古民家を改築した工房で、器やオブジェを生み出す陶芸家「廣川智子」。
ものづくり
2021.11.16
暮らしの中で欠かせないもののひとつに「陶器」があります。新しい器を手に入れて料理を張りきったり、高価な器での食事がいつもより美味しく感じられたり……皆さんもそんな経験、ありませんか? 陶芸家の廣川智子さんは、長岡の「一黙窯」という工房で、味わい深い陶器や存在感のあるオブジェを創作しています。今回は廣川さんから、陶器のこと、陶芸の面白さ、いろいろとお話を聞いてきました。


一黙窯
廣川 智子 Tomoko Hirokawa
1966年長岡市生まれ。新潟大学教育学部彫塑科を卒業し、新潟市内の中学校で美術科の教員となる。その後、茨城の製陶所や栃木の陶芸家の下で修行を積み、1999年に長岡市で「一黙窯」を開設し陶芸家としての活動をはじめる。
中学校の先生を辞めて、陶芸家を目指す。
——廣川さんは昔からものを作ることが好きだったんですか?
廣川さん:子どもの頃は絵を描くことが好きでしたね。だからものづくりに関わるような仕事をしたいと思って、美術の先生になるために新潟大学教育学部に入ったんです。大学では彫塑科で彫刻を学びました。
——じゃあ、卒業後は美術の先生になったんですね。
廣川さん:新潟市内の中学校で美術を教えていました。美術って本来は教えられるようなものじゃないと思うんだけど、子どもたちが「ものを作ること」に向き合う時間も、やっぱり必要なんですよね。私の授業が美術に興味を持つきっかけになってくれたらいいなって思っていました。
——「ものを作ること」の楽しさを子どもたちに教えていたわけですね。でも、どうして先生を辞めたんですか?
廣川さん:美術の授業の他にも、クラス担任や部活の顧問をやっていて、自分がもの作りをする時間が全然なかったんです。私がやりたかったのはものを作る仕事で、人に教えることじゃなかったんだ、って気づいたんですよね。
——なるほど。でも、ものを作る仕事もいろいろありますよね。陶芸を選んだのは?
廣川さん:大学時代に彫刻をやっていたんですけど、同じ粘土を使う仕事でも、食べていけるのは陶芸かなって思ったんです。焼物の名産地には陶芸を教える職業訓練校があることが多いので、そこで勉強したいと思って、焼物の名産地巡りをしてみました。そのとき茨城にある「笠間焼」の産地で、従業員を募集している製陶所に出会ったんですよ。
——その製陶所が陶芸への第一歩だったわけですね。
廣川さん:はい。でも仕事自体は店番だったんです(笑)
——え……もの作りじゃない……。
廣川さん:そうなんです。でも社長にお願いして、業務が終わった夜間に工場のろくろを使って練習させてもらいました。ろくろの基本はそこで学びましたね。

陶芸家の弟子として、厳しい修行の日々を送る。
——製陶所ではずっと店番の仕事をしていたんですか?
廣川さん:職業訓練校を卒業した新人が次々と入社してろくろを使っているのに、私はいつまでも店番のままだったので、もの作りがしたいという悶々とした気持ちをずっと抱え続けていました。そんなある日、作品展を見に行ったギャラリーで、肥沼美智雄(こいぬまみちお)さんという益子の作家さんと出会ったんです。その方とお話ししているうちに、自分のところで働かないかと誘っていただきました。
——じゃあそれからはその陶芸家さんのところで。
廣川さん:昔ながらの「内弟子」というかたちで修行することになりました。先生の家に住み込みをして、お食事の支度やお掃除といった家事もやりながら働いたんです。厳しい修行ではありましたけど、家賃や食費がかからずに仕事を覚えることができたので、ありがたかったですね。
——いまどき珍しい修行スタイルですね。どんなところが厳しかったんですか?
廣川さん:朝食を食べている最中に昼食の献立を聞かれるんですけど、私は朝食の支度が終わったばかりだったので何も考えてなかったんですよ。そしたら「常に先々のことを考えて行動しろ」って厳しく叱られるんです。仕事の段取りにも通じる心構えを教えられましたね。
——なるほど。家事も修行の一部になっているというわけですね。
廣川さん:そうなんです。仕事としては、器よりも彫刻的な作品が多かったので、大学時代にやっていた彫刻の経験が役に立ちましたね。造形についてはほとんど任せてもらえました。ただ、無駄な作業は省いて時間をかけずに作るようにと厳しく教えられました。職人としての心構えを叩き込まれたと思います。

