これからも、より自由な絵を。
燕市で活動する日本画家、安田洋さん。

その他

2025.12.10

text by Ayaka Honma

燕市を拠点に活動する日本画家、安田洋さん。東京で生まれ、現在は燕市で暮らしながら作品を制作しています。そんな安田さんが描く作品は穏やかで、いきいきとした色合いが印象的です。今回は安田さんのアトリエにお邪魔して、絵を描きはじめたきっかけや、新潟に移住をしたこと、作品のことなどについて、お話を聞いてきました。

Interview

安田 洋

Hiroshi Yasuda

1974年東京都出身。武蔵野美術大学で日本画を学び、大学院を修了後、画家として活動しながら、高校や絵画教室で絵を教える仕事に携わる。2010年より燕市に移住し、制作活動や絵の教育活動をする。好きな日本画の色は「緑青(ろくしょう)」で、休憩中の相棒は、本とトランプ。

絵が好きなことに気づいた、
大学3年生の、春休み。

――今日はよろしくお願いします。まず、安田さんが絵を描きはじめたのはいつ頃なんでしょうか。

安田さん:何歳からか、はっきりは覚えていないのですが、子どもの頃から絵を描くのは好きでした。家族でよく展覧会を観に行っていましたし。でも、その時から画家を目指していたわけではなかったんです。音楽も好きで、高校のときの芸術選択は音楽でしたし、大学進学も、音楽の道を進もうか迷ったくらいです。

 

――それでも、絵を描くことを選ばれたんですね。

安田さん:すごく迷ったし、親にも反対されたんですけどね。でも、絵を描くことはずっと好きでしたし、日本画は洋画と比べて技法も特殊だったので、「大学で専門的に勉強しないとできないな」と思って日本画を学ぶことにしました。風景画を描かれていた土屋禮一(れいいち)先生という方の作品がとても好きで。先生が教授を務めている武蔵野美術大学に進みました。

 

――美術大学ってどんなことをしているのか、イメージがつかみにくいのですが、安田さんが学生のとき、どんなふうに日本画を学んだのでしょう。

安田さん:まず1年生のときに基本を学びます。日本画だと、描くときに使う絵の具の溶き方みたいなのを勉強します。そこからは、各々課題の制作をどんどんこなしていくって感じですね。とにかく手をたくさん動かすんです。僕は大学院に進んだんですけど、授業のほとんどは制作の時間でした。

 

――そこまで絵と向き合い続けていると、自分だったら嫌いになりそうです……。

安田さん:描いていて辛いなって思うことは、何度かありましたね。大学3年生の春休みのとき、1枚絵を描いてくるっていう課題が出されたんです。「今年はちょっと頑張ろう」って思って自画像を描くことにしたんですけど、全然上手くいかなくて。美術大学に入ってはじめて「やめたい」と思うほど辛かったです。

 

――その後、どうなったのでしょう。

安田さん:提出日の前日の夜まで上手く描けなくて、明け方からまた描きはじめて、ギリギリで提出することができました。仕上がった絵は、最初イメージしていたものと全然違う、暗い作品になったんですけど、「絵ができた」ってはじめて感じたんです。

 

――辛さを乗り越えることができたんですね。

安田さん:描いている途中は、もう辞めたいくらいだったのに、絵を描き終えたあと、すぐに「早く次の絵が描きたい」 って思っていたんです。このとき、「自分は絵が好きなんだ」っていうことにちゃんと気づけたと思います。今思えば、このときの経験が画家としての自分の出発点になっていますね。

 

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東京で活動していた安田さんが、燕へ。
その経緯とは。

――大学を卒業後は、作品の制作をしながら、学校や教室で絵を教えられていたと聞きました。

安田さん:35歳までは東京にいましたね。こう言うと、「どうして新潟に来たのか」ってよく聞かれるので、理由をお話しますね。当時、すでに結婚もしていて、「ちょっと人生の方向を変えてみよう」って思ったんです。美術の教員免許を持っていたので、いくつかの県の教育委員会に履歴書を送ることにしました。

 

――東京じゃない場所で、美術を教えてみようと思ったんですね。

安田さん:そのとき、たまたま燕市の学校の仕事が見つかりました。その学校の校長先生がとても親切な方で、僕の住む家を探してくださって。そうして、燕で美術を教える仕事をはじめたんです。

 

――最初燕市に来たとき、どんな印象を持ちましたか?

