長岡野菜が主役。郷土愛を育む絵本作家「わだ えつこ」。
カルチャー
2021.05.22
コシヒカリや黒崎茶豆、越後姫など、新潟には風土を生かした美味しい食べ物がたくさんあります。そして長岡にも伝統を脈々と受け継ぐ野菜が。そう、長岡野菜です。今回は、子どもたちに郷土の魅力を伝えるため、長岡野菜が主役の絵本を制作している「わだ えつこ」さんにお話をうかがってきました。

わだ えつこ Etsuko Wada
1984年大阪府生まれ、長岡市育ち。地元の高校を卒業し、埼玉大学へ進学。和食の料理人である旦那さんと横浜、栃木に転居し、2013年長岡市にUターン。旦那さんが経営する和食店「わだの」で女将として働きながら、2016年より絵本作家として活動をスタート。長岡野菜を題材とした「ぼく きんちゃくなす」「たあこ と なあこ」を制作。
地元嫌いから一転、東日本大震災で気づいた長岡市の魅力。
——わださんの絵本は長岡野菜が主役なんですね。長岡への愛を感じます。
わださん:そうなんです。長岡巾着ナスや糸ウリ、肴豆、だるまれんこんなどの長岡野菜をキャラクターにすることで、子どもたちに長岡市をもっと好きになってもらいたくて絵本を制作しています。でも……私は大人になるまで長岡市が嫌いだったんですよね(笑)
——え? そうだったんですか? 驚きの本音が飛び出しましたね(笑)
わださん:私が小さい頃は、長岡は大型商業施設がないし、右も左も田んぼだらけだし、ディズニーランドも遠いし……、田舎だから嫌だったんですよね。それで、「都会には行きたいけど東京で暮らすのはちょっと怖い」と思って埼玉大学に進学したんです。結婚してからも夫の仕事の都合で横浜と栃木に暮らしていたので、しばらく関東住まいでしたね。
——今ではいろんな商業施設やお店があって、当時とは違いますもんね。長岡市に戻ってきたのは、何かきっかけがあるんですか?
わださん:横浜に住んでいたときに、東日本大震災を経験しました。震災直後にスーパーに行ってみたら、いろんな物が品薄状態で。当時は子育て中だったから、子どものためにご飯を作らなくちゃいけないのに、食材が手に入らない状況で。「このままだと死んじゃう……」と、すごく不安になりました。あの経験をしてから、お米や野菜を生産してくれる農家さんが近くにいる環境って、とても心強いことだと気がついて。それで長岡市の農業をもっと知りたいと思うようになって、帰ろうかと考えはじめました。

——そんな経験をされていたんですね。
わださん:育った町のありがたみや素晴らしさが、大人になってようやく分かったんですよね。長岡が恋しくなって、夫婦ともに長岡出身だし、料理人の夫はゆくゆくは地元で独立する考えだったから、2013年に私と子どもで一足早く帰って来ちゃいました(笑)
——よっぽど長岡が恋しかったんですね(笑)。関東では子育て中心の生活だったそうですが、長岡ではどんな過ごし方をしていますか?
わださん:地元で作られる農産物に興味があったから、農業イベントに何度も参加しました。そこで長岡野菜のことを初めて知って、面白い農家さんにも出会えたんです。長岡野菜はすごく美味しいし、戦前からある伝統野菜だというのに知らずにいたことを「身近にこんな素敵な野菜があったのに、もったいないことをしていたな」と思いましたね。それで、「子どもたちには小さい頃から長岡野菜の魅力を知って欲しい」と思って、野菜が主役の絵本を作ろうと考えたんです。