いいものを作っているつもりでも、自己満足ではだめ。
——新潟で工房をはじめたいきさつを教えてください。
廣川さん:益子焼の産地には当時で200軒も陶芸工房があったので、そんななかで独立するのは大変だと思って長岡に戻ってきました。最初は実家の畑のなかにある、車庫くらいの大きさの小屋で創作をしていました。でも、もっと広い場所で創作活動がしたいと思っているときに、使っていなかった古民家を借りることができたので、リノベーションして工房にしたんです。
——陶芸家として、まずはどんなことを?
廣川さん:器を扱っている雑貨店に作品を持って行って、売り込みをして回りました。最初は2軒のお店に持ち込んで、どちらも買い取りしてくださったんですよ。しかも商売のことを何も知らなかった私に、伝票の起こし方や卸売の方法まで教えてくれたんです。本当にありがたかったですね。その後も陶芸教室の講師をやりながら作品を作って、いろいろなお店で委託販売させてもらいました。

——最初の持ち込みで買い取ってもらえたっていうのは、作品を見て感じるところがあったんでしょうね。現在はどういった活動をされているんですか?
廣川さん:雑貨店で委託販売をしてもらったり、オーダーをいただいて作品を作ったり、作品展に出品したりしています。
——オーダーにはどんなものがあるんですか?
廣川さん:飲食店から器を依頼されたり、引出物に贈る器を依頼されたりと、いろいろなオーダーがあります。そのなかで自分が対応できる範囲で製作をお受けしているんです。
——作品展では販売もしているんですよね。
廣川さん:はい、もちろんです。でも作品が売れなくても、出品する意義は大きいと思っているんです。できるだけ多くの人に自分の作品を見ていただきたいですし、お客様の声を聞きたいですからね。もともと在廊することは苦手だったんですけど、お客様の反応を知ることができる機会だと思って、在廊の大切さを感じるようになりました。自分でいいものを作っているつもりでも、自己満足ではだめなんですよね。

窯で「焼く」ことが、陶芸の面白さ。
——陶芸の魅力ってどんなことだと思いますか?
廣川さん:窯に入れて焼くことで、思いがけないものができることじゃないでしょうか。作品を作っているときって、インスピレーションや勢いが大切だと思うんですけど、私はいろいろと考え過ぎちゃうところがあるんですよ。でも窯に入れて焼くときには自分の手から離れてしまうので、そこで諦めがつくというか……。完成した作品が良くも悪くもなるので、賭けみたいなところもあるんだけど、その過程で自分の考え以外の作用が働くのが面白いんですよね。
——完成が読めないところが面白いってことですね。
廣川さん:同じ材料を使っても焼き方次第で変わってきますからね。粘土をこねたり形を作ったり、いろいろな工程のなかでも焼く工程の比重は大きいんですよ。だから窯から作品を出すときには、いつもワクワクしますね。

——器だけじゃなくて、動物のオブジェも作っているんですね。
廣川さん:もともと動物が好きなんですよね。いくら造形しようとしても、結局自然のなかの造形美には敵わないと思っているんですけど、動物のフォルムの美しさを再現できるようにがんばっています。今後は動物以外に、人物のオブジェも作っていきたいんですよね。
——お、人物も。人物を作りたいというのは、何か理由があるんですか?
廣川さん:姪っこが幼稚園のとき、美しい後頭部をしていたのがきっかけです(笑)。あんまり美しい曲線だったので立体化して、以来、いろいろな女の子像を作りはじめました。いずれは女の子像を集めた作品展も開催したいですね。
——それは楽しみですね。
廣川さん:これからも自分の作品を、できるだけ多くの人に見ていただけたらうれしいです。

とっても気さくな廣川さん。彼女の作品は、形が美しいだけでなくどこかユーモアがあって、どことなく廣川さんの人柄に重なるようでした。こんな器やオブジェが暮らしのなかにあったら、毎日がもっと楽しくなるかもしれませんね。
一黙窯
長岡市鳥越1822
0258-47-7222
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