「縄文ブーム」とも言われる近年。新潟県内で太古の縄文ロマンに触れられる施設といえば、約90個もの火焔土器がズラリと並ぶ県立歴史博物館(長岡市)や、国宝・笹山遺跡出土深鉢形土器が見られる十日町市博物館などが有名ですが、鮭の遡上で有名な村上市・三面川の上流、朝日地区の山あいにも、それらに負けないくらい数多くの様々な土器や土偶に出会える展示施設があることをご存知でしょうか。知る人ぞ知る「縄文の里・朝日」です。他ではなかなかお目にかかれない貴重なお宝もあるとか。館長の和田さんにお話を伺いながら鑑賞してきました。
和田 寿久 Toshihisa Wada
1950年村上市(旧朝日村)生まれ。「縄文の里・朝日」館長。元小学校教諭で、学芸員の資格も有し、奥三面遺跡群の発掘調査に携わった経験も。実家の寺院・徳蔵寺で住職を務める僧侶でもある。
――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、こちらに展示されているものはどういったものなのですか?
和田さん:奥三面遺跡群から出土した、主に縄文時代の土器や土偶、装飾品などを展示しています。奥三面遺跡群というのは、ここからさらに上流、三面川の源流にあたる奥三面・三面集落にあった大小19の遺跡の総称です。
――「あった」ということは、今はもうないのですか?
和田さん:ダムの建設により水没しました。ダムというのは、2001(平成13)年に竣工した県営の奥三面ダムのことです。建設に伴い、三面集落は1985(昭和60)年に閉村・集団移転しました。ちなみに当館では、「マタギの里」とも呼ばれた三面集落の歴史や独自の文化なども展示で紹介しています。同集落ではその後の1988(昭和63)年から着工前の1998(平成10)年まで、発掘調査が行われました。最終的な調査面積は15.6万㎡、のべ作業員数11万人以上にも及ぶ大規模なものでした。私も、当時は小学校の教員だったのですが、学芸員の資格を持っていたのと、地元の朝日村ということで、県教育委員会からの派遣という形で最初の数年間、調査に参加しています。
――そうなんですか。
和田さん:私が参加していた初期はまだ、6カ所くらいしか遺跡が見つかっていなかったんですけどね。最終的に遺跡は19カ所にもなり、1.5万箱分もの遺物が発掘されました。当館ではその中から選りすぐったものを見ることができます。中でも特に、元屋敷遺跡から見つかった1,718点の出土品については、2015(平成27)年に国の重要文化財に指定されています。この元屋敷遺跡というのは縄文時代の後期前葉から晩期末葉の集落遺跡なのですが、1,000年位もの長期に渡って集落が続いていたようで、そのためか、土器が凝っているというか、細部までかなり作り込まれていて、面白いものがたくさんあります。村上市では国の補助・指導を受けて、同遺跡出土品の保存修理事業に取り組んでいます。
――では実際に見ていきたいと思いますが、数も多いし、せっかくなので和田館長の「推し」を紹介してください!
和田さん:え、そうですか(笑)。もちろん全て見てほしいものばかりなのですが、では今回はあえて私の好みで紹介させてもらいましょう。
――いきなり土器じゃない(笑)。渋いセレクトですね。
和田さん:こちらは先に挙げた元屋敷遺跡の出土品です。約3,500年前のもので、国重文のひとつです。現代でいうヘアピン、かんざしのようなものですね。木の皮や棒で作った土台に、漆を塗り重ねてあります。村上は木彫堆朱の文化が現代にも受け継がれていますが、それとも共通し得るものだと思います。木製品は土に還るため、出土するのは珍しいといえます。漆のおかげですね。
――また土器じゃないんですね(笑)。これは……赤ちゃんですか?
和田さん:私は勝手に「縄文ベビー」と呼んでいます(笑)。これも元屋敷遺跡から出土した約3,500年前のもので、国重文です。まるで赤ちゃんがスヤスヤ眠っているみたいでしょう。この表情が、なんともいえず魅力的です。口の穴は貫通していないので、紐を通して首から下げるアクセサリーではないようですが、どのような用途で作られたものなのか……。きっと今よりずっと死の危険と隣り合わせだったであろう当時、安産や健康な成長への祈りを込めて作られたものなのかもしれません。
――おぉっ!これは縄文ブームで一躍脚光を浴びた「火焔型土器」。ここでも出たんですね。
和田さん:そうです。これは元屋敷遺跡ではなく、それより下流の前田遺跡から出土しました。約4,500年前のものです。信濃川流域の長岡や十日町で出土したものと同種の、いわゆる「馬高式」ですが、こちらの方が少しスタイルが良いように思えるのはひいき目でしょうか(笑)。
――これはなかなか見ない形と色ですね。
和田さん:これも元屋敷遺跡から出土したもので、国重文に指定されています。縄文時代後期中葉、3,500年くらい前のものです。ドーナツ状で中は空洞になっていて、中に入れた液体を注ぐものです。表面が黒っぽいのは、煤で磨いているからです。流麗な渦巻きの模様とも相まって、とても美しいですね。先ほども述べましたが、元屋敷遺跡の土器は丁寧に作り込まれたものが多く、これはその最たるものの一つです。注口土器は他にも、口縁部分に人面が表現されたものや、この山奥でなぜか貝の形の飾りがあしらわれたものもあります。中に木の実を入れ、発酵させてお酒をつくっていたのではないかと思われます。
――さて、いよいよ1位ですが……。
――これはかわいい!
和田さん:そうでしょ(笑)。このなんともいえない表情をしたものが、私の第1位です。これも元屋敷遺跡で見つかった国重文です。実は見つかったのはこの人面部分だけで、全体が何なのかは分かっていません。何かの容器の一部分と考えられ、そのため土偶でなく土器に分類されています。細部まで凝った意匠が施され、ずっと眺めていられます。ちなみにこの2つのキャラクターは、元屋敷遺跡のマスコットで当館に在籍する「じんめちゃん」と「じょーもくん」のモデルにもなっています。最近は新型コロナの影響もあり、なかなかお目にかかれないレアキャラになってしまっていますが(苦笑)。
――あ、そういえば公式サイトやパンフレットで見たような……(笑)
――人がかつて生活していたのだから当たり前かもしれませんが、本当に様々な出土品があるんですね。
和田さん:今回挙げた5品のほかにも、火焔型土器と同様に最近の縄文ブームで注目を浴びた「ハート形」など様々な表情や形を見せる土偶の数々、「透かし孔」が特徴的な香炉型土器、男性器を模したと思われる石棒など、様々なものを展示しています。そのひとつひとつが、ここでかつて暮らしていた人が何らかの意思を持って作り、使っていたものに他なりません。中には用途のはっきりしていないものも多いですが、「どうしてこんな形にしたのだろう?」「何のためにどうやって使っていたのだろう?」などと考えながら見ていると、どんどん没入し、まるで自分がその時代に暮らしているかのような感覚になれるかもしれません。
――こちらでは、各種の体験メニューも提供しているんですよね?
和田さん:本来はそうなのですが、新型コロナ感染拡大予防のため残念ながら現在は「まが玉づくり」しかやっていないんです。普段であれば「火おこし」から「土器づくり」、「石器づくり」、「あんぎん織り」、「ヒヅツ織り」、「ソバ打ち」などまで、様々なメニューを用意しているのですが……。とはいえ数々の土器類はいつも通り展示していますので、紅葉狩りのドライブがてらぜひ足を伸ばしてほしいと思います。
――今日は来て良かったです! ありがとうございました。