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必要とする家庭へ食料品を届ける、県北の「フードバンクさんぽく」。

みなさんは「フードバンク」という活動をご存知でしょうか? 余ったり規格外だったりする食品を企業や個人から引き取り、必要としている家庭や施設へ届けることにより、食品ロスを解消しながら福祉の実現を図る取り組みです。近年は県内でも盛んに取り組まれるようになり、昨年には各地の団体による連絡協議会も発足しました。県北の村上市でも昨夏、山北地区の有志を中心に「フードバンクさんぽく」が設立され、同市内全域を対象エリアに、活発に活動しています。新型コロナの感染拡大による経済への打撃が長期化し、その役割と必要性が改めてクローズアップされる中、「フードバンクさんぽく」設立者で代表を務める工藤さんに、立ち上げの動機や具体的な活動内容、今後の展望など、いろいろとお話を伺ってきました。

 

 

フードバンクさんぽく

工藤いく子 Ikuko Kudo

1962年旧山北町(村上市)生まれ。自殺を未然に防ぐゲートキーパーの活動に取り組む中でフードバンク活動にも携わるようになり、2020年7月、地元に「フードバンクさんぽく」を設立。同年9月には空き店舗を活用して食料保管庫兼活動拠点兼地域住民の居場所「こかげ」も開設し、さらに精力的に活動を展開している。自宅はお寺で、3人の子どもはいずれも成人して巣立ち、現在はコロナ禍で帰省が難しくなってしまった孫2人に会えるのを心待ちにするおばあちゃんでもある。

 

フードロスの解消に貢献し、困っているなら誰でも無料で。

――本日はよろしくお願いします。まず、フードバンクとはいったいどういったものなのですか?

工藤さん:ごく簡単にいえば「食品の寄付を募って必要とする人に提供する取り組み」のことです。家庭であれば贈答品などで使われないまま眠っている保存食、企業や団体であれば流通に乗せられなかった規格外品など、まだ食べられるのに何らかの理由で食べられないままになっている食品を引き取り、生活に困窮している家庭へ定期的に届けます。食品に限らず、生活消耗品や日用品などを届けることもあり、先進的な団体では、子どもたちのために制服のリユースや学用品の配布、学習機会の提供などに乗り出しているところもあります。

 

――確認ですが、食品の提供は無料で、誰でも?

工藤さん:困っている方であれば誰でも、もちろん無料です。行政の支援や民間の方々からの協賛、有志のボランティアで活動が成り立っています。

 

――「フードバンクさんぽく」さんの具体的な活動内容を教えてください。現在は何軒くらいに食品を届けているのですか?

工藤さん:現在は40軒弱の家庭に月1回の割合で食料品を届けています。ひとり親の家庭が主ですが、高齢者世帯もあります。食料品を集める活動「フードドライブ」は、市社会福祉協議会や市内の団体、施設に協力してもらい、そちらまで持ってきてもらったものを回収に行っています。また活動の周知のため地域のイベントに参加したり、お寄せいただいた食料品の保管拠点ともなっているこちらの場所を、地域の居場所「こかげ」として運営したりもしています。

 

今や優先順位の低い「食費」。他支援への橋渡し役も。

――いきなり恐縮ですが、正直なところ、現代の日本社会で食べ物に困っている人がいるというのは想像しにくいのですが……。

工藤さん:確かに現在は、いわば昭和的な、“ひと目で分かる”貧困家庭はほとんど姿を消したかもしれませんが、逆に身なりや持ち物が一見普通でも、実は貧困に陥っているという「相対的貧困」「隠れ貧困」のケースは珍しくありません。とりわけ現代においてはインターネットをはじめとする通信手段の確保が第一で、またこのあたりのような地方では不可欠といえる車の維持費も重くのしかかり、そのほか学校にかかる費用などで手いっぱいとなり、食べることは二の次、ある程度我慢できてしまう分、お金を回す優先順位が低くなってしまいがちなのです。またそのように貧困が見えにくくなった分、支援に頼ることに負い目のようなものを感じてしまい、声を上げにくくなっている場合も少なくありません。そういった方々の心理的なハードルを下げ、支援につなげるのも私たちの役目だと思っています。

