漆を使って重厚なマンガを描く「竹井友輝」。
カルチャー
2020.07.23
「漆マンガ」って一体なんだ?
「漆マンガ」って聞いたことありますか? 私は今まで聞いたことがありませんでした。おそらく今まで誰もやらなかったであろう、「漆を使ったマンガ」。このニッチなジャンルに挑戦しているのが。漆マンガ絵師の竹井友輝さんです。「漆マンガ」って一体どんなものなのか? 竹井さんに色々教えてもらいました。


漆マンガ絵師
竹井 友輝 Yuki Takei
1984年新潟市北区生まれ。新潟デザイン専門学校卒業後、フランスに渡ってマンガ教室を開くかたわら、エアブラシを使ったマンガの作品制作を始める。当時パリで開催した「第1回マンガ展」を帰国後も第7回まで続けている。ある作品をきっかけに漆を使った「漆マンガ」を描き始め、2020年新潟市北区に「漆マンガギャラリー」をオープン。
苦手だった絵が、いきなり描けるようになった?!
——竹井さんは昔からマンガを描くのが好きだったんですか?
竹井さん:マンガを読むのは好きでしたけど、高校生の頃まで自分で描いたことはありませんでした。むしろ小中学校の頃なんて図画が苦手だったんです。
——それは意外ですね。じゃあ、どうしてマンガを描き始めたんですか?
竹井さん:高校1年生の時にマンガを読んでたら、急に自分でも描けるような気がしてきて、試しに描いてみたら意外と描けたんですよ。同級生に見せたらすごく褒められて、自分の作品が人に喜んでもらえることの嬉しさっていうのを初めて知りました。それからは学校が終ってから毎晩、絵を描くようになったんです。高校では走り幅跳びをやりたくて陸上部に入ったものの、なかなか結果が出せなかったので、そういう情熱が絵に向かったのかもしれませんね。
——なるほど。高校を卒業してからはどこかでマンガの勉強をしたんですか?
竹井さん:はい。1年ほど働いて貯めたお金で「新潟デザイン専門学校」の「コミックアート科」に入学しました。全国のいろんな学校を見て回った中で、一番対応がしっかりしてるように感じたんですよ。高い授業料を納めているので、少しでも元を取らなければって必死に勉強しましたね。

両親の影響で世界一周。その後パリで生活を始める。
——専門学校を卒業した後はどうしたんですか?
竹井さん:世界一周をしました。私の父も母も若い頃に海外で生活していて、フランスで知り合って結婚したんです。両親から外国生活の話を聞かされて育ったせいか、外国で生活するのが大人になるための必要条件だと思っていたんです。それでカナダ、アメリカ、イギリス、フランス、シンガポールといった国々を10ヶ月かけて回りました。
——世界一周なんてうらやましいですね…。
竹井さん:いやあ、お金がなかったから、辛いばかりでぜんぜん楽しくなんかなかったんです。でも日本に帰ってきてから、自分が考えていたものと違ったな…と思ったんです。私がやりたかったのは海外で働きながら生活することで、観光じゃなかったんですよね。そこで今度はワーキングビザを取得してパリに行きました。
——パリではどんな仕事をしたんですか?
竹井さん:日本人オーナーが経営するジャパニーズレストランで働いてました。その時、私が絵を描けることを知った常連のお客さんから頼まれて、ジャパニーズレストランのスタッフ全員が勢揃いしたイラストを描いたんです。それが初めて報酬を得た絵の仕事でしたね。

