今回ご紹介するのは、中央区信濃町の住宅街にひっそりと店を構えるお寿司屋さん「寿し処 恵」。大通りからちょっと離れた閑静な場所にも関わらず、県内外から多くのお客さん、そして有名人まで訪れるという、知る人ぞ知る名店です。開店前のお店にこっそりお邪魔して、ご主人の霜鳥さんに寿司職人のやり甲斐と心意気を教えてもらいました。
寿し処 恵
霜鳥 忠幸 Tadayuki Shimotori
1968年燕市生まれ。巻高校卒業、神奈川大学中退。横浜の寿司店で修業を積み、2009年に新潟に戻って「寿し処 恵」をオープン。職人歴33年。コハダとアナゴが好き。
――霜鳥さんって、お寿司を握って何年になるんですか?
霜鳥さん:私は神奈川の大学に通っていたんですけど、いろいろあって中退しました。それで、中退だとサラリーマンにはなれないから、生きていくために手に職をつけようと思ったんです。それから横浜の寿司店で働き始めたから……今年で33年になりますね。
――もう大ベテランですね。
霜鳥さん:いやいや、年数は重ねているけどまだ一人前じゃないですからね。修行をさせてくれた親方を超えられるようにと思いながら毎日握って、まだまだ夢の途中ですよ。
――33年握ってきても、まだまだ夢の途中。さすが職人って感じですね。ちなみに、最初はただ手に職をつけようと考えていたんですよね、どうして寿司職人だったんですか?
霜鳥さん:高校生のときに地元のスーパー「ウオエイ」でアルバイトをしていました。そこで社長に「お前は魚をやれ」と言われて、鮮魚の担当をしたんです。その後もなんだかんだと魚に携わる機会が多かったのもあったし、横浜で暮らしていたアパートのすぐ近くに偶然、その寿司屋があったんです。それで「使ってください」って門を叩いたんですよね。
――そうだったんですね。そのお寿司屋さんではすぐに働けたんですか?
霜鳥さん:「今から働け」って(笑)。でも、さすがに心の準備ができていなかったから、翌日からお世話になりました。ん、翌々日だったかな(笑)
――寿司職人の修行となると、やっぱりはじめは皿洗いからですか?
霜鳥さん:親方からは「ただの板前にはなるな。店を持つつもりでやれ」と言われていたんです。珍しいですよね。だから、はじめから魚のウロコを取る下処理とかをさせてもらっていました。しかも、自分の包丁なんて持っていないだろうって、わざわざ出刃包丁までくれたんですよ。
――そうすると握り方を教えてもらうのも早かったんじゃ?
霜鳥さん:教えてもらうというか……「こうやって、こうやって、こう」って、親方が握るのをちゃちゃっと見せてもらっただけでしたね。私が修行していた頃は、見て技術を盗むのが当たり前の時代で。あとは創意工夫、努力で自分の技術を培うしかありませんでした。といっても、忙しくてそんなことをする暇もありませんでしたね(笑)
――寿司職人としての心構えみたいなものも見て学んでいたんですか?
霜鳥さん:心構えというか、「いかに心を入れて握るか」を教えてもらいましたね。寿司って、同じ材料やタネで握ったとしても、味が違うんです。だから美味しい寿司を握るためには、心もしっかりと握ることが大切なんですよ。
――なんか……深いですね。心が入っているかどうかが美味しさにつながる、と。
霜鳥さん:親方の握る寿司って、本当に美味しかったんですよ。店に入ったばかりの頃に、煮あがりのアナゴをサッと握ってくれたことがありました。その味が忘れられなくてね。今でも思い出しながら握っています。心を込めるって、こういうことなんだって。
――お店に立っていて、普段から大切にしていることはありますか?
霜鳥さん:いかにお客さまに喜んでもらえるか、ですね。仕入れから仕込み、握って提供するまで、それだけを考えています。「お客さまはどうしたら嬉しいか」をずっと考えていますね。
――というのは、お客さんの好みを考えるってことですか?
霜鳥さん:工夫して握るってことですね。寿司って、舟形に握るとスッと口に入って食べやすいんです。それが基本なんです。でも例えばうちのアナゴは口の中全体でしっかり頬張って食べてもらいたいから四角に握るんです。そういうふうにタネによって握りを変えたり、お客さまのその日の様子によってシャリの量を変えたりもしていますよ。あとは「手幅で測る」といって、お客さまの手の幅を見て寿司の大きさを調整しています。人の手の幅って、口から喉奥までの幅と同じなんですよ。だからお客さまひとりひとりに合わせて、食べやすいように握るんです。
――ええっ、そんな細かいことまで考えて握っていたなんて……ものすごいホスピタリティーですね。ところで、お寿司屋さんってどうしても敷居が高いというか、入りづらいというか……。気軽に来てもいいんですか?
霜鳥さん:昼は1,400円からセットメニューを提供していて、夜は12貫で9,000円です。中には頑張ってアルバイトして貯めたお金を握りしめて食べに来てくれる若い子もいますね。そんな子が来てくれると嬉しくて、ちょっとおまけしてしまうこともあります(笑)
――なんだか安心しました(笑)。霜鳥さんには、「理想のお寿司」ってありますか?
霜鳥さん:お客さまの表情を見たら、美味しいと感じているかどうかって分かるじゃないですか。中にはカウンターに座っても何も会話しないでただ美味しそうに食べて帰っていかれるお客さまもいます。そういう寿司が理想ですね。だから、お客さまおひとりおひとりに理想のお寿司があると私は思っています。
――なるほど。最後に、霜鳥さんが目指す寿司職人としてのゴールを聞かせてください。
霜鳥さん:長くやっていますけど、まだ夢の途中だからゴールまで辿り着けるか分かりません。でも、寿司職人として、とにかくお客さまに喜んでもらえるように、倒れるまで続けていこうと思います。
寿し処 恵
新潟県新潟市中央区信濃町6-14 鎌田ビル1F
025-267-7239