主役は人と地域。ゲストハウス「よはくや」で楽しむ「ふだんの村上」。

中心街から一歩奥へ。空き家を素泊まり宿へとリノベーション。

歴史的な景観や建物の風情を楽しもうと、春秋のハイシーズンは多くのまち歩き観光客で賑わう村上市中心街。そのメインストリートから一歩奥へ足を踏み入れると、周囲の閑静な雰囲気に溶け込んだ一軒のゲストハウスがあります。2018年の秋にオープンした「よはくや」さんです。かつては食堂だった空き家を宿泊施設にリノベーションした「よはくや」さんは、これまで村上市街にありそうでなかった気負わず利用できる素泊まり宿として、まち歩き観光の拠点として、国内のみならず海外からも利用客が訪れています。オーナーの髙橋さんに、宿のコンセプトや創業までの経緯、ゲストハウスとしてのやりがいなどについて伺いました。

 

よはくや

髙橋 典子 Noriko Takahashi

1985年村上市生まれ。大学卒業後、首都圏で広告代理店の営業職を経て20代半ばでUターンし、地元の鮭加工販売店でまちづくり事業も手掛ける「きっかわ」に就職。2018年に退職し、村上市街で初のゲストハウスとなる素泊まり宿「よはくや」を創業した。

 

あるものを活かして、生活の息吹を継承。実家のような安心感が。

――本日はよろしくお願いします。中に入ると、どこか実家に帰ってきたような安心感がありますね。

髙橋さん:ありがとうございます(笑)。宿泊を通して、「ふだんの村上」を感じてもらうことがコンセプトです。空き家となった一軒家を持ち主の方から借り受けて営業しているのですが、宿泊施設として開業するにあたって、それなりには手を加えたものの、ゼロから新しいものを、というよりも、あるものを活かして、この場所らしさが出るように心がけました。建物のつくり自体はそのままで、家具もほとんど全て、元々この家にあったものを再利用しています。…ところでこのランプシェード、元は何だと思います?

 

 

――…うーん、分かりません。が、とても建物の雰囲気に合っていますね。

髙橋さん:実はこれ、カキ氷の器なんです。このお家はかつて食堂を営まれていて、カキ氷が人気メニューのひとつだったそうで。オープンに向けて部屋を整理していたら、この器がたくさん出てきたんです。それで知人に頼んで、リメイクしてもらいました。この他、ステキな模様の欄間を2階の手すりに再利用したりもしています。

 

――なるほど、言われてみれば…面白いですね。

髙橋さん:これまでここで営まれてきた暮らしの息吹みたいなものをリセットせず、そのまま受け継いでいきたくて。そもそも空き家といっても、私がお借りする直前まで人が住まわれていたんです。そういう意味では、運が良かったかもしれませんね。

 

観光地化と地域の良さのミスマッチ解消に、ゲストハウスで貢献。

――そもそも、なぜ村上にゲストハウスをオープンしようと思ったのでしょう?

髙橋さん:えーと、どこから話せばいいのか…少し長くなりますがよろしいでしょうか(笑)。

 

――ぜひお願いします。

髙橋さん:私は元々このあたり(村上市中心街)で生まれ育ったのですが、大学進学で県外に出て、就職も首都圏でした。それからしばらくして家庭の事情でUターンすることになり、「せっかく帰るのなら、東京ではできない地元ならではの仕事がしたい」と考え、「きっかわ」に就職しました。

 

――「きっかわ」といえば、村上名産の鮭の加工販売とともに、観光によるまちづくり事業も手掛けていますね。

髙橋さん:そうです。元々それ以前から帰省する度に、自分が幼い頃から慣れ親しんできた地域に観光客の方が増えてきたという新鮮な驚きがあったのですが、きっかわに入社して、その謎が解けたんです。自分も来訪者の方々をもてなす立場になって、地元の風情ある街並みや建物、人の温かさを褒めてもらうことにやりがいを感じる一方、地域が観光地化することに歯がゆさというか矛盾も感じるようになって。

 

――というと?

髙橋さん:観光地化し、ツアーが組まれるようになると、来訪者は快適性を求めるようになります。例えば、観光バスがお店の前まで乗り入れられるように、とか、クレジットカードが使えるように、とか、せっかく来たのにシャッターが降りているのは見映えが悪い、とか。一方で地域にはその地域にしかない魅力があり、日常があります。来訪者は本来、それを楽しみに来るはずです。村上ではその魅力にあたる昔ながらの商店街の良さが、観光地化していくにあたってはデメリットになってしまいかねなくて。せっかく数ある観光地の中から村上を選び、足を運んでくれたのに、これでは来る側と迎える側、どちらも悪いわけではないのに、双方にとって「こんなはずではなかった」となりかねないなと。そうならないためには、もっと「ふだんの村上」を「いいね」と思ってくださる方にたくさん来てもらえるようにすれば、来る側も迎える側も満足度が上がるはず、と思ったんです。そうするにはどうすればいいかと考えていたところ、ゲストハウスという業態があることを知り、実際に他地域にあるゲストハウスを利用してみたんです。

 

――どうでした?

