漬物で新潟の食文化を支え続ける、明治創業の「坂井漬物商店」。
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2021.03.04
ただの保存食としてではなく、ご飯のお供や箸休めとして長年日本人に愛されてきた漬物。そんな漬物を古くから新潟市で作り続けているのが、中央区にある「坂井漬物商店」です。店頭のショーケースにはぬか漬や浅漬、梅干しといった美味しそうな漬物が勢ぞろいしています。今回は四代目の坂井将人さんから漬物の魅力を聞いてきました。


坂井漬物商店
坂井 将人 Masato Sakai
1981年新潟市中央区生まれ。大手金融会社にサラリーマンとして8年間勤めた後、四代目として家業の「坂井漬物商店」を継ぐ。好きな食べ物はタレカツ丼、担々麺、サラダ。
漬物が食わず嫌いだった、漬物屋の四代目。
——「坂井漬物商店」の歴史って古いんでしょうか?
坂井さん:創業は明治40年と聞いています。でも、その前から商売していたかもしれないですね。資料が残っているわけじゃないので、詳しいところはよくわかんないんですよ(笑)。創業当初は本町市場で、浅漬の他にも甘露梅(かんろばい)やイチジクの甘露煮といった和菓子に近いものも売っていたそうです。その後、現在の店舗がある秩川岸町に移転したんですよ。ここらへんって以前は料理食材の問屋が並んでいたんです。「坂井漬物商店」は私で四代目になります。
——坂井さんは最初からお店を継ごうと考えていたんですか?
坂井さん:頭の片隅には「いつか店を継がなければならない」っていう思いはありましたね。でも若かったですから、当時は自分のやりたい仕事をしたいという気持ちが強かったんです。給料も良かったので、大手金融会社に勤めて各地を転々としていました。でも父が高齢になって「坂井漬物商店」の暖簾を下ろそうとしていたので、お店を継ぐ決心をして新潟に帰ってきたんです。

——それまでお店の手伝いをしたことはあったんですか?
坂井さん:まったくなかったです。それどころか、私は漬物が食わず嫌いだったんですよ。漬物って香りが強いものが多いじゃないですか。ずっとその中で育ってきたので、いつの間にか漬物が食べられなくなっていたんです。
——漬物店の跡取りが漬物嫌いだったとは(笑)。もちろん、今は食べられるんですよね?
坂井さん:もちろんです(笑)。もともと食わず嫌いだっただけなので……。「坂井漬物商店」で働き始めて、まずは1〜2年かけて父から漬物の漬け方を教わりました。最初のうちはケンカばかりの毎日でしたね(笑)

最もこだわっているのは、塩。そして野菜の産地。
——お店には美味しそうな漬物がたくさん並んでいます。
坂井さん:店頭で販売している漬物の他に、業務用の漬物を作って卸売しています。定食の箸休めについてくる浅漬や、寿司のガリ、ラーメンの千切り紅生姜なんかも作っているんですよ。新潟のご当地グルメとして有名なイタリアンの白生姜もうちで作らせてもらっています。最近はインターネットを使った通販でもご好評いただいていますね。
——おお、飲食店の漬物もいろいろ作って卸しているんですね。漬物を作る上でこだわっていることってありますか?
坂井さん:一番こだわっているのは塩ですね。うちではまろやかで素材の旨みを引き出してくれる、沖縄の塩を使っているんです。もちろん塩だけじゃなくて、野菜も産地にはこだわっています。それから調味液のレシピは父が20〜30年前に作ったものなんですけど、味を変えないようにキチンと計量してレシピを変えないように作っていますね。
——産地にこだわった野菜というと、新潟産のものも多いんでしょうか。
坂井さん:もちろん新潟産の野菜も使いますが、料理店には品切れしないよう安定的に供給しなければならないので、新潟産だけにこだわるというわけにもいかないんです。野菜って天候で出来が左右されますから、難しいところはありますね。野菜が品薄で厳しいときもあるんですが、赤字で提供していることも多いんです。

——たしかに農産物は天候によって不作もあるし大変ですよね。その他に大変なことってあるんですか?
坂井さん:浅漬って野菜の食感や香りがそのまま楽しめる反面、中途半端な野菜を使うとそれがそのまま表れるんです。だから新鮮な野菜を使うようにしているんですが、鮮度ってすぐに落ちちゃうんですよ。泣く泣く野菜を破棄することも多いですね。とくに十全なすは夏場の商品なので傷みやすいんですよ。
——特におすすめしたいものはありますか?
坂井さん:やっぱり浅漬ですかねぇ。中でも十全なすの浅漬は、全国ネットのテレビ番組で紹介されてからダントツで人気があります。新潟県出身の俳優の渡辺謙さんがコシヒカリのご飯と十全なすの浅漬を紹介してくれて、その場面でうちの十全なすの浅漬が使われたんです。それからというもの、卸している量販店でも通信販売でもご好評をいただいています。
——十全なすといえば新潟名物ですもんね。他にもおすすめはありますか?
坂井さん:昆布〆大根も人気があるんですよ。昆布で香りをつけていて、2日間かけて2段階でじっくり漬け込んだものです。あとセロリとパプリカの浅漬も人気がありますね。漬物っていうよりは、ピクルスとか野菜スティックとかに近い感じのものです。

漬物は、それぞれの土地のソウルフード。
——今後やってみようと思っていることってあるんでしょうか?
坂井さん:誰もが家庭で美味しい漬物を漬けられるように、家庭用漬物調味液の販売を考えているんですがなかなか難しいですね。誰が漬けても美味しく作れるようにするのは、自分たちで漬物を作るよりはるかに難しいです(笑)
——確かにそうですよね(笑)。ところで漬物の魅力ってどんなところだと思いますか?
坂井さん:漬物ってその土地ごとに、昔からある食文化が反映されやすい食べ物だと思うんです。たとえば新潟だったら十全なすの漬物だったりするわけですよ。そういう意味では各県にあるソウルフードのひとつなんじゃないでしょうか。私もそうした郷土の食文化を支えているという誇りを持って、これからも漬物を作り続けていきたいと思っています。

坂井漬物商店
新潟県新潟市中央区秩川岸通1-2305
025-222-5326
8:00-17:00
日曜休
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