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沼垂テラス商店街のはじまり。手作りお惣菜「Ruruck Kitchen」。

2015年に誕生した「沼垂テラス商店街」。これまでThingsでは、商店街のいろいろなお店をご紹介してきました。実はこの商店街の第一号といえるのが、お惣菜のお店「Ruruck Kitchen(ルルック キッチン)」です。お向かいにある大衆割烹「大佐渡たむら」の2代目田村さんが、商店街に賑わいを取り戻すためにはじめたお店なんです。商店街の管理・運営を行う「株式会社テラスオフィス」の立ち上げ、それに至るまでにどんな思いがあったのかなど、いろいろとお話を聞いてきました。

 

Ruruck Kitchen

田村 寛 Hiroshi Tamura

1971年新潟市生まれ。東京の大学を卒業後、家業の「大佐渡たむら」に入る。2010年に「Ruruck Kitchen」をオープン。2014年に「沼垂テラス商店街」の管理・運営を行う「株式会社テラスオフィス」を設立。代表取締役社長を務める。

 

時の流れとともに後退する、生まれ育った町。

――田村さんの生家は、沼垂の大衆割烹「大佐渡たむら」さんだそうですね。

田村さん:大学を卒業して、割とすぐに「たむら」に入りました。両親から「遊んでいないで、早く帰ってこい」と言われまして。継ぐ気はまったくなかったんですけど、その頃、バブルが崩壊して、家業が大変なことになっていたんですね。両親は難儀しているし、3、4年だけでも手伝おうというつもりが、どっぷり「たむら」にハマってしまったというわけです(笑)

 

――「大佐渡たむら」さんは、当時も今と同じようなお店だったんですか?

田村さん:そうですね。でも雰囲気や客層は違うかな。私が家業に入ったのは、会社の大きな宴会がなくなりつつあった頃なんですよ。今みたいに、親しい同僚、家族や友人など少人数で外食するのがスタンダードになっていっている時期でした。「これが当たり前になっていくんだろうな」という予感がしたので、ちょっとずつお店のスタイルを変えていったところはあります。

 

 

――当然ですが、当時は「沼垂テラス商店街」はまだありません。このあたりは、どんな様子だったんでしょう?

田村さん:まだ少し、バブルの名残があってね。「たむら」の他にも飲食店や仕出し屋さんが何軒かあって、人口もそれなりに多かったんですよ。もともと沼垂は「工場城下町」として栄えていて、近くに「日本石油」「北越製紙(現:北越コーポレーション)」「東芝硝子」といった大きな企業がありました。でも、私が戻ってきた頃には「日本石油」と「東芝硝子」の工場は閉鎖されて、働く人や業者さんで賑わっていたのが嘘みたいに静まりかえっていて。

 

――そういう要因もあったんですね。

田村さん:新潟市と合併する以前は「沼垂町」だった地域ですから、それなりに栄えていたわけで。その面影を残りつつ、どうも元気がない。そんな雰囲気でしたね。

 

――子どもの頃の記憶にある風景とは、さらにギャップがあるのでは?

田村さん:このあたりは華やかな場所だったのに、中学生くらいだったかな、近所のパチンコ店が閉店して。映画館はもっと前になくなっていたんじゃなかったかな。「沼垂にいたはずの人が減っている」と感じてはいましたけど、高校生、大学生になると地元には目が向かないものじゃないですか。その間にすっかり町は寂しくなったんですね。

 

沼垂テラス商店街につながる、新店第一号「Ruruck Kitchen」。

――そんな中、現在の「沼垂テラス商店街」につながる取り組みをはじめられるんですよね。

田村さん:2010年にはじめた総菜店、「Ruruck Kitchen」ですね。

 

――どうして「Ruruck Kitchen」をオープンしようと思われたんですか?

田村さん:地域全体が沈んでいるような雰囲気だったので、「どうしたもんかな」と、沼垂についての勉強会に参加するようになったんです。そこで「沼垂のこれまで」について話を聞いたり、課題を共有したりするうちに、「思った以上に沼垂が沈下している」と身に染みてわかりました。「たむら」も含めて、「なんとかしないと相当まずいぞ」と危機感を持ったんです。

 

――なんとなく感じていた不安が確信に変わったと。

田村さん:「たむら」については、考えられることを自分なりに取り組むとして、「沼垂をなんとかしなくちゃいけない」と思いました。それで「たむら」の向かいの空き店舗を活用して、「自分ができることで地域の方が楽しめる場所を作ろう」とはじめたのが「Ruruck Kitchen」です。

 

――じゃあ、「沼垂テラス商店街」第一号のお店ですね。

田村さん:「地域の誰もが気軽に立ち寄れる」をコンセプトにして、おじいちゃん、おばあちゃん、子どもたち、その中間世代と、「みんなが買い物できるお店にしよう」と、惣菜とスイーツを置くことにしたんです。ソフトクリームがあったら、夏場は喜ばれるだろうなと思ったりしてね。

 

 

――「Ruruck Kitchen」をオープンして、どんなことを感じましたか?

