高校野球にしてもプロ野球にしても、グラウンドの上で女性の姿を見ることはありません。少年野球でも、ヘルメットをかぶってバットを持つ女の子を見かけることは稀です。「どうして野球は男の子しかできないんだろう…」そんな疑問を小学生の頃から抱き続け、現在、女子野球の普及に尽力している人がいます。今日は「BBガールズ普及委員会」代表の頓所さんに、女子野球の普及活動についてお話を聞いてきました。
BBガールズ普及委員会
頓所 理加 Rika Tonsho
1975年埼玉県生まれ。BBガールズ普及委員会代表。小学4年生の頃から野球に憧れ、高校生までソフトボールをやってきた。結婚を機に新潟市で暮らし始め、2003年に「笹山ライオンズ」のコーチに就任。2008年に「BBガールズ普及委員会」を立ち上げて女子野球の普及に務めながら、2009年に女子野球チーム「NLガールズ」、2013年に「開志学園高等学校女子野球部」の立ち上げに関わる。2016年には「新潟県女子野球連盟」を作り新潟県の女子野球チームをまとめている。
——今日はよろしくお願いします。頓所さんはいつ頃、野球に目覚めたんですか?
頓所さん:私が野球に興味を持ったのは小学4年生頃です。夏休みにテレビで高校野球の甲子園大会を観戦していたとき、バッターが打ったファールボールをキャッチャーが飛び込んでキャッチした姿を見て「かっこいい!私もやってみたい!」って思ったんです。そのときは女の子が野球できないとは夢にも思っていませんでした。でも、考えてみれば高校野球の選手全員が丸坊主だったんですけどね(笑)
——じゃあ甲子園を見て憧れて野球を始めたんですね。
頓所さん:ところが、いくら探しても女の子を入れてくれる野球チームが見つからなかったんですよ。当時、野球は女の子がやるスポーツじゃないって思われてたんですね。それでしかたなく野球をあきらめて高校3年生までソフトボールを続けてました。大人になってからでもいいので、いつかは野球をやりたいなと思っていましたね。
——高校を最後にソフトボールや野球からは離れていたんですか?
頓所さん:はい。大学進学や結婚、子育てで野球から離れていました。でも28歳のとき、子どもが小学校に入学したタイミングで昔の夢を思い出して、家族に「野球をやりたい」って宣言したんです。それで「笹山ライオンズ」という少年野球チームで、プレイヤーとしてではなくコーチをやることになったんです。最初は「女のコーチなんて」っていう声もありましたけど、だんだん認めてもらえるようになりました。
——「BBガールズ普及委員会」はどうして立ち上げることになったんですか?
頓所さん:「笹山ライオンズ」でコーチをしていたとき、チームの中で男の子に混じって女の子も野球をやっていたんですよ。でも、女の子は人数が少ないし、思春期を迎える年頃とあって男女のコミュニケーションも取りにくくて、女の子がさみしそうに孤立している場面を見ていたんです。そんな女の子たちが気兼ねなくのびのび野球を楽しめる場を作ってあげたかったんですよね。
——なるほど。まずはどんな活動をやったんでしょうか。
頓所さん:女の子だけの野球チームを作って、1回でも試合ができればいいなって思ってました。だから選手を募集したときも野球をするのに必要な人数で最低9人集まればいいかなって思っていたんです。ところがテレビで告知した影響もあって、64人もの応募があったのでびっくりしちゃいました。応募してきた女の子をチーム分けして、2008年の8月に第1回フレンドシップマッチを開催したんです。その後も、選抜選考会をして選抜チームで関東の女子野球大会に出場したり、交流イベントを行ったりしてます。
——最初の大会イベントをやってみて手応えは感じましたか?
頓所さん:そうですね。少年少女の混合チームだと必ず男の子が守っているポジションがあるんですけど、そのポジションを女の子が守っている姿を見て嬉しくなりましたね。それだけでやってよかったって思ったし、これは続けてかなければって思いました。
——BBガールズで選抜したチームの監督やコーチは誰がやっているんですか?
