核家族化が進むにつれ、実家の祖父母でも行政でもない“善意の第三者”、あるいは“地域ぐるみ”による子育て支援の重要性が高まっています。県内でも各地で様々な民間団体が活動していますが、村上市で昨年NPO法人化した「村上ohanaネット」もそのひとつ。従来の交流イベントや講習会の開催などのほか、近年はさらに一歩踏み込んだ支援事業にも乗り出すなど、多岐にわたる活動を展開しています。同団体の設立者で代表・理事長を務める渡辺さんにお話をお伺いしてきました。
村上ohanaネット
渡辺 ひろみ Hiromi Watanabe
1973年村上市生まれ。NPO法人「村上ohanaネット」理事長。幼稚園・小学校の教員免許を持ち、特別支援学校教員、専業主婦、英語塾講師などを経て2013年、地元に同団体を設立する。地域の子育てを支える様々な活動を展開し、2020年には法人格を取得した。自身の娘は現在、社会人1年生と高校2年生。
――本日はよろしくお願いします。早速ですが、村上ohanaネットさんではどのような子育て支援に取り組んでいるのですか?
渡辺さん:私たちは「ママカフェ」やエクササイズ教室、ベビーマッサージ教室、お出かけ、パパスクール、各種講習会といった交流や楽しみ、学びの機会の提供のほか、近年は有償ボランティアによる短時間の託児サービス「子守し隊!」、双子や三つ子など多胎育児をする当事者・経験者によるサークル「ピーナッツの会」、不用になった学生服や学生カバンを引き取り必要とする家庭に無償譲渡する「学生服リユース事業」などにも取り組んでいます。
――学生服のリユース事業ですか?
渡辺さん:コロナの影響で家計が苦しくなった子育て家庭も少なくないことから、他地域の先行事例に倣って今年から始めました。村上市・関川村内の中学校、また中等教育学校の制服、ブラウス・シャツ、指定のカバンで、卒業やサイズアウトにより不用となったものの寄付を募り、必要としている家庭へ無償で譲渡しています。回収拠点として地元行政機関にも協力していただき、おかげさまで現時点で1000点以上のストックが集まっているので、今後は新年度に向け取り組みの周知をさらに進め利用する家庭を増やしていきたいです。利用にあたっては1生徒につき1着・1個の譲渡が原則ですが、特に収入などの条件はありません。公式サイトに在庫状況を掲載しているので、ぜひ気軽にお問い合わせいただければと思います。利用状況をみながら、体操着や部活用品、また市内高校にも範囲を広げていければなと考えています。
――ふむふむ……。様々に展開している活動のベース、理念はどんなものなのでしょうか?
渡辺さん:究極的には、ひとりでも多くの方に「この地域で子育てして良かった」と実感してもらうことが目標ですね。子育てって、予想だにしなかったことだらけ、想定外の出来事の連続ですが、だからこそ自分だけ、家族だけで抱え込まず、みんなで助け合うことで、「何かあっても大丈夫、何とかなる」と思ってもらえるように。とはいえもちろん、私たちだけですべてまかなえるわけではありませんし、この地域にはそれぞれに得意分野を持つ機関や団体がたくさんありますから、支援を必要とする方とそれらを適切につなぐ役割も担っていきたいと考えています。困っている方にとって、選択肢は多い方がいいですから。人間同士なので合う・合わないはどうしてもありますし、せっかく手を伸ばしても合わなかったからもう受けない、ではもったいないですし。私たちもそのたくさんある選択肢の中のひとつといえるかもしれませんね。また、活動で特に心掛けているのは、まず親をラクに、元気にしよう、という点です。親が元気になれば、その子どもも自ずと元気になりますから。
――とはいえ、実家以外に子育てを頼るのはどこか気が引けるという親も少なくないのでは。
渡辺さん:確かにそうかもしれませんが、困ったときはお互い様というか、支援を「する側」と「受ける側」はそこまで明確に分かれているわけでもなく、流動的ですよ。活動時のスタッフ「ohanaサポーター」は現在30名ほどいますが、以前利用者だった方や現在も利用している方ばかりですし。先ほどの理念の話にもつながりますが、助けてもらったり、助けたりしながら、みんなで子育てすることで、この地域で暮らす安心感、心強さを培っていけたらと思っています。
――では、そもそもの設立のきっかけ、経緯を教えてください。
渡辺さん:私自身、決して人様に誇れるような子育てをしてきたわけではないんです。パニック障害を抱えながらの子育てで、娘は不登校になり、育て方が悪いせいだとさんざん自分を責めていましたが、これまで様々な場面で本当に多くの方々に助けてもらいました。その経験を地域に還元したいという思いで立ち上げたんです。
