採れたての自然栽培野菜を農家から食卓へ、「つなぐ」の本田響子さん。
ものづくり
2021.06.25
「毎日食べるものだから、安全で美味しい野菜を選びたい」そう考えている主婦の方はとても多いと思います。主婦じゃなくても、野菜を買うときに産地に気をつけたり、顔の見える生産者さんの野菜を買うといった選択をすることは、だんだんと普通のことになってきました。今回ご紹介するのは、農薬や化学肥料を使用せずに作られた「自然栽培」の野菜を、農家から直接、消費者の食卓に届けてくれる「つなぐ」の本田さんです。ご自身が「美味しい野菜」のファンであるという本田さんの日々の仕事の様子を実際に見せてもらって、いろいろとお話を聞いてきました。


つなぐ
本田 響子 Kyoko Honda
1985年東京生まれ。仙台大学卒。栄養士と体育教員の免許を持っている。学生時代は陸上一筋(400mハードル)。栄養士などのキャリアを経て、自然栽培の野菜を消費者へ直接届ける「つなぐ」の活動をはじめる。現在、3人目のお子さんを妊娠中。ピアスが好きで、かわいいピアスを見つけると買っちゃう。
陸上をずっとやっていて気づいた、食の大切さ。
――本田さんは自然栽培の野菜を消費者に直接届ける「つなぐ」の活動をされていますが、まずは、本田さんご自身のこれまでのことをお聞きしたいと思います。子どものときから、食への関心はあったんですか?
本田さん:私は小学5年生から大学4年生までずっと陸上をやっていたんです。生粋の体育会系で。ほら、部活ばっかりしている子っているじゃないですか。
――いますね。いつ見てもジャージ着てる感じの。
本田さん:そう、それでした(笑)。ずっとタイムを縮めることしか考えていなかったですね。でも高校生のときに減量を頑張り過ぎて貧血になっちゃって。そこから栄養と運動のことをすごく勉強して、スポーツ栄養士を目指すようになったんです。
――じゃあ大学はそういう勉強ができるところに?
本田さん:仙台大学に進んで、陸上やりながら、陸上部の長距離の選手の栄養指導とか栄養サポートの研究会の活動をしていました。タイムを全部データにして食事との関連を調べたりとか。だから一応、栄養士と教員免許を持っています。
――陸上に明け暮れていたときの食事は?
本田さん:もともと、食に対して敏感な家庭で育ったんです。20年以上前ですけど、その頃から母が地球環境にやさしい洗剤とか、オーガニックの野菜をわざわざ買っていたから。高校の陸上部もけっこうレベルが高いところで、食事指導をしてくれる先生だったんですよ。ジャンクフードを食べないように言われたりしていましたね。
――その頃からもう食に関しては意識が高かったわけですね。
本田さん:そうかもしれないですね。でも、減量したくてお肉を食べるのをやめて菜食に変えたら、それをやり過ぎちゃったという(笑)。私、一回決めると頑固にストイックにとことんやるタイプなので。そうしたらタンパク質が足りなくて走れなくなっちゃって。倒れそうになってからやっと、「この食生活はまずいかも……」ってようやく気づいたんです。

主婦になって感じた気持ち「もっと美味しい野菜を食べたい」。
――社会に出てから「つなぐ」をはじめるまでは、どうされていたんですか?
本田さん:大学のときから付き合っている夫が佐渡の出身で、夫は新潟で就職したんですけど、私はもともと横浜で育ったので、関東に戻って老人ホームで3年間、栄養士をやっていました。でも365日3食の食材発注、調理、衛生管理、売上管理、パートさんのことなどすべて任されていたので、激務過ぎて。始発の4時に電車に乗って20時に帰るみたいな生活を3年続けたら苦しくなってきちゃって、それで結婚するタイミングで新潟に来ました。
――新潟にやって来て、お子さんも生まれて、そこから変化があったわけですね。
本田さん:子どもを産んでからは食のことを改めて考えるようになりましたね。週末に安売りのスーパーに通ったんですけど、そこで売られている野菜が美味しいと感じられなくて。自分が主婦になって料理するとなったら、そういう野菜に満足できなくなっちゃったんです。それから自分で世の中のことを考えたり、勉強したりしているうちに、大人の事情で日々の食にはいろいろな問題があるということがわかりました。
――それは世の中の仕組み的に、ってことですか?
本田さん:日本は他の国と比べて、農薬とか添加物の使用量がすごく多いんですね。「日本の食ってけっこうやばいかも」って感じたり、「小さいときに家で食べていた野菜は美味しかったよなあ」って思い出したりして、それから、新潟で自然栽培をやっている農家さんを探すようになったんです。それでめぐり会ったのが、今お付き合いをしている農家さんたちなんですよ。

