果てがないから面白い。カーブドッチの醸造家「掛川史人」のワイン造り。
ものづくり
2023.11.20
新潟市西蒲区の角田浜に建つ「カーブドッチワイナリー」。新潟の風土を生かしながら、広大な畑で育てたぶどうを使った上質なワインを日々造り続けています。そんな「カーブドッチ」のワイン造りについて、取締役兼醸造責任者を務める掛川史人さんに聞きました。ワイン愛に溢れた掛川さんのお話は、思っていた以上にワインは自由で楽しいものなんだと教えてくれました。


カーブドッチワイナリー
掛川 史人 Fumito Kakegawa
1980年神奈川県生まれ。「株式会社 カーブドッチ」取締役兼醸造責任者。高校卒業後フランスへ渡り、ワイン造りを学びながら4年間を過ごす。帰国後に「株式会社カーブドッチ」へ入社。2006年より醸造責任者、2010年より取締役を務める。
農業の面白さから、ワイン造りに興味を持つ。
――掛川さんにお聞きしたいことがたくさんあります! まず、ワイン造りに興味を持ったきっかけってなんだったんでしょうか。
掛川さん:もともと農業がやりたかったんです。小学生の頃、神奈川県の自宅にコンポストがあって。僕は生ゴミ捨て係だったので行ってみると、分解されなかったかぼちゃのタネが発芽していて、そこにかぼちゃがなっていたんですよ。作物を作るのって面白いなと思いました。
――農業への興味がベースになっているんですね。
掛川さん:それから自分で小さな畑を作って、せっせと野菜を作っては食べていました。そしたら、ここの創業者である母が「私はワイナリーをやるから、農業が好きならワイン造りをしないか」と言って。そこからでしたね。
――徐々に醸造家を目指すようになっていったと。
掛川さん:ワイナリーができたのが中学1年生のときで、進路が決まったのが中学3年生のときだったかな。高校卒業してからフランスに渡って4年間過ごしました。世界最高峰のワインの産地のひとつであるブルゴーニュというところへ行って。そこで口にするもの、目にするもの、全部が一流品なわけですよ。僕のワインへのイメージを形作ったのはその4年間ですね。帰国後に「カーブドッチ」へ入社して営業や製造を経験して、2006年から醸造責任者、2010年から取締役になりました。

どんなお客様にもフィットするものを造りたい。ジャンルの違う3つのシリーズ。
――では、掛川さんのワイン造りについて教えてください。「セパージュ」「どうぶつ」「FUNPY(ファンピー)」という3シリーズのワインを造られていますよね。
掛川さん:いちばん最初に造ったのが「セパージュシリーズ」。フランス語で「品種」という意味ですね。カーブドッチが造るべきワインだと思っています。もう少し解像度を高く話すと、ここは新潟市でいちばん最初にできたワイナリーなんです。そういう始祖たるワイナリーはどういうワインを造ったらいいのかを考えたときに、まずはちゃんとしたワインを造った方がいいだろうと考えました。
――「ちゃんとしたワイン」というのは?
掛川さん:「ちゃんとしたワイン」といってもいろんな定義があると思うんですけど、僕がフランスで学んだ「テロワール」という概念があって。日本語に訳すと「風土」。「その土地のいろんな要素を瓶に詰め込む、それがワインだ」という考え方です。僕らでいうと、土壌が砂地であることが特徴なんです。同じ品種のぶどうが全国で作られているんですけど、僕たちのぶどうは明らかに香りが強くて華やかで、サラッとした味わいになっていて。そういう砂のニュアンスが瓶の中に入ったらいいなと。

――角田浜の砂地特有の味わいがあるんですね。
掛川さん:あとは僕らが力を入れている「アルバリーニョ」という品種があって、それには「特徴香」っていう品種特有の香りがあるんです。その香りが瓶の中にストレートに入るといいなと思っています。りんごジュースはりんごの香りがするじゃないですか。それが正しいことだとして、原料になるぶどうの香りがちゃんとするものを「いいもの」だとしているんです。
――なるほど。土壌やぶどうをそのまま映し出して造るワインが「セパージュ」なんですね。
掛川さん:音楽で例えるならクラシックですね。ベートーヴェンの「第九」は誰が弾いても「第九」で、その後に指揮者は誰か、演奏が誰かっていう微細な違いが出てくるんですよ。僕がイメージしている「セパージュシリーズ」もそうで、まずはアルバリーニョが前面に出ていて、僕が表現したいものはそのちょっと後ろにあるんです。それが積み重なっていくので、何年経ってもずっと同じクオリティのものを追求していくことになるんですよね。ほとんど分からない爪の先だけを追求し続ける。そうすると精緻な味わいを持つ、より洗練されたものになっていくんです。

