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福祉と社会をつなげる、ハンドメイド作品の移動販売「フクシ屋雑貨店」。

福祉施設で作られた小物類や金属アレルギー対応のアクセサリーを県内各所で販売している「フクシ屋雑貨店」。丁寧に縫製された布製品や目を引くデザインの缶バッチなど、さまざまな雑貨を扱っています。今回は店主の木津さんに、活動をはじめたきっかけやどんな思いを持って福祉に関わっているのかなど、いろいろと聞いてきました。

 

フクシ屋雑貨店

木津 陽子 Yoko Kitsu

1984年秋葉区生まれ。新潟青陵大学福祉心理学科を卒業後、特別養護老人ホーム、社会福祉協議会、福祉支援を行うNPO法人に勤務。2015年に「フクシ屋雑貨店」をはじめる。社会福祉士、福祉用具専門相談員の資格を持つ。

 

県内で作られたものを県内で販売。遠くの誰かではなく、近くにいる人に届けたい。

——まずは「フクシ屋雑貨店」について教えてください。

木津さん:福祉施設で作られた雑貨や、私が作ったアクセサリーなどを扱っています。他にも、創作意欲の高いお子さんが描いたイラストを親御さんのサポートで商品にしたものや、施設から独り立ちして頑張っている方のハンドメイド作品も置いていますし、木製品を販売していたおじいちゃんにお願いして、木のおもちゃを置かせてもらったこともありました。そんなふうに私が「福祉に関わるかな」と思う方にお声がけして商品を揃えているんです。

 

——そもそも、この取り組みをはじめようと思ったのはどうして?

木津さん:障がい者手帳を持っているわけではないんですけど、私自身病気を持っていて、これまでいくつも仕事を辞めてきたんです。そこでいっそのこと「障がい者中心の世界にしちゃえ」と思ったんです。「福祉を必要としている方を助けたい」っていうより「一緒に頑張っていけたらな」と思ってはじめました。どちらかが上とか下とかじゃなく、障がいがあってもなくてもフラットな社会あったらいいな、と。

 

 

——あちこちで出店する「移動販売雑貨店」として活動されていますよね。

木津さん:活動をはじめたばかりの頃は「いい商品を集めるために『フクシ屋雑貨店』という名前を広めなくちゃ」と思って、野菜の朝市や学校の文化祭など、どこにでも出向いてとにかく名刺を配ったんです。本当は店舗を構えて「誰が来ても安心な場所」を作りたかったんですけど、そうこうしているうちに移動販売として出店するスタイルが身についちゃったんです。

 

——ということは、これまでいろいろなところで出店されたんでしょうか。

木津さん:「合併前の旧市町村を制覇したい」って目標があったんですけど、それは割と叶いました。「出店先は県内だけ」「扱う商品も県内の方のもの」と決めています。

 

——県内に限定されている理由は?

木津さん:作り手さんたちが自分たちの作ったものを誰に知って欲しいかっていうと、たぶん「遠くの誰か」じゃなくて、ご近所さん、恩師、親戚みたいな「近い存在」だと思うんです。だから「地元の施設でこんなにすごいものが作られている」って、地域のみなさんに広まって欲しいですし、地域で理解を得られていない方もいるので、そういった方がちょっとでも住みよくなったらいいなって思いもあります。なので、出店するときは、なるべく出店する地域の方の作品を選ぶようにしているんです。地産地消みたいな感じですね。

 

さまざまな立場で福祉に関わってきた木津さんが考える「障がい」。

——商品の仕入れも木津さんがされているんですか?

木津さん:扱うものは自分の足で探したいんですよね。初期の頃はどんな商品があるかを見せてもらうために、手書きのチラシを片手にひたすら施設見学をさせてもらっていました。

 

——どんな観点で扱うものを選んでいるんでしょう?