髙橋さん:まず、とっても楽しかったですね(笑)。外を出歩くと地元の方が気さくに声を掛けてくれて、「あぁ、あそこに泊まっているの」って、地域にすんなり溶け込めて。夜はそのゲストハウスで、私たち宿泊者だけでなく地元の方たちも来ていっしょにお酒を飲んで。村上にもゲストハウスという選択肢があれば、「ふだんの村上」の良さを実感してもらえるのではないかと考え、「私もこういう場を作りたい」とさっそく物件探しを始めました。

 

物件探しに2年弱。運命の出合いは、退職の4日前。

――それで、今の物件を選んだのは?

髙橋さん:今の物件に出合うまで、2年弱もかかりました。勤務の合間を縫って、条件に合う空き家はないか実際に歩き廻って探したんです(苦笑)。苦労したのは、空き家ってそもそも、あまり貸してくれないんですね。「貸すくらいなら、いっそ丸々買ってもらって手放したい」っていうオーナーさんが殆どで。買うとなると当然それなりの費用がかかるので、できれば賃貸でやりたかったんです。とはいえそんな物件はなかなか無く、時間だけが過ぎていって。それで、中途半端になってはいけないと思って、会社を辞めることにしたんです。

 

――それは思い切りましたね。

髙橋さん:正社員の立場を手放すのは少し勇気がいりましたが、今の物件に出合ったのは会社のおかげなんです。きっかわで手掛けている「町屋再生プロジェクト」という建物の外観再生事業に、今の物件の持ち主さんから相談があって。住人が不在となってしまったので、地域のために役立ててほしい、と。「そういう物件をちょうど探している人間がいる」ってことで、私につないでもらって。実際に見に行くと、本当に理想的な物件でした。ゲストハウスをしたらぜひお客さんを案内したかった飲食店も徒歩1分圏内にあって。物件も決まらぬまま退職を決め、社員として籍がなくなる4日前だったのですが、思わぬタイミングで2年弱もかかっていた物件探しが終わりました。

 

――開業にあたっては、資金の一部をクラウドファンディングで募ったとか。

髙橋さん:やるかどうか迷ったんですが、自分の考えと、宿そのものを広く知ってもらうきっかけにしたいと思ってやりました。募ったのは防火の設備投資の費用で、おかげさまで目標の50万円を大きく上回る82万1千円もの金額を寄せていただきました。クラウドファンディングを通して、自分の想いを改めて見つめ直すよい機会にもなりましたね。

 

インバウンドも多数。偶然の出会いこそ、ゲストハウス冥利。

――実際に開業して、当初の想定と異なった点などはありましたか?

髙橋さん:近所のお店の方々が、遠方から訪れる自店の常連さんに「近くに宿ができたから」とうちを紹介してくれるんです。とても嬉しくありがたいことで…。長年築き上げてきた信頼関係をこちらにも振り向けてくれ、背筋が伸びる思いです。当初は「よはくやがあるから村上に来る」というファンを増やそうと思っていたのですが、むしろ逆で、今となってはおこがましかったですね。また、予想以上に海外からのお客さまが多いです。インバウンド向けのサイトに掲載していることもあるのですが。

 

――英語、いけるんですか?

髙橋さん:いえ、中学英語レベルですよ(苦笑)。当初は自分が英語を話せるようになるまでは受け入れを控えようと思っていたのですが、実際にやってみると、心配は杞憂でした。海外の方は、もしかしたら国内の方以上に、地域に対してリスペクトを持って接してくれるんです。例えば私たちがイタリアの片田舎へ行ったとしたら、日本語が通じるとは思いませんよね? それと同じだと思います。フランスの方でも中国の方でも、日本語が通じなくともまちなかの案内までしちゃいます。

 

――頼もしい。

髙橋さん:案内した近所のお店の方に「おかげで最近お店を続けるのが面白くなってきたよ」と言われて、ゲストハウス冥利に尽きるというか、やってよかったな、と本当に嬉しくなりました。食事や買い物など全てが内側で完結する旅館やホテルと異なり、ゲストハウスはそれを地域全体に補ってもらうというか、助けてもらわないと立ち行きません。だからこそ、偶然の可能性に満ち、地域の普段の魅力を楽しんでもらえるのだと思います。そういえば12月末、外国のお客さまから宿泊中に「1月のこの日も予約したいんだけど」と言われて、あまりないことなので理由を尋ねてみると…

 

――何があったんでしょう?

髙橋さん:それから東北地方の温泉地巡りへと向かう方だったのですが、近所の飲み屋さんで常連さんと意気投合して、「東北から戻ってきたらまたあのお店で会う約束をしたから」って。泊まった宿でもなく、近くのお店でもなく、そのお店のお客さんが再訪の理由になるって、すごくないですか? 今後もこんなふうに、地域と旅の方が繋がるきっかけづくりができたらと思います。

 

――最後まで聞きそびれていましたが、「よはくや」の由来もそういうことなんですね。

髙橋さん:そうですね。宿はあくまで余白、主役はお客さまと地域で、思い思いの時間を過ごしてもらえたら。この村上で、「よはく」のひとときを楽しんでほしいと思います。

 

――本日はありがとうございました。

 

 

 

■(価格)

《相部屋》\4,500

《個室》2人利用 \13,000(1人あたり\6,500)

    1人利用 \7,500

《子ども》添い寝 \500 小学生まで \2,000 (相部屋・個室問わず)

※税別。今後改定の場合あり

 

 

よはくや -新潟県村上市の素泊まり宿-

〒958-0845 村上市細工町4-23

TEL 0254-75-5489(9:00-20:00)


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