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「部屋と人。#201 釣巻碧」

部屋とは、そこで暮らす人の暮らしぶりや趣味嗜好、人柄までもが現れる唯一無二の場所。似ている部屋はあっても、おそらくこの世に全く同じ部屋はひとつも存在しません。「この人ってどんな人なんだろう、どんなものが好きなんだろう」。その答えがきっと部屋にはあります。シリーズ『部屋と人。』では、私たちと同じ新潟に暮らす人たちの、こだわりの詰まった「自分の部屋」をご紹介します。

 

7回は、『SUZUKI COFFEE』でバリスタとして働いている釣巻碧さんです。Things読者のなかにもコーヒーが好きで、いろんなカフェを巡ったり、自宅や職場で毎日飲んだりしている人もいるんじゃないでしょうか。今回取材をお願いした釣巻さんは、豆による味の違いはもちろん、器具による味わいの変化を日々研究しているんだとか。沼垂にあるアパートの一室へお邪魔すると、そこには釣巻さんのコーヒー愛溢れる空間が広がっていました。

 

 

企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu

 

――ではまず部屋のコンセプトと、こちらに住もうと思った理由から教えてください。

「コンセプトは『カフェのようなお家』です。もともとは三越にあった『SUZUKI COFFEE』に勤めていたんですが、閉店してしまって、伊勢丹の方へ移動するタイミングでこの部屋を見つけました。部屋探しをしていたときから『お家でもコーヒーの研究がしたい!』と考えていたので、コーヒー器具を置くのに合うような白い壁と、温かみの感じられるフローリングが気に入って入居を決めました」

 

 

――例えば研究ってどんなことをしているんですか?

「例えばTDS(コーヒー濃度)と呼ばれる、200gの液体量のなかにどのくらいのコーヒーが溶けているかを研究したり、他にも6種類のミルを用意して、メーカーごとに味わいがどう違うのかを調べたりもしました。研究を続けていると、お客さまから聞かれるいろんな質問に対応できるようになるんですよ。知識が増えると説得力も増しますし、結果的にお客さまに満足してもらえるような提案ができるようになるんです」

 

――部屋のなかにもいろんな器具がありますね。それぞれどんなふうに使い分けているんですか?

「豆が変われば当然コーヒーの味は変わるんですが、器具によっても淹れたときの味わいは全然違うんです。例えばサイフォンで淹れると、飲んだ瞬間に口のなかで華やかな味が広がったり、エアロプレスを使えば甘さのある味わいになったりもします。ドリッパーひとつ取っても味にかなりの変化が起こるので、コーヒーの研究って終わりがなくて沼なんですよ(笑)」

 

 

――好きなものに終わりがないって、当人からすると最高ですよね(笑)。普段はいろんなお店に行ったりもするんですか?

「そうですね。自社の豆は調子を見るために毎日試飲しているんですけど、まだまだ自分の知らない珍しい産地が沢山あるので、ネットから取り寄せてみたり、新しいカフェの情報も常にチェックしたりしています。カフェによっては定期的にバリスタ向けのセミナーを行っている場所もあって、行った先々でいろいろな出会いがあるのもこの業種の面白いところかなと思います」

 

――最近注目している産地とかはありますか?

「コロンビアですね。実はここ数年の間で、コロンビアを中心にコーヒーの生成方法が増えているんですよ。これまでは取れた豆を天日で乾かしたり、水洗式でスッキリとさせたりする方法が主流だったんですが、『発酵』という新しい生成方法が出てきたんです。発酵させることで、まるでフルーツジュースのような味わいになる豆もあれば、バターのようなミルキーさを感じるものもあります。コロンビアは多様化がとくに進んでいる地域なので、遅れないようちゃんと情報を追っていきたいですね」

 

――ちなみに、釣巻さんがコーヒーを好きになったきっかけは?

