはどんな改善をしたんでしょう?。
角田さん:挙げたらきりがないんですけど、松原さんのご協力でポニーや新しい馬を入れて、乗馬体験を復活させることができたんです。動物の寝床もコンクリートの床だったところに籾殻を敷き、餌のブロック草も新鮮なものを与えるようにしましたし、飼育に使う道具もいろいろと提供していただきました。
——まさに恩師ですね。
角田さん:本当に感謝しています。おかげで動物たちが快適に過ごせる環境になっていきました。
——「大石小動物園」は何人で営業しているんでしょうか?
角田さん:普段はボランティアの方とふたりでやっています。
——たったふたりでは管理するのは大変ですね。
角田さん:積雪が多いので冬の除雪作業がいちばん大変ですね。根雪が頭の上を越すくらいになるんですよ。ローダーで除雪すれば雪上乗馬を楽しむこともできるし、冬期閉鎖をしなくて済むんですけど、ローダーや除雪機を用意するにはお金がかかりますからね。
——冬期休業するのは、もったいないですもんね。
角田さん:それよりも「死んだ施設」と思われるのがいちばん嫌なんです。動物たちは生きているわけですからね。
——確かにその通りですね。それにしても、生きもののお世話は大変でしょう?
角田さん:人間の言葉を話せない相手ですから、とにかく毎日よく観察するようにしています。でも長い時間一緒に過ごして毎日観察しているうちに、目やオーラで感情を伝えてくるようになるんです。飼育方法も決してマニュアル通りではなく、様子を見ながら変えるようにしています。特に餌はそうですね。
——体調に合わせて餌を変えることもあるんですか?
角田さん:与える餌の種類も量も変えています。人間だって毎日同じ食事だと飽きちゃうじゃないですか。どうしたら動物たちが喜んでくれるのか、日々考えるようにしているんです。最近は地元の農家さんも協力してくれて、廃棄する野菜を譲ってくれます。
——訪れた人々が動物と触れ合う姿を見ていると、嬉いんじゃないですか?
角田さん:そうですね。でも私の場合は「人々が喜ぶ姿」よりも「動物たちが喜ぶ姿」が嬉しいんです。見捨てられそうになっていた動物たちが、人々を楽しませている姿を見ていると幸せを感じます。
——もはや自分の子どものようですね。
角田さん:そうなんですよ。人間だったら、いくらダメでも人並みに生活できるじゃないですか。でも動物たちは人間から「いらない」と思われたら雑に扱われてしまうんです。せっかく生まれてきた同じ命なのにね……。だから動物が人間から必要とされるよう、いろいろ考えているんです。
——例えばどのようなことでしょうか?
角田さん:乗馬体験やふれあい動物園でみんなを楽しませるのはもちろん、馬の糞を活用した堆肥を有機農業に利用したり、ヤギや馬を耕作放棄地に放して雑草を食べさせたり……。あとヤギは猿除けにもなるんですよ。そんなふうに動物たちの価値が見直されるよう、できることには取り組んでいきたいと思っています。
大石小動物園
岩船郡関川村大石1002-1
0254-64-2896
10:00-16:00
不定休