新発田市の裏通りにある飲食店街に、明治から続く老舗の洋食店「関洋軒(せきようけん)」があります。お店の外観も、おもてにある料理サンプルのショーケースも、昔ながらの懐かしさを感じさせるこのお店。いったいどんな料理を味わえるのか、御年88歳でお店を手伝っているという、先代の関芳江さんにお話を聞いてきました。
関洋軒
関 芳江 Yoshie Seki
1932年南魚沼市生まれ。実家の菓子店を手伝っていたが、菓子店が閉店した後に勤めた湯沢温泉のホテルで、板前をしていたご主人と出会う。結婚後、ご主人の実家の「関洋軒」を手伝い、現在まで店を守ってきた。昨年、米寿を迎えた。趣味は和紙を使った金魚台輪作り。
——今日はよろしくお願いします。お店のことをいろいろ教えてください。
関さん:昔のことを知ってる人が店にいたんだけど、こないだ亡くなっちゃったのよ。私なんか、何にもいいこと言えないから、あんたがいいように書いておいてよ。
——いやぁ、そういう訳にもいかないんですよ(笑)。さっそくですけど、歴史がありそうな雰囲気のお店ですね。いつ頃から続いてるんですか?
関さん:明治時代から続いてるお店で、私は4代目。今は5代目がやってますて。ずっとこの場所で洋食屋をやってきたんだけど、最初の頃なんてカレーライスとかカツ丼とかくらいのメニューしかなかったんじゃないろっかねぇ。それがだんだん増えていったのよ。
——明治時代から続いてるってすごいですね。長い付き合いの常連さんも多いんでしょうね。
関さん:私のお義母さんの時のお客さんも、まだたくさん来てくれてますわ。私がこないだ88歳の米寿を迎えた時、お客さんからお祝いに立派な胡蝶蘭をもらったの。とても嬉しかったですて。
——お店とお客さんの絆の深さを感じさせるお話ですね。「関洋軒」は食堂以外にも色々やってるんですか?
関さん:昼は食堂ですけど、夜は隣のお座敷で宴会にも対応してるの。毎年忘年会で来てくれるお客さんもいて、ありがたいですて。それからお弁当やオードブルの配達もやってるから、法事のお料理をお寺さんに届けたり、子どもの誕生会に届けたりしてるんですて。
——お母さんはお嫁に来てからずっと「関洋軒」をやってきたんですか?
関さん:そう。私は魚沼の五日町で生まれて、ずっと実家のお菓子屋を手伝ってたの。粉菓子作ったりしてね。でもお父さんが体を壊してお店を閉めることになって、家族はみんな横浜の方に引っ越して行ったのよ。私だけ新潟に残って湯沢温泉で仲居さんをやってたんですて。その時に板前をやっていた旦那さんと出会ったの。
——旦那さんは洋食じゃなくて旅館の板前をやってたんですか?
関さん:そうなの。でもその前はイタリア軒で洋食のコックさんやってたの。昔は和食でも洋食でもなんでもできなきゃダメだったのね。それで結婚することになったから新発田にある旦那さんの実家に来て、「関洋軒」を手伝うことになったんですて。
——初めてやる洋食屋の仕事は大変でしたか?
関さん:お義母さんはきっつい性格だけど利口な人だったから、おかげさまでそんなに難儀した覚えはないね。
——ではここらへんで、おすすめの料理を教えてください。
関さん:人気があるのは「タンシチュー」だね。うちで使っている牛肉はA5ランクのいい肉なの。さっと湯がくだけで美味しく食べれるほど新鮮な肉。ソースは肉や野菜を煮立てたところに、八色スイカのジャムを加えて作ってるんですて。創業以来ずっと継ぎ足して使ってるソースだからまろやかなコクがあるのよ。
——え?このソースってスイカのジャムが入ってるんですか?
関さん:知り合いの農家にお願いして作ってもらってるジャムで、八色スイカを絞ってから煮込むんだけど、ドラム缶一本煮ても最後はインスタントコーヒーの入っている瓶2〜3本分しか残らない希少なもんなの。でもスイカのジャムがソースに入ってるっけ甘さとコクが出るんですて。
——他にもおすすめメニューってありますか?
関さん:「ピラフ」らろっかねぇ。メニューの上では「ピラフ」だけど、本当は米料理の上にグラタンが乗っている「ドリア」なんですて(笑)。「ピラフ」は3種類あって、それぞれ中身の米料理が違うのよ。「チキン」はチキンライス、「カレー」はドライカレー、「ポーク」はチャーハン。
——お客さんから人気があるのはどんなお料理ですか?
関さん:カツ丼とかカキ丼は600円で出してるから人気があるね。なかなかその値段で食べられるとこも少なくなってるでしょ。あと、ほとんどのメニューがテイクアウトできるから買って帰るお客さんが多いの。その時は直接お店に来て注文してもらってもいいけど、待ってもらうことになるから電話で予約してもらった方がいいかもね。
——今後はどんなふうにお店をやっていきたいですか?
関さん:みんながんばってるんだけど、新発田もどんどん活気がなくなってきてるね。その上、新型ウイルスの影響でもっとさみしくなっちゃってるもんね。なんとか活気が戻るように盛り上げていけるといいけどね。あとは代々受け継がれてきた味を変えずに守り続けていけたらいいですて。
88歳でも、聞くのも話すのもしっかりしている関芳江さん。とてもチャーミングで、取材中もいろいろなことに協力してくれました。飾らず気遣いのできる人柄に、長く続いているお店の人気の秘密を知ったような気がしました。これからもお身体に気をつけて、伝統の味を守り続けてください。
関洋軒
〒957-0053 新潟県新発田市中央町3-11-9
0254-22-2040
11:00-14:00/17:00-21:00