ガラス作家が店長を務める、
「1DAY シフォンカフェ」
カフェ
2025.12.12
新潟駅南口から歩いて9分。弁天線沿いにある「1DAY シフォンカフェ」は、ガラス作家の深井さんが店長を務めるお店です。深井さんはガラスに惹かれて大学卒業後に工房に入ったものの、やりたいことを仕事にする厳しさに直面したのだそう。今のようにガラス作りとカフェを両立するまでにはどんな道のりがあったのか、お話を聞いてきました。
深井 謙佑
Kensuke Fukai(1DAY シフォンカフェ)
1994年新潟市生まれ。富山の大学で環境工学を学び、卒業後は愛知県のガラス工房で経験を積む。新潟に戻り、販売職に就きながらガラス作品の制作を行う。2022年にステンドグラス工房「Glass Studio Ray」、2023年に「1DAY シフォンカフェ」を任され店長を務める。音楽好きの元バンドマン。
力の限りを尽くした、
愛知での武者修行。
――深井さんは大学時代に富山で暮らして、ガラスに関心を持ったそうですね。
深井さん:富山市は「ガラスのまち」として、さまざまな取り組みをしています。例えば、富山駅の装飾にステンドグラスが使用されていたり、ガラスの美術館があったり。僕はもともとアート作品やものづくりに興味があったんですけど、突出して「これ」といった得意ジャンルはありませんでした。でも、富山のガラス作品に強烈に惹かれたんです。ちょうど就活のタイミングで「この先どうしようか」と迷っている時期で、「ガラスづくりを仕事にできたらいいな」と思うようになりました。
――大学を卒業してからは、どうされたんですか?
深井さん:弟子入りみたいなかたちで、愛知県のガラス工房に1年ちょっとお世話になりました。
――大きな決断だったと思います。
深井さん:ガラスを勉強しなかったらものすごく後悔するだろうな、って気持ちがありました。社会人になれば、働くことにかなりの時間を要します。より良い人生を歩むために、ガラス工房へ行こうと決めました。
――仲間はどんなメンバーでした?
深井さん:「一度きりの人生、やりたいことに挑戦しよう」とガラスの世界に飛び込んでくる方も多いんですよ。世界各国を旅した人、会社員経験のある人、さまざまな人から刺激をもらいました。工房では色ガラスを溶かして作る「とんぼ玉」とか、ステンドグラスとか、いろいろな技法を学びました。
――その後に新潟に戻って来たのには、何かきっかけがあったんでしょうか?
深井さん:体調を崩したのが大きかったんですよね。夜間のコンビニアルバイトで生計を立てながら、工房に出勤していたもので。
――それはハードですよ……。
深井さん:工房は技術を教わる場所なので、はじめは無給なんです。技術が身につくにつれてお給料が発生するんですが、先輩の姿を見ていても工房だけで生活するのは現実的ではなくて。見立てが甘かった、とても厳しい世界だ、と痛感しました。

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なんでも挑戦したい。
前向きさが出会いを呼び寄せる。
――新潟に戻られてからは、販売職に就いたそうですね。それから2022年に、ステンドグラス工房「Glass Studio Ray」を任されるまでのことを教えてください。
深井さん:ずっと「自分の作品を販売したい」って気持ちでいたんですけど、勤めていると難しくて。「やりたいのに先延ばしにしているなんてよくない」と期限を設けて準備していた頃に、「ガラス工房をやってみませんか」とお誘いをいただいたんです。当時、20代半ばで「なんでも挑戦したい」って気持ちが強くって。そういう姿勢が功を奏して、チャンスをいただけたと思っています。
――「Glass Studio Ray」では、どんなことができるんですか?
深井さん:ステンドグラスやとんぼ玉アクセサリーなどの販売とオーダー制作、ものづくり体験をしています。
――その後に「1DAY シフォンカフェ」の店長になるまでというのは?
深井さん:「Glass Studio Ray」の下の階、つまり今「1DAY シフォンカフェ」がある場所で、月に1回カフェ営業をしている知人がいまして。そのお手伝いをしたことがきっかけで、「カフェの店長もしてみない?」と声をかけてもらったんです。ガラス以外にも、いろいろなことを経験して人間力を高めたいと思っていたので、すぐに「お願いします」と返事をしました。
――調理は深井さんが担当しているんですか?
深井さん:はい、看板メニューのシフォンケーキも僕が焼いています。シフォンケーキの他には、野菜と果物がたっぷりのスムージー、コーヒーなどのドリンク、ラーメンは3種類あります。
――シフォンケーキは、ボリューム満点で美味しそうです。
深井さん:材料はとてもシンプルです。ふんわり感としっとり感、もちもち感が出るように、分量や焼き時間を調整しているんですよ。酸化しにくい油を使っているので、お腹に溜まりにくく、身体に優しいシフォンケーキです。

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カフェとガラス工房、
それぞれの役割から見えたこと。
――カフェでは、ハンドメイドマルシェを開催しているそうですね。
深井さん:どこかのマルシェに参加して知名度を上げる選択肢もあるんでしょうけど、僕は、作家さんたちにご協力いただきながら自分の力でマルシェを運営したくって。その経験が、のちに生きるような気がするんです。マルシェを開催しながらカフェメニューのテイクアウトもできるし、「1DAY シフォンカフェ」と「Glass Studio Ray」の関連性は持たせられているかなと思っています。
――カフェをはじめたことで、ガラス作家の深井さんの認知度が高まっている感じはありますか?
深井さん:ガラス工房でのワークショップは、遠方から観光で来る方の利用も多くて、次の来店に結びつきにくかったんです。でも最近、カフェのご利用をきっかけにガラス作り体験をしてくださるご近所さんが増えてきました。
――ガラス作家とカフェの店長、それぞれで意識されていることはありますか?
深井さん:ガラス作りが好きなあまり、自分の感覚に頼りすぎてしまうことがあって。できるだけ、主観的にならないように気をつけています。カフェでは、お喋りを楽しみたい方もいれば、静かに過ごしたい方もいます。お客さまがそれぞれ満足できる雰囲気づくりを大切にしています。
――まったく違う仕事のようで、もしかして共通点があるものなんでしょうか。
深井さん:どちらの仕事も、「何を」提供するか以上に、「誰がどう届けるのか」が大切だと思っています。僕の作家仲間には周りからとても応援されている方がいて、そういう姿に刺激を受けるんです。「また会いたい」「力になりたい」「誰かに紹介したい」と思ってもらえる人間になることが、お店を続けていくうえでも大事なんですね、きっと。
――両立の難しさは?
深井さん:ダブルワーク、トリプルワークが浸透しつつある時代ですけど、少し上の世代は僕みたいな働き方に抵抗があるみたいです。家族から「それで大丈夫なの」と言われたこともあります。ガラス工房とカフェ、ふたつのお店を営業しているのだから、「両方でしっかりしたところを見せないといけない」って自分に言い聞かせています。


1DAY シフォンカフェ
新潟市中央区鐙西1-3-4
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