「学生の頃の夏休みに臨時のアルバイトとして『SUZUKI COFFEE』へ行ったことがあって、そのときにスタッフさんが淹れてくれた浅煎りの1杯に衝撃を受けたんですよね。あとで試しに自分でも淹れてみたんですけど、やっぱり味は全然違くって…。以来、あの味を目指して試行錯誤を続けているうちに、いつの間にかコーヒーの研究をしていましたね(笑)」

 

――じゃあもし学生時代に飲んだ1杯がなかったら、ここまでコーヒーにのめり込むこともなかったかもしれませんね。

「本当にそう思いますね。学生時代は専門学校でイタリア料理を専攻していたんですけど、私を担当してくれていた先生もコーヒー好きで、授業の合間にコーヒー作りの練習をさせてくれたり、いろんな相談にも乗ってくれたりしました。私はもともと凝り性な性格だったので、きっと納得できるまで追求を続けたと思うんですけど、当時先生からの理解と協力を得られたのはとても大きかったです」

 

――それでは部屋のなかにあるこだわりのものについても教えてください。

「ひとつ目は、窓際にあるテーブルとイスを使ったこちらのスペースです。以前はソファを置いていたんですけど、部屋作りをしていくなかで『部屋にもカフェっぽさが欲しい』と思うようになったので、客席をイメージしたこの場所を用意しました。少しでもカフェっぽさが増すように、テーブルのうえには観葉植物とか、額縁に入れたイラストとかを置くようにしています。油断してティッシュを置いてしまいそうになるんですけど、『無駄なものは置かない』と自分に言い聞かせながら気をつけています」

 

 

「このカウンターでは研究のためのデータを取ったり、レポートを書いたりしています。昔どこかに記載されていた情報で、『カウンターの高さ90cmは立っている人が美しく見える高さ』だと読んだことがあったので、こちらも同じ高さにしてあります。私自身、お店へ行ったときにカウンター席から見える外の景色が好きで、配置は部屋の窓と向き合うようなところを選びました。

 

 

「これはエスプレッソを使って描いたイラストです。ある日、エスプレッソを扱っていたら手に粉が付いて、結局水で洗うまで落ちなかったことがあったんですね。それを見たときに『もしかしたら絵も描けるんじゃないか?』と思ったんです。常連さんたちにも話をしてみたら『碧ちゃんの絵を見てみたい!』といってもらえたので、じゃあやってみようと描きはじめました」

 

 

――他にもイラストが飾ってあるみたいですが、どうしてこの絵を選ばれたんですか?

「これはサイフォンでコーヒーを淹れている様子なんですけど、サイフォンには思い入れがあるんですよね。前に三越で働いていたときは、大会に出るくらいラテアートに没頭していたんです。でも、伊勢丹へ移動してきてからはラテアートのマシンがない職場に変わってしまったんですね。そのうえ当時はコロナ禍に入ったばかりということもあって、環境の変化に対応するのもひと苦労でした。でもやっぱりコーヒーが好きな気持ちは変わらなくて、『この機会になにか新しい研究を探してみようかな』と思いはじめたときに、尊敬するバリスタの方からサイフォンをいただけるとこになったんです。触れたことのない器具だったので、手入れから淹れ方まで手探りではあったんですけど、また新しい研究テーマを見つけることができた気がして本当に嬉しかったですね」

 

――やっぱり釣巻さんにとって、コーヒーの研究は欠かせないものなんですね。この部屋ができてからなにか心境の変化はありましたか?

「もっとコーヒーが好きになりました。部屋にはコーヒーを淹れる動線を確保してあるので、朝起きてから飲むまでが早いし、いろんな器具を使って研究も進められるんですよね。多いときは1日で10杯くらい飲む日もあるんですけど、さすがにカフェインの摂り過ぎで後半ふわふわしてきちゃって。好きとはいえ、飲む量には気をつけようと思っています」

 

 

――カフェイン中毒にはくれぐれも気をつけてください(笑)。では最後に、今後の展望についてなにかあれば教えてください。

「友達がオーナーをしている『ぴえに。』というカフェへ行ったとき、自分の好きなコーヒーを出したり、空間をデザインしたりする彼女の姿を見て『こんなふうに自分もお店をやってみたいな』と思ったんです。いままではどこのお店へ行っても即戦力になれるようなバリスタになることが目標だったのですが、お店を持つという夢ができたので、開業のための勉強と準備を少しずつ進めています」

コーヒーの話をしているときの碧さんの目の輝きやうっとりとした表情は、まるで憧れの人について語っているようで、この日の取材は開始から終わりまでコーヒー愛に溢れていました。室内の雰囲気はほっと落ち着けるような居心地の良さがあり、取材中にいただいたコーヒーと手作りのキッシュも、お店があったら行きたいくらい美味しかったです。もしいつか碧さんがお店をOPENしたら是非とも行ってみたいと思います。(byキタザワリョウ)

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