郷土愛を育むお手伝いをする、わださんの絵本。
——子どもに長岡野菜のことを伝えるには、絵本はぴったりですね。
わださん:そうなんです。絵本って、子どもの世界を広げる力があります。子どもに絵本を読んであげると、関心や知識がどんどん広がっていくのが分かるんです。大人が教えるより、絵本から知ることの方がスーッと浸透しているんだろうなって思うことが何度もありましたね。
——絵本は、以前から制作していたんですか?
わださん:趣味の範囲では作っていました。本格的に絵本作家としての活動を始めたのは2016年からです。
——ってことは、子育てしながらですよね。
わださん:主婦だった私が「絵本を作りたい」って思ったところで、どうしたらいいか全然分からなくて、「ながおか・若者・しごと機構」に相談したんです。そしたら、編集者やデザイナー、農業に関わる経営者を紹介してくれて、そのメンバーで「長岡野菜絵本プロジェクト」を創設して、「ながおかやさい ぼく きんちゃくなす」を制作しました。右も左も分からない状態だったけど、いろんな人に協力してもらって、念願の絵本を作ることができたので、すごく達成感がありました。長岡は、やりたいことや夢がある人に全力で力になってくれる町なんだって実感できましたし、今考えると……自分でも「よくやった」って思います(笑)
——いろんな出会いがあって、絵本が完成したんですね。
わださん:ひとりで作ると伝えたいことが前面に出てしまって、読み手の捉え方まで考えられていなかったけど、プロジェクトのメンバーからいろいろとアドバイスをもらったり、農家さんに取材に行ったりして完成度を上げることができましたね。

絵本の物語を通して伝える、長岡野菜の特徴。
——「ながおかやさい ぼく きんちゃくなす」は、どんなお話なんですか?
わださん:長岡の郷土料理とも関係が深い「巾着ナス」が主役です。巾着ナスは、水分が少なくて硬さがあるから、蒸してもフニャッとならなくて美味しいんですよ。からし醤油で食べるのが一般的だけど、ドレッシングをかけると子どもでも食べやすくなって我が家で人気のメニューなんです。というような巾着ナスを紹介する物語を、1冊の絵本に子どもたちが楽しめるようにまとめています。
——2作目の「きょうだいばたけの たあことなあこ」は?
わださん:体菜と長岡菜を主役にして、似ているけど違うふたつの野菜を比べている物語です。それぞれ煮菜の材料として定番ですが、赤ちゃんのときから葉っぱの形が違うし、比較したら面白そうだと思ったんです。長岡菜は、あまり作られていないけど、せっかく地名が入った野菜だから取り上げたくて、農家さんにお願いして、観察用に栽培してもらった苗を大事に育てた様子も絵本にしました。
——根気のいる絵本製作ですね。そういえば、わださんは学校での授業も行なっているんですよね?
わださん:はい。長岡市の小学2年生は野菜作りの体験をするし、5年生は長岡野菜について学ぶ機会があるんです。そこで絵本を教科書代わりにして、長岡野菜のことを教える授業をさせてもらっています。絵本には、長岡花火や東山連峰などの風景も描いているから、見慣れた景色にはすぐに気がついてくれるんですよね。昔の私と違って、今は長岡が大好きな小学生が多いみたいなので、嬉しいですよね。

目標は、毎年新しい絵本を出すこと。
——わださんは絵本作家でありながら、割烹の女将さんでもあるんですよね。
わださん:そうなんです。3年前に夫が経営する割烹「わだの」がオープンしてから、女将業にも時間が取られます(笑)。ふたりの子どもはまだ小学生で手が掛かるし、自宅では絵本作りに費やす時間が取れないから、湯船に浸かりながらストーリー構成やキャラクター作りをしているんですよね。お風呂だけが誰にも邪魔されない時間なんです(笑)
——それだけ、絵本を作ることが好きなんですね。さて、最後に今後の展開についても教えてください。どんな活動を考えていますか?
わださん:これまで2冊の絵本を作りましたが、完成させるだけじゃなくて、継続的に発信する必要があると感じているので、1年に1冊のペースで作品を出したいと思っています。絵本を上手に活用して、子どもたちを集めてイベントを開催するのも面白そうだし、これからも子どもたちが長岡野菜を好きになる活動をしていきたいです。

わだ えつこ
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