――そうなんですか。詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。
渡辺さん:パニック障害はいつ発作に襲われるか自分でも分からず、常にその不安を抱えながらの生活で、車の運転もできず、行動範囲が極端に狭くなるのです。子連れであればなおさらです。そんな中、夫の転勤で上越市へ行くことになり、実家にも頼れなくなり不安が募る一方だったのですが、引っ越し先のお隣さん、高齢のご夫婦にずいぶんと助けてもらったんです。「子どもはいつでも私たちが見てやれるよ」って。当初はすごく驚きましたが、実際、子どもの送迎をやってくれたり、私たちが見られないときは預かってくれたりして、お世話になりっぱなしで。またそこで出会ったご近所さんやママ友にもいろいろと助けてもらい、縁もゆかりもない地域で何とかやっていくことができて、「世の中って私が考えているよりずっと良い人が多いんだな」と実感させられました。夫の次の赴任先の阿賀町でも地元のママサークルの方々に助けてもらい、車にも乗れるようになるほど私の症状も改善してきて。それで村上に戻ってきたとき、自分のような人のために、自分がそれまで経験させてもらったことを還元できないかなと考え、夫と一緒に初めは任意団体として立ち上げたんです。
――法人化したのは?
渡辺さん:利用する方にとっては組織の形態なんて関係のないことだし、諸々の手続きも大変そうだしで最初は敬遠していたのですが、主に2つの理由から法人化することにしました。ひとつは、自分たちができなくなった後も活動が地域で続いていくように。もうひとつは、より多くの人が関わることで、団体や活動がより良くなるように、です。実際、任意団体のときは自分たちの感覚だけでやっていたようなところがあったのですが、多くの人が関わるようになったことで、それまで思いもよらなかったような素晴らしい意見やアイデアが出て、活動がより良くなっていることを実感しています。また法人化したことで、結果的には社会的な信用度も向上しましたし、利用者や協力者にとっても活動が持続していく安心感が増したと思いますし、法人化して断然良かったと思っています。
――それでは最後に、今後の展望を教えてください。
渡辺さん:個人として17年から県高校のスクールカウンセラーも務めているのですが、その中で家庭教育の重要性を痛感しています。今後は子育て支援の継続はもちろんですが、さらに一歩踏み込んで、家庭教育にも力を入れていければと思っています。
――というと? 具体的には?
渡辺さん:高校生というと、数年後には親になっていても何らおかしくない年代にもかかわらず、「家庭」や「子育て」についてイメージするのが難しい子が多い印象があるんですよね。核家族化が進み、身近で他人の子育てや家庭を体験する機会が乏しいという時代背景もあるのかもしれません。もっとはっきり言ってしまうと、そういう経験があまりできないまま成長し、他人とうまく関係性を築けない、コミュニケーションが苦手な子が増えているような気がしています。他人との究極のコミュニケーションともいえる性交渉を含め、肝心なところは学校教育では教えることに限界があり、メディア上の情報も正しいものとは限らず、最終的には家庭でやっていくしかありません。
――あー、何となく耳の痛い話ではあります(苦笑)。……親になった後の支援だけでなく、親になる前、親になるための支援も、ということでしょうか。
渡辺さん:そうですね。他人としっかりコミュニケーションがとれ、パートナーシップを育んだ先に「家庭」や「子育て」があり、ひいては助け合いの社会があると思っています。ひとりでも多くの方がもっと気軽に他人を助けたり他人から助けられたりして、「何があっても大丈夫」と思える、しなやかな強さを地域全体で育んでいけたらと思っています。
――なるほど。本日はありがとうございました!
当事者にとって子育てにまつわる悩みや困りごと、ストレスは尽きませんが、ひとりで抱え込まず、もっと気軽に、今回の「村上ohanaネット」さんのような地域の団体に手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。それは問題の解決に役立つばかりでなく、今よりも子育てが楽しく、充実するきっかけになるかもしれません。
村上ohanaネット
TEL 0254-52-6612