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「茶館きっかわ 嘉門亭」で、村上の文化を感じる特別な時間を過ごす。

昨年5月、鮭料理の名店「千年鮭きっかわ」が手掛ける御茶サロン「茶館きっかわ 嘉門亭」が、村上市の町屋通りにオープンしました。「千年鮭きっかわ」の社長である吉川さんは観光カリスマとしても有名で、村上市のまちづくりに尽力されてきた方でもあります。吉川さんがこれまで取り組んできたまちづくりのこと、本業である鮭料理のこと、そして今回村上茶の御茶サロンをはじめた経緯について聞いてきました。

 

 

千年鮭きっかわ

吉川 真嗣 Shinji Kikkawa

株式会社きっかわ代表取締役社長。商社勤務を経て家業である「千年鮭きっかわ」を継ぎ、15代目当主になる。城下町の村上を守るため、1998年に「村上町屋商人会」を結成し「町屋の人形さま巡り」などを主催。その後「黒塀プロジェクト」「町屋再生プロジェクト」を立ち上げ、町屋を生かしたまちづくりに取り組み、村上市の観光客誘致に貢献。2004年に国土交通省より観光カリスマに認定。2016年に鮭料理専門店「千年鮭きっかわ 井筒屋」をオープン。

 

眠っていた村上の魅力を掘り起こし続けてきた「きっかわ」。

——吉川さんは観光カリスマとしても有名な方ですよね。これまで村上でどんな取り組みをされてきたんでしょうか。

吉川さん:村上の町にはすごく歴史的な価値があるので、それを生かした取り組みを本業とは別にずっとやってきました。今では「村上は城下町だ」という認識を持つ方が多いでしょうけど、まったくそんなふうに思われていない頃に「町屋を生かした、歴史のまちづくりをしよう」と思って活動をはじめたんですよ。

 

——「町屋を生かしたまちづくり」というのは?

吉川さん:町屋を取り壊して道路を3倍くらいの幅に広げて、町の姿をまったく変えてしまうという計画があって、それを聞いて私はひとりで反対したんです。そこで「町屋を目的に外から人が来るようになれば、ここに住んでいる人たちも町屋を大切にするようになるんじゃないか」と考えて、「町屋の人形さま巡り」とか「町屋の屏風まつり」とか、どんどんいろんなことをやっていったんですよ。もう20数年前のことですね。

 

——町にあったものを生かして、村上の魅力を高めていったんですね。

吉川さん:以前の商店街にはアーケードがあったのですが、どこも店の中には昔ながらの建物が残っていました。そこで市民でお金を集めて、町屋の外観をどんどん変えていったんです。40軒を超えた頃から行政も加わって、近代化の方向転換をしました。徐々に町の景観が変わって、それまで元気を失っていた村上に通年で観光客が来るようになっていったわけです。

 

 

——村上のまちづくりに大きく貢献されてきたんですね。ところで、吉川さんの本業は鮭料理のお店ですよね。よければ「きっかわ」の歴史についても教えてください。

吉川さん:村上は平安時代から鮭の食文化の歴史がある町で、その文化がいまだに受け継がれているんです。江戸時代には、鮭が村上藩の大切な収入源になっていたんですね。ところが江戸後期になると不漁に悩まされるようになったそうで。まだ鮭の生態がわかっていない時代だったので、頭を抱えるしかないっていうときに、ひとりの侍が「鮭は川で生まれて海で育って、また生まれた川に帰ってくる」という「回帰性」を発見したそうなんです。

 

——その時代にとってかなりの大発見ですよね。

吉川さん:それで鮭を好き勝手に捕るのではなく保護するようになったら、侍の知恵と努力もあって、以前にも増してたくさんの鮭が川に帰ってきてくれるようになったそうです。それから「鮭は大切な天下の恵みなんだ」「決して粗末にしてはいけない」という思いが生まれて、普通は捨ててしまうような内臓、中骨、頭、皮、エラまで食べるようになったんですね。それを村上の気候風土の中で発酵させたり熟成させたりして、村上ならではの鮭料理が生まれていったわけです。

 

 

——鮭抜きに村上の歴史は語れないわけですね。

吉川さん:しかし戦後のインスタントや化学調味料ブームをきっかけに、それまで村上が大切にしてきた鮭料理を「非文化的で野蛮な食生活」だと吹聴する人たちが現れたんですね。このままでは鮭料理が作られなくなって、村上の大切な食文化が失われてしまう。そう言い出したのが先代、私の父だったんですね。先代は当時、造り酒屋をやっていたのですが、村上の文化を残して伝えていくために鮭料理の店に方向転換したんです。

