部屋とは、そこで暮らす人の暮らしぶりや趣味嗜好、人柄までもが現れる唯一無二の場所。似ている部屋はあっても、おそらくこの世に全く同じ部屋はひとつも存在しません。「この人ってどんな人なんだろう、どんなものが好きなんだろう」。その答えがきっと部屋にはあります。シリーズ『部屋と人。』では、私たちと同じ新潟に暮らす人たちの、こだわりの詰まった「自分の部屋」をご紹介します。
『部屋と人。』ラスト第12回は、以前Thingsでも取材をさせてもらった「Soil Works」の代表を務めている、貝瀬智大さんです。2021年から南魚沼で『収穫祭』という音楽イベントを主宰している貝瀬さん。高校生の頃から音楽活動をスタートし、現在でも地元の魅力を伝えるべくさまざまな活動を続けているんだとか。今回は貝瀬さんの自宅にあるレコーディングスタジオと、「Soil Works」の事務所を取材させていただきました。それぞれの部屋には、いったいどんなこだわりが詰まっているのでしょうか。
企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu
――それではまず、このスタジオを作ったきっかけから教えてください。
「高校2年生の頃にビートメイクをはじめたことがきっかけでしたね。3年生に上がってからは、ラッパーの友達と曲づくりもするようになって、毎日のようにRECしていました。そのうち先輩や後輩もここを使うようにもなって、最終的に10組以上の曲を録っていましたね」
――高校生から使っていることを考えると結構な時間が経っていそうですが、部屋は当時のままなんですか?
「専門学校へ行ってからは新潟市内で暮らしたり、卒業後は東京で仕事をしたりもしていたので、しばらく使わない期間が続いていたんですよ。Soil Worksを立ち上げるタイミングで戻って来たんですけど、久しぶりに来てみたらめちゃくちゃ汚くなっていて……。そろそろキレイにしなきゃなと思って、今年の1月にようやく改装できました」
――改装するにあたって、なにか変えたところはありますか?
「内装を変える予定はなかったので、ひとまず古くなっている壁や床を張り替えて、DIYで作業台のデスクも用意しました。機材関係は、絶対に最新のものにしたかったので買い換えましたね」
――不器用な僕にはDIYってすごく難しそうなイメージがあるんですけど、貝瀬さんはどこかで教わったことがあったんですか?
「教わったことはないんですけど、前に勤めていたイベント会社での経験が活きているのかもしれません。当時勤めていたところでは、企画やクリエイティブの制作だけではなく、ライブステージの図面を引いたり、ブランドの展示会で必要となる什器のラフ設計をしたりもしていて。板が1mm厚いだけでも設置に支障が出てしまうんですよね。そんな作業もやっていたので、知らぬ間に自分でもできることが増えていきました」
――DIYができるようになると、部屋づくりの楽しみ方にも幅が生まれそうですよね。
「部屋が楽しくなりますし、誰かとモノづくりを行うときにも、より具体的なイメージを共有できるようになるので面白いですね」
――スタジオのなかにある、お気に入りの家具とかってありますか?
「ひとつは、テーブルとして使っているウッドデスクです。マルシェに行ったとき偶然見つけて、ひと目惚れしちゃいました。板に穴が開いているところが良いんですよね。テーブルとしては致命的な傷なんですけど、あえてこの部分を採用した作者の感性がたまらなく好きで。どんな人が作ったかも、どういう意図で作られたのかもわからないんですけど、そこも魅力的に感じていますね」
「もうひとつは、六日町にあるADOOMというショップで買ったレイジロウさんの絵ですね。スタジオを新しくするなら、なにか絵を飾ろうと考えていたので、展示されていたなかから選びました。子供を抱きかかえているようなデザインが、守り神っぽくも見えて気に入っています」
――ちなみに、これからも絵は増やしていくんですか?
「ローカルアーティストの作品はもっと追加していきたいです」
――ローカルという部分を重視するのには、なにか理由があるんですか?
「僕自身が南魚沼を盛り上げたいと思って、Soil Worksというチームで活動をしたり、『収穫祭』というイベントも開いたりしているので、地元や、他の地方で活動している人たちにも同じ仲間としてちゃんとお金を落としていきたいんですよね」
――以前Thingsで取材させていただいたときにも、地元への貢献についてお話しされていましたよね。
「米や日本酒以外にも、南魚沼には魅力的な人やお店がたくさん集まっているんですよ。その点と点をつないで、若い人たちにもっと知ってもらえるような場所として『収穫祭』を続けていきたいですね」
――聞いたところによると、今年の「収穫祭」には新しい要素が加わるんですよね?