 

――そうなんですね……。また新潟のような地方では特に、コメや野菜なら身内や近所から分けてもらえそうなイメージもありますが。

工藤さん:頼る人が周りにいれば良いですが、必ずしもそういう人ばかりではありません。貧困とひと口に言っても、お金の面だけでなく、そういった人とのつながり、また公的支援、情報へのアクセスが限られているなど、様々な要因が複合的に絡み合い、社会からの孤立を深めてしまっている場合があります。繰り返しになりますが、私たちはフードバンクの活動を通じて、そういった方と社会をつなぎ直す役割も担っているといえるかもしれません。ただ食べ物を持っていくだけでなく、定期的に通ううちに徐々に気心も知れてきて、話も弾むようになってきますから。それを目的にしているわけではありませんが、会話を重ねるうちに自然と、この方にはこういう支援が必要なんじゃないかな、あそこにつなげた方がいいんじゃないかな、と感じることもあるので、そういうときは無理のない範囲で紹介したり説明したりもしています。

 

――コロナ禍の長期化により、そういった家庭も増えているのでしょうか。

工藤さん:この地域でもジワリと影響が出てきている感じはします。話をしていると、とにかく先が見えないことが精神的にキツい、という方が多いですね。今は何とか大丈夫だけど先のことが考えられない、そういった不安は強まっていると思います。また、県内団体でつくる連絡協議会ではこのコロナ禍を受け、ひとり親家庭で大学等に進学した子どもへの仕送り食品の提供にも取り組んでいますが、うちもその取り組みに参画しています。

 

寄せる側も受ける側も、支援をもっとカジュアルに。

――そもそも工藤さんがフードバンク活動に取り組んだきっかけは?

工藤さん:私の家はお寺で、死に接する機会が身近にあることもあり、以前から県内でゲートキーパーの活動に取り組んでいたのですが、その中でつながりができた方々に感化されたのがきっかけですね。ゲートキーパーとフードバンクには共通性・近似性があり、ちょうど県内に連絡協議会が立ち上がる時期で、私の地元が空白地帯だったこともあり、設立を勧められたんです。協力や助言をいただいた方々はみなさん理念的にも実践的にもとても魅力的で尊敬すべき方々で、現在も運営にあたってやりとりしていますが、とても心強いです。

 

――実際に団体を立ち上げてちょうど1年が経過しましたが、いかがですか?

工藤さん:そうですね、止まらない列車に乗ってしまったような感じですかね(笑)。おかげさまで様々な団体や機関、個人の方からご協力をいただいて、今のところは順調といえるかもしれません。ただ、食品はたくさん集まってもすぐになくなってしまうので、持続可能な活動にしていくためには、フードドライブの機会や場所をさらに拡充していかなくてはなりません。設立当初あった「ご祝儀」的な寄付も落ち着いてきましたし、継続的にご支援いただけるよう取り組んでいくことも大切です。活動の周知、定着に向けても、もっといろいろ仕掛けていけたらと思っています。

 

――具体的には?

工藤さん:例えば地域や協力団体のイベントに参加した際は、会場でフードドライブを実施するだけでなく、駄菓子屋さんを開いたりとか、コラボ企画をしたりとか……。寄付する方にも利用する方にも、福祉ボランティア団体だからといって変に構えず、「何か面白そうなことをやっている」と思ってもらえた方が、うちにアクセスする心のハードルが下がると思うので。

 

 

――最後に、今後の展望を教えてください。

工藤さん:今の話ともつながりますが、フードバンクをもっとフランクに、カジュアルに利用してもらいたいと思っています。そもそも私たちはあくまで媒介で、余っているものを足りないところへ届けているだけですから、利用することに負い目や恥ずかしさを感じる必要はありません。困っている時はお互い様です。SDGsも推奨される中、もっと何気なく自然に食べ物や思いやりをやりとりできる世の中になってほしいなと思っています。

 

――なるほど。本日はいろいろと勉強になりました。ありがとうございました。

 

 

 

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