2020年10月31日、柏崎市にオープンしたばかりの「ハコニワ」は、廃業したサッシ工場をリノベーションした複合施設。地元企業5社と連携してスタートしたこの施設は、「民間が作る公園」をコンセプトに、地域課題の解決を目標としています。今回はこの施設の主体となっている八幡開発株式会社の代表を務める飯塚さんに、「ハコニワ」から発信していく街づくりについてうかがってきました。
ハコニワ
飯塚 政雄 Masao Iizuka
1975年柏崎市生まれ。カーレースへの参加やカナダへの語学留学、住宅メーカー勤務などの経歴を経て、30歳のとき八幡開発株式会社に入社。2016年より柏崎市で「リノベーション街づくり」を掲げ、2017年「ベーグルとクロワッサンの店 びわじまベーカリー」、2020年「ハコニワ」をオープン。
――「ハコニワ」って、一体どんな施設なんですか? とても広いですよね?
飯塚さん:「ハコニワ」は、サッシ工場だった場所をリノベーションして、地元柏崎の企業と連携した複合施設です。施設内にはベーグルとクロワッサンの専門店や観葉植物専門店、和モダンパティスリー&カフェ、美容室など、「ハコニワ」を運営している八幡開発株式会社を合わせて5社7店舗が営業しています。800坪の敷地内には、400坪の建物があって、150坪の芝生広場もあるんですよ。
――800坪? めちゃくちゃ広いじゃないですか。芝生広場まであるなんて、想像以上でした。
飯塚さん:「民間が作る公園」をコンセプトに、買い物ができたり、ちょっと休憩もできたり、公園みたいに誰でも気軽に出入りできる空間作りをしているから、外の芝生広場も充実させたかったんです。
――なるほど。サッシ工場の建物をリノベーションするにあたって、こだわった点はありますか?
飯塚さん:屋根や柱などの躯体はそのまま残しつつ、主に中越産の杉を使って建物内の店舗や広場、外のデッキを建築士の方と相談しながら作り上げました。あとは新潟工科大学の学生が考えたツリーボックスとか、共有キッチンもあります。オブジェみたいに見えるから座るのを遠慮する人もいるけれど、どんどん座って休んだり、話したり、コミュニケーションスペースとして活用してもらいたいですね。
――地域の学生も「ハコニワ」に参加しているんですね。
飯塚さん:そうなんです。17名の学生が設計士や建築士の指導のもとで、設計から制作までを協力してくれました。「地域の中で、地域の力で、地域の人で活性化させたい」という思いがあったから、連携企業だけではなくて若者も含めて柏崎のエッセンスを取り入れたかったんですよ。それに「柏崎はもうダメだ」という人もいるけれど、ひとつのチームになって、自分たちでも活性化につなげられることを見せて、ここから動きを作っていきたいという思いもありました。
――「ハコニワ」を通して、どのようなことをしていきたいと考えていますか?
飯塚さん:まずはこの空間を「価値のあるものにしたい」という思いがあります。エリアによっては、大手家電量販店やスーパー、コンビニなど、決まりきった店舗ばかりが立ち並んで、日本中どこに行っても同じ環境です。でも、そういう街づくりなら自分たちが実行する役割ではないと考えていて、利便性よりも「ハコニワだから素敵」と思える価値の創造を目指しました。
――だから「ハコニワ」には、地元企業だけが入っているんですね。
飯塚さん:そうなんです。それに、この事業を通して地域課題の解決にアプローチもしていきたいと考えています。
――地域課題へのアプローチとは、具体的にどういうことなんですか?
飯塚さん:「ハコニワ」をはじめるにあたって、地域課題へのアプローチを3つ考えました。まずは「地域事業者の生産性を高める」こと。これは、「まちは、まちの力で」をモットーにして、地域事業者が連携し新たな価値や稼ぎを創り出すことです。そしてもうひとつは「空き家を活用する」こと。人口が減ることによって、どうしても空き家は増えてしまいます。それぞれの良さを活かしたリノベーションを行うことで、魅力ある建物に再生して、さまざまな事業を展開していきます。その第一弾といえるのが「ハコニワ」です。
――最後のアプローチは?