――ふたつ目のシリーズ「どうぶつシリーズ」についても教えてください。
掛川さん:「どうぶつシリーズ」は「セパージュシリーズ」とはまったく逆といってもいいです。土壌も品種の特徴も知るかいと。僕はこういうものが造りたいんだと(笑)。音楽に例えるとジャズですね。同じタイトルの曲であっても、アーティストによって奏でるものがぜんぜん違いますよね。主旋律は残っているんだけど、あとはその瞬間に決まっていく即興生の高いものだと思っていて。楽譜よりも圧倒的に前に弾き手……醸造家がいるので、最近でいうと「ナチュラルワイン」と呼ばれているものにすごく近いです。

――最後に、いちばん新しいシリーズ「FUNPY」について教えてください。
掛川さん:「FUNPY」とは「FUN」と「HAPPY」をくっつけた造語です。ワインをもうちょっとカジュアルにジャブジャブ飲む、「それでよくない?」って。ワインに詳しくなくたって楽しめるものにしようと思って作りました。音楽で例えるとJ-POPです。原料は食用ぶどうがベースになっています。
――へ〜、食用ぶどうからワインを造ることもあるんですね。
掛川さん:ただ、ワイン用ぶどうのような味がするわけではなくて、もっとジューシーでカジュアルです。まだ世界にもそういうジャンルはほとんどないんですけど、好きな人がいっぱいいる味だなと思いますよ。昔からのワイン好きは「こんなのジュースみたいだ」と思うかもしれないけど、それはクラシック音楽ばかり聴いている人が最近の音楽を聴いて「クラシックとしてはどうなんだ」と言っているのに近いんです。ファーストコンタクトが「FUNPY」だった人は、「ワインってジューシーでとっつきやすくて気軽なものなんだ」って思うだろうし。「ジャンルが違う」っていうのはすごく大事なことなんですよ。

――大きくジャンルの違う3つのシリーズを造っているのはどうしてなんでしょうか。
掛川さん:僕らはおそらく日本最大の観光ワイナリーをやっていて、実にいろんな人がお越しになるんです。ワインを飲んで30年っていう人もいれば、一度も飲んだことがないっていう人もいる。そういう人たちに、売りに行くんじゃなくて来ていただきたいって願いながらやっている僕たちが作るプロダクトは、どういうスタンスであるべきかって考えると、いろんなジャンルがあったほうがいいんだろうなって思うんです。
――どんな人でも好きになれるワインが見つかるようにっていうわけですね。
掛川さん:「お客様をお迎えします」というウェルカムなスタンスで、そのプロダクトまで、どんなお客様にも必ずフィットするものを作りたいんです。お酒が好きだったら、どれかのシリーズには当たるだろうと(笑)。最近だと飲めない人向けにノンアルのプロダクトを作りはじめています。

手が届かないから挑戦したくなる。醸造家は何年経っても初心者。
――掛川さんが思う、ワイン造りの面白さってどんなところですか?
掛川さん:手が届かないのが多いところかな。天候も発酵も、自分ではどうにもならないことがすごく多いんです。不確定要素がたくさんあるって、すごく面白くて。もちろん慣れるし経験はたまるんですけど、ルーチンワークにならないので、永遠に初心者のまま一生を終えるんだろうなって思います。
――毎年どうなるか分からない、ハラハラする部分も含めて楽しんでいるんですね。
掛川さん:僕の座右の銘が「感情の起伏が生きている証」で。自分の感情がたくさん揺れるほど、生きている感じがしてよくないですか。大人になると感情が揺れなくなっていくから、旅行とか、みんないろんなことをして自分を楽しませてあげるんだと思うんです。でも僕の場合はお仕事がそれに直結しているので、晴れては喜び、雨が降れば泣き(笑)。うまくいったいかないがたくさんあって、しかもそれに手が届かないから毎年すごく挑戦する気持ちになるし。最後の1回を作っても、醸造家はみんな未熟なまま死ぬんですよ。そういう果てがないところが面白いな。

カーブドッチワイナリー
新潟市西蒲区角田浜1661
TEL:0256-77-2288
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