安田さん:燕市出身の日本画家である、横山操(みさお)の作品が結構好きで、東京にいたとき観に行ったりしていたんです。燕市にきて、彼の作品の空気と同じだ、と思ったのが最初の印象です。あとは、とにかく広いところだなって思っていましたね。

 

――燕市で住みはじめてから、どんな作品を描かれているのでしょうか。

安田さん:東京と変わらず、風景画を中心に描いているんですが、ほとんど燕の風景になりました。空も広くて、すごく良い景色だから、描きたいものがたくさんあるんです。偶然燕に来ましたけど、この場所はとても気に入っています。あとは、「ガリ版」という手書きの印刷機を使った作品もつくっています。本来は文字を描くためのものなんですが、ここに絵を描くのも楽しいんですよ。

 

某アニメ映画で見たことがある方も多いのではないでしょうか。はじめて、実物を見ました。

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手に入りづらいなら、自分でつくる。
5年以上かけて学んだ、絵の具のこと。

――新潟で制作活動をしてみて、何か変化はありましたか?

安田さん:日本画の絵の具の勉強を、もう一度しっかり勉強したことですかね。日本画の絵の具には、青や緑など色のついた石を砕いてつくるものもあるんです。ただ、新潟県内で日本画材の専門店がなくて。手に入りにくくなったからこそ、絵の具の使い方を勉強し直そうと思ったんです。

 

――ふむふむ。

安田さん:江戸時代の「本朝画法大伝」という技法書に書いてある、色をつくるレシピみたいなのをひとつひとつ試していきました。江戸時代の技法だと自然の素材を使って色をつくるんです。僕の好きな「緑青」という色で例えると、原石は鮮やかな緑色なんですが、砕いたものをフライパンで焼いていくと渋くなっていったり、「藤黄」という黄色い樹液を加えると黄緑色に変化したりするんです。

 

――科学の実験みたいで、面白いです。

安田さん:「本朝画法大伝」に書かれている色を出すために、石の粒子の粗さや火にかける度合い、混ぜ方を変えて、中間色をつくったり、比較的つくるのが難しい紫をつくるために、いろんな赤と青の組み合わせを試してみたり、と、いろんなことを試して色見本をつくったんです。これをつくりながら、自分なりに絵の具を使いこなせる、と感じるまでに5年以上かかりました。

 

――5年以上、それを続けるのは大変だったのでは。

安田さん:これが、面白かったとしか言いようがないんですよ。江戸時代の技法でつくった色はとても綺麗でしたし。絵の具のことを勉強したおかげで、絵を描くときの絵の具の使い方に困らなくなりました。それに、この方法は自然の素材を使って、色をつくるので、燕の自然を描くのにすごく合っているんです。

 

色ごとに引き出しが決まっており、中をみると知らない名前の色がズラリ。

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目の前の対象を大切に、
安田さんの日本画家としてのこれから。

――安田さんが絵を描いているとき、大切にしていることは?

安田さん:描く対象をよく見て写生することですね。写生をしているとき、その前で時間を過ごしますよね。そのとき、その対象を隅々まで見るんですよ。これはもちろん、実物に忠実に、というのもあるんですが、描いている対象をより理解できるように、っていうのもあります。制作の中で、スケッチがいちばん楽しいんですよ。

 

――特に、何を描いているときが楽しいですか?

安田さん:何年か経つと変わってくるんですけど、今は空ですね。燕に越してきて最初の頃は、草でした。草を描いているときは、大きな屏風を描いたこともありました。その次は山で、今の空と変わってきています。どれを描いているときも、スケッチするのは純粋に楽しいですね。スケッチブックを持って外に出るときは、何にも代えられない楽しさがあります。

 

――本当に楽しそうなのが伝わります。最後に、安田さんのこれからやってみたいことを教えてください。

安田さん:いろいろあるんですけど、より自由な絵にしていきたいですね。これからもスケッチをもとに描くと思うんですけど、そこに自分の好きなイメージを重ねて表現してみたり、自分の内に描いてみたい空間や色のイメージがあるので、そういうものを自由に表現していきたいと思っています。

 

最近のお気に入りのスケッチ。

安田洋

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