野菜売場で知ったこと、感じたこと、挑戦したこと。
――直接、農家さんにコンタクトをとったんですか?
本田さん:最初は自然栽培の農法を伝えてくれる有名な方の講演を聞きに行ったんですよ。そのとき、「この人、自然栽培の野菜作っているんだよ」ってその講演にいた方を教えてもらって、すぐナンパしたんです(笑)。「私、そういう野菜がすっごく食べたいんですよ」って。私は当時ペーパードライバーだったし、子どももまだ小さかったから、「もしできたら野菜セットにして配達してもらえないですか?」ってお願いしたんです。それで配達してもらったのがはじまりですね。それが6年くらい前かな。
――配達してもらった野菜は美味しかった?
本田さん:もう、本当に美味しかった。それでだんだん農家さんと触れ合うようになっていって、そうこうしているうちに二人目の子どもを出産して、その後、「ナチュレ片山」に出会ったんです。「ナチュレ片山」は新潟で唯一、自然栽培の農家さんの野菜を集めて売場を作っているところだったんですよ。ビビッときて、パートスタッフとして働きはじめて、そうしたらしばらくして希望通りに野菜売場に立たせてもらえるようになったんです。そこで2年くらいずっと働いて、パートのくせにバイヤーさんみたいに発注かけたりもしていました(笑)。私の熱量はハンパなくて、「こういう野菜をみんなに食べてもらいたい!」と思って、興味ありそうなお客さんにはばんばん話しかけて、めっちゃ接客してたんですね。そしたら「野菜売場のあの子」みたいになって(笑)
――「好き」がだだ漏れしている感じですね(笑)
本田さん:あるとき、夏に農家さんの野菜が大量に採れた日があって、みんなが夏野菜をどっさり持って来てくださったんですけど、あまりにも多すぎて「これをすべて売りきるのは難しいな…」ってなっちゃって。2階のレストランで使っても使いきれないほどの豊作で。そのとき、スタッフやりながら、「ここ以外にも、もっと他に農家さんの野菜の売り先があってもよくない?」って思ったんです。それがきっかけで「つなぐ」をはじめたんです。
――その夏にすぐ、はじめたんですか?
本田さん:そうです、その夏に。そもそも、自然栽培をやっている農家さんが、野菜を育てて、それを収穫して、売り込みして、さらに配達して、っていうのはキャパ的にとても大変なんですよ。だから前から「農家さんの力になりたいな」とは思っていたんです。だからこれを機に、「よし、やってみよう」ってなって。


大量生産できないからこそ、直接農家さんと消費者をつなぐ個人が必要。
――自然栽培っていうのは、具体的にどういうことなんですか?
本田さん:これが定義っていうのはないんですけど、一般的にいわれているのは、農薬、化学肥料、そもそも肥料すら使わずに、自然の循環の中で育てるっていうやり方です。有機肥料が入ると「有機栽培」。農薬、化学肥料を使って育てると「慣行栽培」といわれていて、今、日本のほとんどの野菜は慣行栽培です。自然栽培の野菜って1%を切る希少な野菜なんですよ。
――ということは、自然栽培で野菜を育てている農家さんの数が、まずもって少ないわけですよね。
本田さん:やっている人も少ないですね。結局、自然栽培をやって、それが農家さんの一家の大黒柱になる収入源になるかっていうと、とても厳しいのが現状です。もちろん、自然栽培だけで生計立てられている農家さんもいらっしゃいますけど、ごくわずかだと思います。
――大量生産して大きな売上をつくるということができない。
本田さん:自然の中のキャパって人間都合じゃないので、計画した数字通りに収穫できるというものじゃないんです。自然栽培は、自然の中で生まれたものをありがたくいただく、というスタイルなので、どうしてもビジネスとして成立させるのが難しいんですよ。でもそうやっていいものを提供してくれる農家さんにもっとお金をまわしたいという気持ちもあるんです。

――だから、「つなぐ」のお野菜セットの仕組みを考えたわけですね。
本田さん:店舗に野菜を置いても、お客さんが来てくれなければ傷んじゃって、破棄する野菜もどうしたって増えちゃうんです。だから私的に、農家さんの採れたての野菜を「野菜セット」として組んでしまって、「今日は旬の野菜、これが採れました」というスタイルで直接お届けして販売するのがいちばんロスが出ないし、農家さんからもきちんと買取ができて自分も在庫を抱えないので、いいシステムじゃないかなと思っています。
――確かに無駄がないし、「多少高くても美味しい自然栽培の野菜が食べたい」という人にとってもありがたいサービスですね。ところで、一般の消費者だけじゃなく、飲食店からのオーダーもあったりするんですか?
本田さん:今は飲食店さんがどこも苦労しているじゃないですか。コロナ禍になってから、逆に差別化じゃないけれど、「自然栽培の野菜を使っています」という工夫をはじめる飲食店さんは増えていますね。店がお客さんであふれて忙しくて、「この時間にこれだけの量の野菜がほしい」っていうリクエストだと、野菜の量が保証できない自然栽培だと対応できないことが多々ありますけど、今はお客さんが少なくて、そのお客さんにどれだけ他と違うものを提供できるか、っていうことを皆さん考えているので、以前より需要があると感じています。
――営業はどうやっているんですか?
本田さん:基本的に口コミで広めてもらっているんですけど、注文がだんだん多くなってひとりでは対応しきれなくなっちゃって。それで今、妊婦でもあるので、お世話になっている方に紹介していただいて、いろいろとお手伝いしてもらっているママさんがいます。自然栽培の野菜の価値を認めてくれる人の中には、自分から「手伝いたい」って手を挙げてくれる人もいますね。