頓所さん:「BBガールズ普及委員会」のスタッフに監督やコーチをお願いしています。もちろん私もコーチをやってます。でも、普段在籍しているチームの練習を優先してほしいので、選抜チームでの練習は少なくしています。3回くらいの練習で大会に出場してますね。
——そもそも「BBガールズ普及委員会」のスタッフってどうやって集めたんですか?
頓所さん:私がコーチをやっていた「笹山ライオンズ」の監督やコーチ仲間に相談して、私の思いに賛同してくれた人たちが手伝ってくれるようになっていったんです。他にも学童野球で指導者をやっている人たちにも協力してもらっています。あと、女性の力もほしかったので私のママ友たちに声をかけてお手伝いしてもらってます。最近では参加しているクラブチームの女の子たちがイベント運営に携わってくれるようになりましたね。
——頓所さんは他にも何か女子野球に関わる活動をされてきたんですか?
頓所さん:最初は女子小学生だけに目を向けてきたんですけど、その子たちも成長していくんですよね。そこで中学生や高校生の女の子が野球をできる場所を考えるようになりました。2009年に結成した「NLライズ」は中学生から大人まで幅広い年代で野球を楽しめる女子軟式野球チームです。それから高校にも女子野球部を作りたいと思って、開志学園高等学校に呼びかけて2013年に女子野球部を作って当時はコーチもさせてもらってました。
——高校にまで女子野球部を作っちゃったんですか?すごいですね。そういった活動の影響って出てきていますか?
頓所さん:「NLライズ」ができたことで、新潟県内にもいろいろな女子野球クラブチームができてきました。ただ、それぞれがバラバラにやるよりも同じ方向に向かって活動して行けたらいいなって思って、開志学園のコーチを辞めた2016年に「新潟県女子野球連盟」を立ち上げたんです。
——新潟県にも連盟ができるほど女子野球チームができてきたってことでしょうか。
頓所さん:そうですね。2008年頃は「女子野球」っていう言葉が聞かれることはほとんどなかったし、女子の野球選手もほとんどいなかったんです。男子チームの中で野球をやっていた女の子はいたんだけど、みんな途中で辞めていっちゃったんですね。でも、今は女の子でも野球をやってもいいんだっていう土壌ができてきたんじゃないかって思います。県内の中学部活動で野球をやっている女の子は今74人もいるんですよ。
——すごい。今までの活動が報われた感じですね。女子野球を普及させるのってかなり難しいんですか?
頓所さん:「野球は男がするもの」っていう固定概念があるから、難しいところはありますね。私もコーチとして野球に携わる上で「好きなことをしてるだけなのに、どうして悲しい思いをしなければならないんだろう」って思うことは多かったです。大人の私でも多いのに、子どもたちはもっと辛い思いをしているんじゃなかって思って、なんとか世の中の固定観念を変えなければと活動してきました。その活動の中で分かったこととしては、長く頑張り続けていれば、いつか分かってくれる人が現れるってことです。そして難しいことほど認めてもらったときの充実感は大きいってことですね。
——頓所さんは野球のどんなところに魅力を感じますか?
頓所さん:野球って試合に出ているみんなに役割があるんですよ。ホームランが打てる子だけじゃなく、バントができる子や足が速い子も必要だし。打席に入れば9人全員に輝けるチャンスがあるところが好きなんです。
——確かにそうですね。では最後に、今後はどんなふうに女子野球を普及していきたいですか?
頓所さん:これからは無いものをどんどん作っていってあげたいですね。例えば女子硬式野球のクラブチーム、大学の野球チームとかもっと作ってあげたいと思ってます。あと大人の女子野球チームももっと作っていきたいですね。夢を追いかけている野球女子たちをみなさんに知ってほしいし、知ってもらう努力を続けていきたいと思ってます。それでいつか女の子が当たり前に野球をやる世の中がきたとき、私たちの活動が必要なくなるんです。
野球に憧れながらも野球をやることができなかった少女時代。そんな思いを野球をやっている女の子たちにさせたくないという思いから「BBガールズ普及委員会」を立ち上げ、様々な女子野球の普及活動を続けている頓所さん。ご自身も数年前から野球チームに所属し、野球に憧れたきっかけとなったキャッチャーとしてプレイしているそうです。いつか野球をやる女の子が当たり前の世の中になるといいですね。
BBガールズ普及委員会