木津さん:ひとりでやっているし、自分が納得したものしか置きたくないと思っていて。でも「綺麗だから選ぶ」ってことはなくて、「なんだこれ?」って気になっちゃうものが好きですね。

 

 

——商品開発の段階から関わることもあるんですか?

木津さん:商品開発のプロではないので口を出すことはあまりしないんですけど、「こんなものがあったらいいな」って相談をすると、施設の職員さんが取り入れてくださることが多いんです。「これを作ってください」って指示みたいにしちゃうと自主性がなくなってしまうと思うので、あくまでちょっとしたご提案ですね。

 

——施設の職員さんとの関わりも大切なんですね。

木津さん:職員さんには「どんなお客さまがどんな目的で買っていったのか」をなるべくお伝えしています。そうすると皆さんの目がだんだん変わってくるというか、誇りを持ってくれるようになるっていうか。情熱が生まれると「作り手さんの作品を今度は展示会に出してみよう」って動きになることもあるし、「他の利用者さんにも隠れた才能があるんじゃないのかな」って働きかけてくれるんです。

 

——木津さん自身、社会福祉士として福祉の現場も経験してこられましたよね。

木津さん:デイサービスをしていた頃は、利用者さんのご自宅に入ることもありました。家族を大事にされているお家もあれば、ひとり暮らしだったり、貧困世帯だったり、いろいろな場面を見させてもらいましたね。そんな経験をしたから、障がいのある方も、ご高齢の方も、金銭的な面から生活支援を必要とされている方も、すべて地続きになっているというか、区別する必要はないのかなって思うんです。障がいがある人もない人も結局はひとりの人間で、「どんな人なのか」っていうのがグラデーションになっているイメージって言えばいいのかな。

 

——その通りですね。

木津さん:死ぬときはほとんどの人が障がい者なんですよね。年をとれば耳は聞こえにくくなる、目は見えなくなる、足は悪くなる。障がいって特別なことじゃないんです。

 

「フクシ屋雑貨店」が媒体役となり、福祉と社会をつなげていく。

——「フクシ屋雑貨店」をはじめて、お客さんからはどんな反応がありましたか?

木津さん:はじめた頃と今とで、来てくださる方の反応がぜんぜん違うんですよね。興味を持ってわざわざ来てくれる人がすごく増えたと思います。最初の頃は「ハンドメイド品です」とだけ伝えて、福祉施設で作られたものだということは関心を持ってくれた人にだけお伝えしていました。でも2年くらい活動を続けていくうちに、こういう商品を求めている人にたくさん出会って。「ファンが増えている」って手応えをすごく感じるようになったんです。お客さまから「あそこの施設もいいよ」って教えてもらったり、「あの商品ありますか?」ってリクエストされたりすることも増えました。

 

——お店を開いてから、特に印象に残っていることも教えてください。

木津さん:バッグなどを作っている布製品作家さんとの出会いですね。当初は施設を介して連絡していたので、作家さんご本人には会ったことがありませんでした。そのうち、その施設では布製品の生産が休止になって、職員さんとの交流も一切なくなったんです。ところがあるとき、作家さんから直接ご連絡をいただいて。「バッグを作っていた者です。よかったら私の作ったものを置いてください」って。作家さんが施設を介さず、個人でやっていける体制を用意することも「フクシ屋雑貨店」のひとつの目標だったので、すごく嬉しかったですね。きっと作り手さんがいちばん望むところってそこなんじゃないかと思っていたので。

 

 

——さて、最後にこれから取り組みたいことを教えてください。

木津さん:今、母と一緒に祖母の介護をしているんですけど、「福祉用具専門相談員」の知識がすごく役立っているんです。便利なものがたくさんあるので、福祉用具を紹介するお店ができたらいいなと思っています。聴覚過敏の方向けのプラスチックやメラミンの食器もかわいいものがたくさんあるんですよ。障がいがあってもなくても、誰でも使えるものをこれからどんどん扱っていきたいですね。

 

 

 

フクシ屋雑貨店

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