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村上・坂町駅前の創作和食店「出雲」が、浸水被害から再開するまで。

  • その他 | 2022.10.15

8月3日から4日にかけて新潟県北を襲った豪雨から2カ月以上が経過しました。一時は冠水し多くの建物が床上浸水の被害を受けた村上市・坂町駅前も、営業を再開するお店が増えてきています。今回紹介する「創作和食 くつろぎ空間 出雲」さんも、店舗とその隣にある自宅がともに床上浸水に見舞われる悪夢から着実に立て直し、9月23日に再オープンを果たしました。同店の女将・佐藤淳子さんに、「あの夜」の状況から再開するまでの経緯など、詳しく伺ってきました。

 

 

創作和食 くつろぎ空間 出雲

佐藤 淳子 Junko Sato

1973年胎内市(旧中条町)生まれ。「創作和食 くつろぎ空間 出雲」女将。24歳のときに嫁いで来て以来25年、家族経営の同店を切り盛りする。はじめは「お酒を飲む人はキライ」だったが、今やすっかり女将業が天職に。店舗入口脇のカウンター席は常連客の間で「スナック淳子」とも称される。最近の趣味は健康づくりで始めた低山ハイキング。

 

家族経営のアットホームな飲食店。復旧には友人や常連客も駆けつけ。

――営業再開おめでとうございます。店内は一見したところ、浸水被害があったようにはとても思えないくらいです。

佐藤さん:ありがとうございます。復旧作業に駆け付けてくれた友人・知人やお客様、また迅速に修理していただいた業者の方々には、いくら感謝してもしきれません。おかげで8月3日以前とほぼ変わらない状態にまで回復でき、再開することができました。被災当夜のお店の状況を考えると、わずか2カ月足らずで再開できるなんて、本当にみなさまのおかげで……(涙)

 

――大変な被害だったんですね……。まずはお店についてご紹介ください。

佐藤さん:うちは家族経営でアットホームさが売りの創作和食店です。もともとは割烹で、本格的なコース料理からカジュアルな会食、仕出し、オードブルなどまで幅広く対応しています。2018年には店舗を全面リニューアルして客間を完全個室化しました。ちなみに店名は創業した先代の生まれ故郷が出雲なのが由来です。

 

 

――では恐縮ですが、改めて水害当日のことを振り返っていただいてもよろしいでしょうか。

佐藤さん:はい……8月3日の夜はもう本当に雨がすごくて、予約もすべてキャンセルになってしまったので22時にお店を早じまいして、荒川を跨いだ神林地区に住んでいる長男も早く帰しました。ただ長男は消防団の出動で0時ころにはこっち側(荒川地区)に戻ってきて水防活動に従事していました。眠れない夜を過ごす中、当夜は雷も酷かったんですが、すぐ近くに雷が落ちて停電してしまいました。ブレーカーを上げると明かりは点いたんですがテレビやパソコンなど家電はダメで、情報を得る手段がスマホだけになり、不安に拍車がかかっていた午前2時前後、長男が家に飛び込んできて「周りはすごいことになっている。すぐ近所でもう水が入ってきた店もある」と。それまでは心のどこかで「大丈夫だろう」と思っていましたが、一気に緊迫感が高まりました。

 

畳がプカプカ…現実に呆然。周囲の協力は作業だけでなく精神面にも。

――そこからどのような行動を。

佐藤さん:それで私たちは慌ててお店を含め1階の大事なものをできるだけ2階に上げて、自分たちも2階に避難しました。2階にあるトイレの水がカポカポいっていたので嫌な予感がして、3時ころ1階の様子を見に下りてみると、畳がプカプカ浮いているのが見え、これは大変なことになった、と水害を現実として捉えました。雨は弱まることなくずっと強く降り続いていました。

 

――……。

佐藤さん:私も、テレビの画面越しにしか見たことがなかったような光景が目の前に広がっていて、現実を受け止められず、しばらく呆然としていました。2階からは、被災された方がボートで救助される様子も見えましたし……。お店の方も酷い惨状で、目の当たりにした時は頭が真っ白になり「もう営業はできないな」と、主人とともに絶望的な気持ちになりました。リニューアルしてまだ4年しか経っていないのに、とか、お盆の書き入れどき前にどうしてこんな目に、とか、これからどうやっていけばいいのだろう、とか、いろんな思いが頭をグルグルしました。それでも、5時ころから電話が鳴り始め、いろんな方から心配の連絡をいただき応対しているうちに少し元気を取り戻し、お昼前からとりあえず店内に残っていた泥水をかき出すことから始めました。

 

――確かに、3年ぶりに規制のないお盆の直前だったのは痛恨ですね。

佐藤さん:せっかくいただいていたご予約をこちらから全部キャンセルするのは、精神的にかなり堪えましたよ……。

 

――それから、建物あるいは気持ちはどのように回復していったのでしょうか。

佐藤さん:被災後すぐに友人、知人やお客様が復旧作業の手伝いにいらしてくれて、本当に助かりました。最初の週末は30人もの方が来てくれて……作業はもちろんなのですが、精神面でかなりありがたかったです。みんなで力を合わせて作業を進めていると、折れかかっていた心がどんどん前向きになってくるんです。語弊があるかもしれませんが、楽しいというか。家族だけだったら、とてもじゃありませんがこんなに早く復旧させることはできなかっただろうし、何より精神的に参っていたと思います。何度も言いますが、本当に本当に感謝しています。

 

再開までは「収入ゼロ」…トリプルパンチを乗り越え、今後も地域にくつろぎを。

――事業再建についてですが、罹災証明書が交付される住家に対し、事業所には公的支援が手薄だと聞きますが。

佐藤さん:うちは隣り合う住居とお店、両方被災しているのでよく分かります。いちばん切ないのは、私たちのような被災で休業を余儀なくされたお店は事業が再開するまでの間、無収入だということです。収入が止まっている中、お金のやりくりを考えるのは精神的にかなりキツいですよ。いくら有利な融資があるといわれても、お金を借りることに変わりはないわけですし。ただでさえコロナと原材料高で大変だったところに、この水害で。

 

――ああ……トリプルパンチだったわけですね……。

佐藤さん:再開後はおかげさまで多くの方にご来店いただいて、ありがたい限りですが、「復興」はこれからが本番だと思っています。坂町全体に、より多くのお客様に足を運んでいただけるよう、さらに活気を取り戻していけたら。

 

――最後になりますが、今後の展望をお伺いしても。

佐藤さん:大変なことがあっただけに、ご利用いただくみなさまには、心ゆくまでくつろいで疲れを癒していってもらいたいと以前にも増して思っています。また何より再開にあたって、本当に多くの方々が力を貸してくれたことは今後の大きな心の支えになっています。みなさんのご恩に報いられるよう、今後も一生懸命がんばっていきたいと思います。

 

 

 

創作和食 くつろぎ空間 出雲

〒959-3132 村上市坂町2506-2

TEL 0254-62-3920

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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