旬の採れたて野菜の価値をわかってくれる人へ、応援してくれる人へ。
――野菜セットの中身は、すべて新鮮な採れたてのものなんですよね。
本田さん:その日に収穫した野菜だけでセットを組むのがベストではあるんですけど、物理的に遠い場所の農家さんだと、前の日の夕方に採れたものとかの場合もあります。でも最低でも前の日のものですね。それよりも前のものは絶対に売らないって決めています。タケノコなんかは足が早いから「朝採って欲しい」って無理を言ってお願いしたりしています。
――なるほど、じゃあもう本当に採れたての野菜が楽しめるわけですね。
本田さん:私の届ける野菜って旬のものだから、常ににんじん・タマネギ・じゃがいもがあるわけじゃないんです。だから旬は旬でこの野菜を楽しんでもらって、それ以外に必要な野菜はご自身で購入していただくのでもよし、季節の「つなぐ」の野菜だけで工夫して楽しんでいただくのもよし。バランスよくやってもらえたらいいかなと思いますね、臨機応変に。例えば嗜好品として月一回の注文の人もいるし、毎週だと家計が苦しいなという人は隔週のお届けだったりするし。東京とか行くと私が売っている自然栽培の野菜って倍ぐらいの値段がするんですよ。
――こうやって農家さんと消費者の食卓をまっすぐにつないでくれる人が個人でいるっていうのは、農家さんとしてもありがたいことなんじゃないですか?
本田さん:自然栽培の野菜が必要な方へダイレクトに届けるつなぎ手が必要とされているからこそ、農家さんも私みたいな個人に卸して下さっているのだと思っていて。わざわざ遠くの農家さんが新潟市まで野菜の受け渡しに来てくださったりもしています。私、農家さんから野菜を仕入れるときは基本的に値切らないんです。そうじゃないとなかなか農家さんもやっていけないし。だからやっぱり「ちょっといい値段だね」ってなっちゃうんだけど、食べて応援というか、そういう考えで買ってもらえると嬉しいなっていうのはありますね。

これからも「美味しい」を共感し合いたい。
――つないでいるのは、人と人、ですもんね。
本田さん:結局、人間関係がよくないと、つなぐことができないんで。ただ自然栽培は収穫できる量が限られるので、ビジネスとして買ってくれる人を増やせばいいかっていうと、供給が追いつかないっていうジレンマも抱えています。
――だって、安くならないですもんね、野菜の作り方として。
本田さん:そうなんですよね。同じ面積で100採れるのと10採れるのじゃ、単価は全然変わってくるし。大きな会社がやろうとすると買取の条件がすごく悪かったりするわけですよ。
――むしろ、個人だからできること、のように感じます。
本田さん:私ってすごいアナログ人間で、ネット販売とか手段はいろいろあるかもしれないんですけど、食べる人とマンツーマンで関わりを持ちたいなと思うんですよ。そういうのが好きなんですよね。だから農家さんとちゃんと会って話を聞きたいし、栽培している場所に立って、そこの雰囲気を感じたいし。あとお客さんとの会話の中で「美味しかった」「全然違うね」とか言ってもらえると、本当に嬉しいし、やっていてよかったなと思いますね。誰よりも自分がそういう自然栽培の野菜のファンだから、一緒に「美味しいよね」「すごいよね」って感想を共有できるのはやっていて楽しいですね。
――本田さんの家の食卓にも、このお野菜が?
本田さん:もちろん。誰よりも味を知っていないとダメだから。真っ先に自分が食べるっていうのは大切にしています。
――いちばん美味しいものをいちばん美味しいときに、いちばん美味しい状態で食べられるって羨ましいです。
本田さん:それもそうですし、生産者さんとのつながりの価値って、お金にはかえられない、すごい貴重な財産なんですよね。私はそこにこの仕事のやり甲斐を感じていますね。


旬のお野菜セット(10~15種類)
¥3,000 前後(収穫内容によって)
※収穫したてのお野菜をお届けしています。
つなぐ(本田響子)
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