新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、自宅で過ごす時間が増えています。「どうやったら楽しめるのか」「どうしたらより良い環境で暮らせるのか」と、生活スタイルを見直す方も多いのではないでしょうか? そこで今回は、「庭」を通じて豊かな暮らしを提案している「SCAPE(スケープ)」の造園師である町屋さんに、お話しをうかがって来ました。
SCAPE
町屋 秀樹 Hideki Machiya
1975年新潟市生まれ。飲食業の経験を経て、20代半ばに造園会社へ転職。施工管理技士、造園技能士などの資格を取得し、2012年「SCAPE」を設立。登山やキャンプといったアウトドアが趣味。
――今日はよろしくお願いします。町屋さんはどんなキッカケで造園という仕事に就いたんですか?
町屋さん:元々は飲食店で働いていました。当時の店のオーナーは、いろんな遊びを知っている人で、いろんなことを教えてくれたんです。でも、飲食店をやっていると休みが少なくて、遊ぶ時間はありません。そんなオーナーの姿をそばで見ていて、自分も将来は店を持ちたいと思っていたけれど「店を持つのはやめよう」って思ったんです。自由な時間がありませんから(笑)。それで自分が好きだった「外遊び」「モノづくり」から繋がって、造園という仕事に辿り着きました。
――「外遊び」「モノづくり」というキーワードだと、他にも仕事はありそうですが。
町屋さん:まずは「外遊び」をするために、夏休みのある仕事を考えたんです。夏休みがあれば趣味の登山やキャンプを全力で楽しめますから。でも、なかなか難しくて。それで、冬休みのある造園という仕事を発見したんです。冬は仕事がないし、自分のペースで仕事が出来そうだから、時間を自由にできそうだし。それに、庭を造るのも「モノづくり」かなって。
――なるほど。植物に興味は元々あったんですか?
町屋さん:いいえ。興味も関心もありませんでした。唯一、つながりがあるとすれば山へ遊びに行っていたぐらいで、でもやっぱり植物を探したり、観賞したりはしていませんでしたね。
――あら。初めて造園というものに触れてみて、どうでしたか?
町屋さん:正直、造園師(庭師)は悪い人たちのイメージを持っていたんです。タバコを吸いながら仕事をしたり、ビールを昼間から飲んでいたりって。でも、それは真逆でした。個人の技術で仕事をしている、とてもカッコイイ人たちだったんです。彼らの仕事に触れて、「技術でこんなに自分が表現できる仕事はない。これからは造園の仕事をやっていこう」、そう強く思いました。
――先ほど「植物には興味がなかった」と言っていましたけど、実際、今はどうですか?
町屋さん:さすがに何年も造園の仕事をしていれば、興味はでてきますよね(笑)。むしろ、趣味の山登りをしてることが自分の造園スタイルに生きています。
――というと?
町屋さん:山を登りながら「どうしてこの木は、こんな伸び方をしているんだ?」と、考えるようになりました。最近では「自然風な庭」という言葉を耳にするけど、実際に自然に生えている植物と比べると、全然違うんです。だから「どうして」を考えた植え方をするように心掛けています。
――伸び方ですか? 植物って上に伸びていくだけじゃないんですか?
町屋さん:それが環境によって伸び方は違うんですよ。例えば日陰にある木は、日向を求めて伸びていきます。だから僅かな光すら求めて、隙間、隙間で枝は伸びるんです。なんか人間や会社みたいじゃないですか?
――確かにそうかもしれません。
町屋さん:だから、庭に木を1本植えるとしても、自然な伸び方、生え方をするように「どうして」を考えて、自然環境に近い庭造りをしているんです。
――それでは「SCAPE」についても教えてください。どんな庭を造っている会社ですか?
町屋さん:「どんな庭」と聞かれたら、「お客さんが求める庭」と答えるのが正解かな。自分が造りたい庭の像はあるけれど、それは押し付けたらいけない。だから、その人をとにかく知ることを大切にしています。
――どうやって知るんですか?
町屋さん:その場所に、なんで造りたいかをたくさん聞いて、まぁ、とにかく話します。あとは、乗っている車とかからその人の趣味、ライフワークを感じ取るんです。そのうえで、ちゃんと意味のある提案をしています。昔なら立派な松の木、今は珍奇植物を植えれば立派といわれるけれど、そうではなくて、ちゃんと庭を造り、そこで過ごす時間を豊かにしていきたいんです。
――なんか、庭って深いんですね…。
町屋さん:「SCAPE」では、庭を造るのではなくて、そこで過ごす時間を造っていると考えています。「ただただ部屋から綺麗な庭を眺めたい」って要望もあるけれど、庭という空間で過ごすことで気分が良かったり、ハッピーになれたりしたら素敵じゃないですか。だから、豊かな生活を過ごすためにはどうしたらいいのかを、庭を通して考えています。
――なんて素敵な考えなんでしょうか。それでは最後に、造園を通して伝えていきたい事を教えてください。
町屋さん:今の時代は、庭のない分譲地を購入する方が増えてきています。むしろ庭のない生活が当たり前だし、共稼ぎでゆったりとした時間すら過ごせていないとも感じています。だから、もっと豊かな生活に重きを置いて、ゆるく、楽しく人生を過ごしてもらえたらと思います。そんな考えや過ごし方のひとつとして、庭の大切さ、自然の寛大さも知ってもらえたら嬉しいです。
「どんな庭が自分の理想ですか?」と、町屋さんにうかがうと、「誰かが決めたから、雑草は『雑草』という区分になった。建物と庭の線引きもそう。でも理想は、建物と庭の線引きがない融合した環境を造りたい」。その理想像をちょっとだけ具現化したのが、「SCAPE」のアトリエ。新しい庭のカタチは、男心をくすぐる秘密基地みたい。ワクワクが止まりません。
SCAPE
新潟県新潟市江南区嘉瀬1609
025-282-9871