昨年、見附にひっそりとオープンした「新潟フレンチと自然派ワイン masa(マサ)」は、知る人ぞ知る隠れ家レストラン。その隠れ家っぷりは、看板が表に出ていなくて、入口もお店の裏側にあるという徹底ぶりです。といっても、オーナーの長谷川さんはとても気さくでお話好きな方でした。今回は長谷川さんのこだわりにより、飲食店の紹介ですが料理の写真が一切ないという「Things」史上ちょっと変わった記事となりました。
新潟フレンチと自然派ワイン masa
長谷川 雅和 Masakazu Hasegawa
1983年長岡市生まれ。辻調理師専門学校卒業。国内外でフレンチやイタリアンの修業を重ね、2023年に見附市で「新潟フレンチと自然派ワイン masa」をオープン。今は料理に全力を傾け、趣味は老後に楽しもうと思っている。
——長谷川さんが料理に興味を持ったきっかけを教えてください。
長谷川さん:両親が共働きの家庭だったので、子どもの頃から自分で食事を作っていたんです。ホットケーキを調理するときには卵黄と卵白を分けてメレンゲから作ったり、納豆を食べるときも砂糖を入れたりして、美味しい食べ方を探求していました。
——その頃からすでに料理人としての素質があったんですね。高校卒業後はやはり料理の道に進んだんでしょうか。
長谷川さん:自分が将来進む道を探したくて、学生時代はよく図書館に通って成功者の伝記を読み漁っていたんです。そのなかにあった料理研究家・辻静雄先生の自伝に感銘を受けて、辻先生が創設した「辻調理師専門学校」へ進学しました。
——学校での勉強はいかがでした?
長谷川さん:ラッキーなことにフランス校で学べることになって、20歳のときに南フランスのボーリュー地方にある二つ星リゾートホテルで研修をさせてもらえることになったんです。モナコグランプリ開催時期には世界中のセレブが集まるようなホテルで、料理の世界の厳しさを学びました。
——いきなりすごいところで研修されたんですね。
長谷川さん:いい経験になりましたね。帰国後は西麻布にある高級フレンチレストランで働きました。最初はホールを担当していたので、めったに飲めないような高級ワインを飲む機会に恵まれて、ワインについての知識を身につけることができたんです。その後、欠員が出たので調理場に入れたんですけど、当時は自分の知識を過信して天狗になっているところがあって、シェフから疎まれてしまったんですよね……。
——若さ故の過ちですね。その後は?
長谷川さん:どうしても修業したいレストランがあったんですけど、応募が多すぎて働くことができなかったんです。そこで業界でも厳しいと有名な、凄腕料理人のお店で働かせてもらおうと思いました。
——えっ? どうしてわざわざ厳しいお店を選んだんですか?
長谷川さん:腕のいい料理人のお店って人気があるのでなかなか働けないんですけど、厳しい料理人のお店はスタッフがついていけなくて辞めていっちゃうからいつも人手不足なんですよ。だからすぐ採用されるんじゃないかと思ったわけです(笑)
——すごい根性ですね(笑)。じゃあ狙い通り?
長谷川さん:すぐ採用してもらえました(笑)。以前の失敗経験を生かして謙虚に修業していたおかげで、シェフにはとても可愛がっていただけました。その後フランスで成功していた先輩に誘っていただき、あちらのお店でも修業することができたんですが、ビザの関係で1年半しかいられずに帰国することになったんです。
——せっかくの機会だったのに残念でしたね。帰国後はどうされたんですか?
長谷川さん:フレンチはそこそこ勉強したので、今度はイタリアンの勉強をしたくて、山形にあるイタリアンレストランで修業しました。面接で「給料はいらないので、技術をすべて教えてください」って言ったら、本当に給料ゼロだったんですよ(笑)。そのかわり技術はしっかりと教わることができ、副料理長を任せていただけるまでになりました。
——給料なしでも働く意欲がすごいですね。
長谷川さん:そのおかげもあって、新潟や淡路島のイタリアンレストランでは、今までの2倍3倍の給料をもらえる仕事に就くことができました。ただ料理に対する大切なものが欠けているような思いを抱き続けていたところに、大阪のフレンチレストランからオファーをいただいたんです。奥さんからは大反対されましたが、自分の力を試してみたくてオファーを受けました。
——そちらにやり甲斐を感じたんですね。
長谷川さん:そうなんです。でも最初は好調でしたが、僕が調子に乗ってしまい天狗になったせいで、だんだんお客様が離れてお店を潰してしまったんですよ。反対を振り切って決めたことなのに失敗してしまって、家族まで失って、しばらくは酒浸りの日々を過ごしました。だけどやっぱり料理の仕事に戻りたかったので、それからは知り合いの紹介してくれた佐賀のリゾートホテルで総料理長を務めさせていただきました。
——長谷川さんの料理人生って、振り幅が大き過ぎますよね……。
長谷川さん:そうですねぇ(笑)。その後コロナ禍でリゾートホテルも辞めることになってしまいましたからね……。
——それでこちらの「新潟フレンチと自然派ワイン masa」をはじめたんですね。それにしても、看板もなければ入口も裏にあるから迷いましたよ(笑)
長谷川さん:どうもすみません(笑)。隠れ家のようなお店としてやっていきたいので、看板も出していないし、SNSをはじめとして料理の写真も出さないようにしているんです。
——それはどうして?
長谷川さん:本当にお料理を楽しみたい方を優先したいんです。お店の雰囲気が壊れないように、今では完全予約制で営業させていただいております。
——そういうことだったんですね。では、どんなお料理が楽しめるお店なんでしょうか?
長谷川さん:きっかけは大阪で出会った自然派ワインなんです。初めて飲んだときに、それまでのどのワインとも違った飲みやすさに感動して。余計なものを一切使わず昔ながらの製法で作られているので、喉通りもよく、身体が細胞レベルで求めているようなワインだと思いました。
——では、ワインありきのお店っていうことなんですね?
長谷川さん:はい。自然派ワインを飲みながら、身体にいい料理を味わってほしいという思いでやっています。だから料理も自然派ワインに合わせたものにしていて、僕が今まで学んできたことをベースにしながらも、これまで作ってきた料理とはまったく違うものになっているんです。
——どんなふうに違った料理なんでしょうか。
長谷川さん:できるだけ地元の食材を使って、自然派ワインとのバランスを考えて薄めに味付けした料理です。ひとくちめは物足りなく感じるかもしれませんが、だんだんちょうどいい味わいになって、最後はご満足いただけるようにバランスを考えています。ときには出汁を使わず水だけで作ることもあるんですよ。
——シンプルなものほど美味しく作るのは難しいんでしょうね。今気づいたんですけど、カトラリーがちょっと変わっていますよね。
長谷川さん:僕のお店は、子育てが終わって自分の時間を楽しみたい女性や、健康意識の高い女性に来ていただきたいんです。だから内装も女性ひとりで入りやすいように気を使ってありますし、女性が持っても重くなくて使いやすいカトラリーをご用意しています。器は福岡の陶芸家に焼いてもらった特注品なんですよ。
——食材だけではなく、食器やカトラリーにもこだわっているんですね。
長谷川さん:どんな人がどんな思いで作ったものなのか、そこを受け継いでお客様に伝えていきたいんです。特に自然派ワインや新潟の食材については自分を「伝道師」だと思って、多くの人たちに魅力を伝えていきたいですね。
新潟フレンチと自然派ワイン masa
見附市今町1−13−15
090-6307-1251
12:00-15:00/18:00-22:00(要予約)
不定休