長岡市にある「社長の図書館」は、地域のことを若者に知ってもらおうと、長岡商工会議所に勤めている矢部さんが運営している私設図書館です。この図書館では、長岡に関わりのある人から寄贈された本を、39歳までの若者に貸し出しています。本を寄贈する人は若者へのメッセージを、借りた人は本を読んだ感想を添えるようにお願いしているそうで、本を介して人と人のつながりを生んでいるのだとか。とても素敵な取り組みですよね。今回は、「社長の図書館」の館長、矢部さんに詳しくお話を聞いてきました。
社長の図書館
矢部 雅信 Masanobu Yabe
1987年長岡市生まれ。「社長の図書館」館長。日本大学を卒業後、長岡商工会議所へ就職。2020年8月より、趣味と地域貢献を兼ねた活動として「社長の図書館」をスタート。
——Instagramで「社長の図書館」を知り、気になってお邪魔しました。まずは、「社長の図書館」がどういうものか教えてください。
矢部さん:長岡にちょっとでも関係がある人から寄贈いただいた本を、39歳までの方に貸し出している私設図書館です。本を寄贈いただく方からはメッセージを、借りる方からは返却時に本の感想を添えてもらうようにお願いしています。地元の経営者さんから本をいただくこともあるので、若者が長岡の社長や会社を知るきっかけになればいいな、と思ってこの取り組みをはじめました。
——本にメッセージを添えるのが素敵ですよね。
矢部さん:たとえば、人生経験が豊富な人が若者に読んで欲しい本を寄贈してくださるとき、きっとその本にはいろいろな思いが込められていると思うんですよね。若者に伝えたいこととか、自分がどんなときに読んで何を思ったとか。そういうメッセージを添えてもらえば、若者に刺激を与えられるんじゃないかと。
——そもそも、どうしてこの活動をはじめようと?
矢部さん:僕は新卒で長岡商工会議所に就職して、今も勤めているんですけど、職業柄20代の頃から経営者さんとの接点がたくさんあったんですよね。いろいろな場面で、社長さんたちの熱い想いや趣味の話なんかを聞かせてもらいました。でも、これって今の仕事に就いているから経験できることであって、普通はまずないことだと思うんです。
——確かにそうかもしれません。
矢部さん:それで、若者が長岡の社長のことを知れば、その社長がいる会社に興味を持つことになるんじゃないか、と思ったんです。社長を知ることで、もっと大勢の若い人が「長岡で働きたい」と思うかもって。
——それで「社長の図書館」という名前なんですね。
矢部さん:はい。ただ、寄贈主は社長でなくてもいいんですよ。当初、若者に長岡の社長のことを知ってもらいたいと思ってはじめたので「社長の図書館」と名付けたんですけど、ちょっと紛らわしい名前でしたかね……。
——とても覚えやすい、いい名前ですよ。ちなみに、図書館にしようと思ったのはどうして? 矢部さんが本好きだから?
矢部さん:僕が本を好きになったのは、20代後半です。それまでは漫画ばっかり読んでいました(笑)。去年の2月に、ボーッと考えごとをしていたとき、この仕組みを思いついたんです。調べたところ、非営利で本を貸し出すことは法律的にも問題がないことが分かりました。それで、実現に向けて動き出したら、タイミングよく今の物件と巡り合ったんですよね。
——ほうほう。
矢部さん:この活動を思いついて、不動産屋さんに相談したら、住まいと図書館を兼ねられるこの物件を紹介してもらったんです。僕、去年の春まで実家に住んでいて、そろそろひとり暮らしをしようと思っていたところだったんですね。この物件を借りれば、ひとり暮らしもやりたいこともできるから、僕にぴったりだったんです。「もう、これはやるしかない」って思いました。
——本を借りる人を39歳までとしたのは?
矢部さん:長岡市の「ながおか・若者・しごと機構」に出向したことがあって、行政としても積極的に若者が地元に定着することに取り組んでいると感じたんです。それに、自分が楽しく活動できるとしたら、相手は若者だろうと思ったので、39歳までとしました。でも、実際は40代以上の方でも大歓迎ですよ。
——今は何冊くらいの本があるんでしょう?
矢部さん:1,000冊以上はあります。なかには、一度にまとめて何冊も寄贈していただいたので、メッセージが添えられていないものもありますが。
——たくさんあるんですね。
矢部さん:本屋さんでも図書館でも、カテゴリーごとに本が整理されていますけど、僕、そんなに本に詳しくないし、分類していると手間がかかりすぎるので、漫画以外は適当な場所に置いています(笑)。でも、かえってそれがいいみたい。普段手にしない本が目に飛び込んで来たり、たまたま見つけた本に発見があったりするみたいで。
——長岡商工会議所に勤めている人が館長さんだなんて、びっくりされませんか?
矢部さん:たまに「商工会議所に務めているのに、副業して大丈夫なの?」と言われるんですが、収益を得ずにこの図書館を運営しているので、副業ではなくて「趣味」なんですよ。むしろ、お金は出ていく一方で……。職場の皆さんには「社長の図書館」の活動を応援してもらっていて、たくさん本を寄贈していただきました。
——本業と「社長の図書館」を両立する上での苦労などは?
矢部さん:自分のできる範囲で楽しみながらやっているので、苦労はないですね。そうでないと、この活動を長く続けられないと思うし、来る人だって楽しいと思わないでしょうから。
——仕事をされていることもあって、開館日は週末の1日なんでしょうか?
矢部さん:本の返却箱はいつも用意しているんですけど、基本的には週末に1日だけ開けています。あまり先の予定は決めずに、次回の開館予定をInstagramなどでお知らせするスタイルにしているのは、無理なく続けるためでもあるんです。利用者さんにはご不便をおかけしてしまうかもしれませんが、きちんと本業の仕事をすることが大前提なので。
——本業をおろそかにせず、活動を続けようとしている矢部さんの姿勢、とても素晴らしいですね。
矢部さん:「社長の図書館」を始められたのは、本業でいろいろな仕事をさせてもらったお陰だと思っているんです。企画立案から実行まで、一連の流れを経験できる職場なので、図書館を始めるために必要なもののリストアップや予算面の計算など、今までの仕事にたくさんのヒントがありました。
——実際に、この図書館で生まれる人間関係も?
矢部さん:テントサウナを運営している人が本を寄贈してくれて、その人をサウナが趣味だという人に紹介しました。今では、一緒にサウナに行っているみたいですよ。それと、写真が趣味の大学生同士を引き合わせたこともありましたね。コロナ禍で、友達ができにくいみたいだし、仲良くなってくれたらいいですよね。
——これから考えていることは?
矢部さん:新型コロナウイルスが落ち着いたら、社長と若者が直接コミュニケーションを取れる場を企画したいと思っています。それから、カフェをやりたいとか、写真を展示したいとか思っている若者に、この場所を提供して、やりたいことにチャレンジしてもらいたいとも思っています。若者が一歩踏み出すきっかけづくりができればな、と。
——いいですね! 最後に、なにか伝えたいことなどありますか?
矢部さん:「あまり開けることができなくてすみません」というのと、「気軽に来てください」とお伝えしたいです。できる範囲で細々と運営しているので、目立つ看板を設置したりできていないんです。そのせいか、入りにくいと思う方もいるみたいで……。自分らしく、ラフにやっている図書館なので、ぜひ気軽に遊びに来て欲しいです。
社長の図書館
長岡市日赤町1-6-1