飯塚さん:それは「創業・雇用をつくる」です。女性や若者に対してやりがいのある仕事を地域に生み出して、柏崎での創業や雇用に繋げていきます。お金のためだけに働くのではなくて、「こんな仕事ならしてみたい」「この仕事をしたい」といった、「柏崎ではこんな面白い仕事があるという仕事に対する明るい考え」から雇用を生み出していきたいんです。ちなみに今回の事業全体では、約30名の雇用が生まれました。
――柏崎のことを考えて誕生した「ハコニワ」は。元々はどんなキッカケでスタートしたんですか?
飯塚さん:物件を紹介するだけの昔ながらの不動産会社のスタイルだけではなくて、次の展開も考えないといけないと模索していたときに、東京で「リノベーション街づくり」に触れる機会がありました。これは半径200mエリアの空き店舗に事業者を呼んで、そのエリアの独自性や価値を上げる取り組みです。柏崎でも何かできないかと思って、考え方や方向性を学べるスクールに参加してみました。それで、そこでの学びを活かして不動産と飲食を掛け合わせた複合スペースを誕生させたんです。それが、以前の八幡開発株式会社オフィスに併設された「ベーグルとクロワッサンの店 びわじまベーカリー」です。これをはじめたのが「ハコニワ」が生まれたキッカケになりましたね。
――そのときはどうしてベーグルとクロワッサンのお店だったんですか?
飯塚さん:エリアリノベーションを考えていくなかで、自分たちのエリアに美味しいパン屋さんがあることは、ひとつの価値だと考えたんです。それに、パン屋さんはたくさんあるけれど、ベーグルとクロワッサンの専門店って新潟にはないじゃないですか。 それは差別化にもなるし、エリアの価値の向上にもつながるなって。
――確かに。ちなみに、「ハコニワ」に入っている店舗は、どのようにして選ばれたんですか?
飯塚さん:「ハコニワ」には、私たち八幡開発株式会社が運営している「ベーグルとクロワッサンの店 びわじまベーカリー」と観葉植物の専門店「Potta -Green Works-」の他に、和モダンパティスリー&カフェ「あやこや」、ドリンクスタンド&雑貨「info by AT HOME LABO」、美容室「Looks Good HAIR WORKS」、焙煎スタンド「nibbles」、そして来春オープン予定のレストラン「kitchen 105」が入っています。そのどれもが柏崎市内の事業者で、私たちからオファーしたり、いろんな縁があったりして集結しました。だから地域内経済循環となるように、「柏崎」というカテゴリーからなっています。
――いろいろとお話をうかがっていると、自社としての利益だけではなく、地域活性を重視している部分が多いように感じました。それはどうしてですか?
飯塚さん:誰かに頼まれてはいないけど、勝手に使命感を感じているんでしょうね(笑)。自分は柏崎の人間だし、ここで事業もしています。そして家族も暮らしていますから、ちょっとでも将来の人たちに「よい柏崎」を渡したいんです。だからひとつの事業として柏崎を元気にすることで、自分の事業や将来にもつながると考えてこれからも続けていきたいと思っています。
これからの展開についてうかがうと、「子どものときから商売に関わってもらいたいから、自分の考えたパンを売るだけじゃなくて、売上や経費、利益など、商売のしくみも学べる体験を提供したい」と飯塚さん。地域の価値や未来を考える人、連携している地域事業者、そしてそこに参加する人たち……これからの柏崎の発展が楽しみですね。ちなみに「ハコニワ」では、来春、地域農産品を販売する朝市がスタートするそうです。これも楽しみです。
ハコニワ(八幡開発株式会社)
新潟県柏崎市横山440-1
0257-22-3357