 

——なるほど。それが「千年鮭きっかわ」本店ですか。

吉川さん:最初は地元の人から「そんなもの作って誰が買うんだ」って笑われたり、銀行からは「なんて時代遅れなことをはじめたんだ」ってお金を貸してもらえなかったりしたそうです。地元の人たちにとって鮭料理は当たり前のものですから、当時はその価値が分からなかったんですよね。

 

 

——それほど村上では鮭料理って当たり前のものだったんですね。

吉川さん:苦しい経営をしながらも、先代は「村上の文化が大切だ」と訴えながら店を続けました。そのうち目覚める地元の人がひとり、またひとりと増え、料理屋では秋になると鮭料理がフルコースで出されるようになって、気づいたら「村上は日本一の鮭の食文化があるまちだ」と言われるようになったわけです。

 

——ドラマのような話ですね……。

吉川さん:町屋にしてみても鮭料理にしてみても、地元の人にしてみれば当たり前のことなので、文化として見られていませんでした。だけど外の人が「なんていい建物だ」「村上の鮭料理は素晴らしいよ」「すごい文化があるんだ」って評価してくれたことで、それまで「こんな田舎は嫌だ」と思っていた地元の人たちが、だんだん村上の魅力に目覚めていったんですね。

 

村上の文化を体験できる、他にはない。

——ところで本題ですが、鮭の加工販売を本業としてきた吉川さんが今回お茶サロンをはじめられた経緯が気になります。

吉川さん:「嘉門亭」は「村上のお茶ってこんなに素晴らしいんだ」と知ってもらいたいと思ってはじめた店です。村上は「北限の茶処」と言われていますが、そこにはまだ知られていない素晴らしい文化があるんですよ。

 

——といいますと?

吉川さん:家にお上がりいただいた大切なお客様には、その家の主人が自らお茶を淹れてもてなす風習があるんですよ。他のところから来た人は「えっ、ご主人がお茶を淹れるんですか」と驚くんじゃないでしょうか。

 

——へ~、素敵な風習ですね。

吉川さん:先代はその風習に「亭主の茶」と名付けたんです。実際に、先代も自宅にお上がりいただいたお客様には好んで特別なお茶を淹れておもてなししていましたけど、そのお茶を飲まれた方は村上の生活文化に触れられたことに喜んでくれるんですよ。そんな「亭主の茶」の風習にのっとって、ここではスタッフがお客様の目の前でお点前をして、特別なお茶をゆっくりと楽しんでもらいます。

 

 

——一般的なお茶屋さんとは違って、コースでお茶が楽しめるそうですね。

吉川さん:村上茶の魅力は実際に飲んでもらって初めてわかると思うので、ここで過ごす時間をじっくりと楽しんでもらえるようにコースを組んでいます。それにここでは村上の3大物産である「鮭料理」「木彫堆朱」「お茶」のうち、木彫堆朱とお茶のふたつを楽しめるんですよ。村上の文化を楽しめる、他にはないお茶屋さんなんです。

 

 

——この建物も古さと新しさが共存していて素敵ですね。

吉川さん: 明治時代の建物なんですけど、20年もシャッターが閉まったままの空き店舗だったんですよ。それが10年前に空き家になっていたんですけど、縁があってうちで借りることになって、大改修してこのような建物にしたんですよ。一部の壁や柱など、昔のまま残しているものもあります。

 

——すごく立派なお庭が目の前に広がっていて、気持ちがいいです。

吉川さん:この辺りの町屋でここまで広い庭があるのはうちだけなんです。大昔の成り立ちは旅籠で、庭を囲んで部屋をしつらえていたようです。だからこの庭を見せることが、この建物を生かすことだと思いました。今は雪が積もっているので難しいですが、天気がいいときは戸をみんな開けて、建物と庭の一体美を楽しめるような造りにしました。

 

——雪景色も綺麗ですが、次は春にお邪魔したいですね。吉川さんは「嘉門亭」が村上のまちにとって、どんな場所になっていって欲しいですか?

吉川さん:この場所を通じて村上の魅力がもっとアップしていったらいいなと思いますし、村上のお茶が新しく注目されて、そこに改めて光があたって、いい巡りになれば嬉しいですね。

 

 

 

茶館きっかわ 嘉門亭

村上市大町3-7

0254-75-5711

10:30-17:00(L.O.16:00)

定休日 水・木

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