田村さん:「惣菜屋は大変だな」と思いました(笑)。品数をある程度揃えないといけないし、利幅は多くないし。皆さんの日常の食卓に並ぶものなので、値段を高くするわけにはいきませんからね。「飲食業の中でも、特別大変だ」と苦労した一方で、「ひとつ新しいお店ができるだけで、こんなにたくさんの人がやってくるんだな」という反響の大きさも感じました。

 

――なんだかワクワクしてきますね。

田村さん:お取引先からは、「こんな場所にお店を出して、大丈夫ですか」と心配されたこともありました(笑)。危険な賭けではあるんだけど、沼垂の勉強会に何度も参加するうちに「構想だけじゃダメだ。行動に移さないと」という気持ちにもなっていて。「失敗しても、それはそれで良い。とにかくやってみないと」と思っていましたね。

 

――ご自身で新しいお店をはじめたわけですから、それ以降の出店希望者さんには説得力のある体験談をお話できますよね。

田村さん:それは、もちろん。店舗の構造がわかるから、いろいろなアドバイスができました。どれくらい予算がかかったかとか、使い勝手がどうのっていう実体験をお伝えできたと思います。

 

構想は現実に。「盛り上がったらいいな」では、終われない。

――「Ruruck Kitchen」のオープンから4年後に、「株式会社テラスオフィス」を設立されました。商店街の活性に向けて、組織的な取り組みをしたいという考えからですか?

田村さん:「商店街の長屋は活用できる」という確信を持てたし、場所は悪くないわけだから、「もっと広まっても不思議がないだろうな」と、シンプルにそう思ったからなんですけども……。ただ自分が「Ruruck Kitchen」をはじめたときは、当時の持ち主であった組合さんと賃貸契約を結んだんですよね。そうして、「ISANA」さんがやってきて、「青人窯」さんがオープンして。徐々に「若い人が集まる場」みたいな雰囲気になってきたんだけど、組合はつながりのない相手に物件を貸すことに抵抗を感じていたんですね。「もう、新規の契約はしない」ということになって。

 

――順調にお店が増えるのかと思いきや。

田村さん:それで頭を悩ませて、私、組合に提案書を持っていったんですよ。スムーズに物件を貸すためにこういうやり方はどうでしょうかと、いくつか提案した中のひとつが、「株式会社テラスオフィス」が物件を買い取る案だったんです。

 

――ご自身が運営に関わるようになって、やりやすくなったところもあったのでは?

田村さん:直接お話を受けることも、「こんな方に入っていただきたい」とアプローチすることもできるようになりました。それが、今の礎を築けたのかもしれません。「あの決断をして良かったな」とは思いますね。

 

――こんなに沼垂の商店街が盛り上がると予想していました?

田村さん:予想もなにも、「実際に」盛り上げないといけないわけですよ。こちらとしては大きな借金をしているわけだから、「なったらいいな」ではじゃなくて「必ず実現させないと」という気持ちでした。

 

 

――賑わいを感じたのは、どのタイミングでしたか?

田村さん:2014年に「株式会社テラスオフィス」を立ち上げて、翌年の春に「沼垂テラス商店街」がグランドオープンしました。その時点で手応えを感じましたね。空き店舗はすべて埋まって、「朝市」というイベントを開催したら大盛況で。

 

――1年で空き店舗がなくなるなんて。

田村さん:以前からウェイティングリストを作成していましたから。相談主さんにヒアリングをして、双方OKであればすぐにオープンに向けて取り掛かってもらいました。丸1年ですべての物件が埋まったお祝いに、みんなで話し合って、イベントを開こうということになったんです。

 

――新しく店舗を借りる方には、田村さんから「沼垂をこうしたい」っていうようなお話をされるんですか?

田村さん:いえいえ、それはまったくないです。好きなようにしてもらって大丈夫。ただ商売って、継続がいちばん大変なんですよね。はじめるのは誰でもできるんだけど、続けていくのはものすごく大変。「それができそうかどうか」は肝心かもしれません。

 

――「沼垂テラス商店街」は、今どんな段階にあると思っていらっしゃいますか?

田村さん:集客は落ち着いてきているかなと思いますけど、この4月の10周年イベントにも4,000~5,000人にお越しいただきました。まだまだやれることはあるし、伸びしろだって十分にあると思っています。例えば、インバウンド需要に対しての取り組みとかね。今までもいろいろな取り組みをしてきましたけど、まだ頑張れるところはあるでしょうね。

 

 

 

Ruruck Kitchen

新潟市中央区沼垂東3-5-22

025-245-6789

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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