なめらかなグラデーション表現のためにエアブラシでマンガを描く。
——マンガはいつから描き始めたんですか?
竹井さん:パリでは日本の「マンガ」が大ブームだったんです。マンガが描けるっていうだけで一目置かれるくらいなんですよ。私がマンガを描けるってことを知ったパリの知人に頼まれて、子どもにマンガの書き方を教え始めたんです。それからは何人かの子どもにマンガの家庭教師をしてました。それを機に自分でも再びマンガを描き始めたんです。
——当時から漆を使ってマンガを描いてたんですか?
竹井さん:漆を使い始めるのはもうちょっと先のことです。そもそも道具とかサイズとか、それまでのマンガを描く時の基本ルールが自分と合わないと感じていたんです。グラデーションを表現する際も、マンガの場合は線やスクリーントーンで表すしかないんですけど、もっとなめらかなグラデーションを表現したいと思ってました。エアブラシを使って塗料を吹き付ければ綺麗なグラデーションが表現できるんじゃないかって思って、エアブラシでマンガを描いてみたら、マンガのルールから解き放たれて、自由に表現することができたんです。
——自分のやりたかったことが見つかった感じでしょうか?
竹井さん:そうですね。それからはエアブラシを使った作品を描き続けて、パリで「第1回マンガ展」を開催したんです。この「マンガ展」は帰国後も第7回まで続けてきました。とくに第5回は日本の47都道府県を巡って開催したんですよ。この時は本当に大変でした。お金がないので食事はスーパーのディスカウント品しか食べれないし、公園にあるトイレの手洗い場で頭を洗ったりしてたんです。寝泊まりは自家用車なので、エコノミー症候群気味になりかけたり。でも恐ろしいことに、だんだん身体がその状況に順応しちゃうんですよね。

漆マンガやギャラリーを始めたいきさつとは?
——そろそろ漆を使ってマンガを描き始めるんでしょうか?
竹井さん:ある日、神楽をやっている友人が篠笛と漆を持ってきて、篠笛に漆をエアブラシで塗装してほしいって頼んできたんです。綺麗に仕上がった篠笛を見て、漆で絵を描くことを思いつきました。その頃、獅子舞をテーマにしたマンガを描くことになって、獅子舞も伝統工芸の一種だし漆と合うんじゃないかって思ったんです。そこでエアブラシを使って漆を吹付けてマンガを描いてみたんですよ。
——漆でマンガを描くことによるメリットってどんなことですか?
竹井さん:まずとても品のいい光沢が出ますよね。それから物理的に固まる性質を持っているので、作品の強度が上がるんです。
——じゃあ漆を使うことで難しいのは?
竹井さん:漆は絵の具に比べて乾きが遅いんです。しかも水分がないと固まらないので、固まり具合を確認しながら慎重に作業するようにしてます。
——「漆マンガギャラリー」はどんな気持ちで始めたんですか?
竹井さん:今まで続けてきた「マンガ展」っていうのは、会場を借りて一定期間だけ展示してきたんですよね。そうじゃなくて、ずっと自分の作品を展示し続けて、もっとたくさんの人に見てほしいって思うようになったんです。元々このスペースは亡くなった父親の事務所があったところなので、改造してギャラリーを開設することにしました。
——なるほど。ギャラリーではどんなものを展示してるんですか?
竹井さん:漆マンガの作品はもちろん、使っているエアブラシや漆といった道具も展示しています。あと作品ができるまでの映像も流してるんです。その他Tシャツやポストカード、作品集なんかのグッズも販売してます。となりに併設されている工房も見学してもらえますよ。
——ギャラリーを始めてみて反響ってどうですか?
竹井さん:今までの展覧会では高齢者や子ども連れのファミリーが多かったんです。でもギャラリーを初めてから若い学生さんの来場者が増えました。一番作品を見てほしい年齢層が来てくれるようになって、やってよかったなって思ってます。


「漆マンガ」という誰もやったことのないジャンルに挑戦し、ギャラリーまで開設してしまった竹井さん。その作風は独特の迫力に満ちあふれています。「いつかは自分と似たマンガスタイルの文化があるベルギーを拠点に活動していきたい」と語ってくれました。これからも「漆マンガ」が全国、そして世界に広がっていくよう、活躍を楽しみにしてます!

漆マンガギャラリー
〒950-3345 新潟県新潟市北区川西1-6-13
090-6956-6351
10:00-17:00(土曜日曜祝日のみ)
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