「そうですね。『収穫祭』をスタートしてから今年で3年目になるんですけど、今回は六日町にある『BARM』という多目的スペースのオーナーさんと協力して進めている、新ステージも登場します」
――新しい「収穫祭」いまから楽しみです!スタジオについて、こんなふうに変えていきたいという展望はありますか?
「レコーディングブースを作りたいと思っていますね。あとは音の反響が気になるので、壁に吸音効果を施していきたいです」
――では次に事務所についてもお聞きしたいんですが、その前に、改めてSoil Worksではどんなことを行っているんでしょうか。
「Soil Worksは、新潟出身のデザイナーや映像ディレクター、カメラマン兼編集者、WEBエンジニア、ビートメイカー、イラストレイターを含めた計8人で成り立っているクリエイティブチームです。基本的に一人ひとりが個人で活動を行っているんですが、チームとしては、イベントの開催以外にも動画の撮影やブランディングの提案も行っています」
――この事務所で、貝瀬さんはどんなことをしているんですか?
「事務的な作業もやりますけど、次の打ち合わせに向けた資料とか、企画書づくりとかをしていることが多いですね」
――この部屋にもいろんな本や作品が置いてあるみたいですね。どんな内容のものが揃っているんですか?
「本に関していえば、ビジネス書や漫画、知り合いが作っているZINEも置いてあります。作品のジャンルはバラバラなんですけど、展示会やPOP UPへ行ってみて、自分が良いなと思ったモノが揃っていますね」
――企画を考えるだけでなくて、新しい知識をインプットしたりする場所でもあるんですね。
「そうですね。ほとんどの本はここで読んでいますね」
――本と作品のなかで、とくにお気に入りのモノはありますか?
「漫画が大好きで普段からよく読むんですけど、実物を買って揃えることは滅多にないんですよ。でも『BLUE GIANT』は僕のバイブルと呼べるくらいに大好きな漫画で。逆境のなかでも、夢に向かって挑戦し続ける主人公のひたむきな姿勢に心打たれるんですよね。読むたびに行動ファーストの大切さを教えてくれる漫画です」
「あとはPCの横に置いてある写真家 赤木 楠平さんの作品ですね。これも展示会で買ったものなんですけど、『Nothing is wrong if it feels good』という言葉がすごく良いなと思って。わざと一番目に入る場所に置いて、日々自分を鼓舞していますね」
――「機嫌がよければ何も問題ない」。良い言葉ですね。実は僕もスマホの待ち受けを、自分の好きな言葉に設定してあります(笑)。頭のなかだけでイメージするより、目で見て確認するって大事ですよね。
「以前は『五感』という文字を置いていたこともあったんですよね。見るたびに、『五感を研ぎ澄ませろ』って自分に言い聞かせていました。もしまたなにか違う言葉と出会うことがあれば、どんどん追加していこうと思っています」
――これまで貝瀬さんは、新潟と東京のどちらの音楽イベントにも携わってきたわけですけど、今後行ってみたい海外のイベントとかってあったりするんですか?
「タイで開催している『Wonderfruits』には一度行ってみたいですね。知り合いに勧められてから数年経つんですけど、未だに行けていなくって。海外経験もほとんどないので、もし向こうに行けたら旅行を堪能しつつ、これまで新潟になかった新たな要素を取り入れていきたいと思っています」
――最後にSoil Worksとして、今後なにかやってみたいことってありますか?
「具体的な構想はまだ練れていないんですけど、いつか新潟の冬の特性を活かした音楽イベントを開きたいなとは思っています。国内でいうと、来年の3月に北海道のニセコで『Snow Machine』というフェスが開かれるんですよ。そこへ参加してみて、雪国ならではの環境を活かしたイベントがどんなものなのかを体感してみたいですね」
僕のスマホの待ち受けには「where there is a will, there is a way(意志あるところに、道はある)」という言葉が設定してあって、ふとした瞬間に、その言葉について考えることがあります。貝瀬さんの部屋に置いてあった家具や作品は、どれも「地元を盛り上げたい」「ローカルを応援したい」という意思によって集まっているように見えました。毎年参加している『収穫祭』も、新潟のさまざまな魅力が集結する場所として進化しています。新潟の音楽イベントといえばFUJI ROCKもありますが、新潟の人にこそ『収穫祭』へ足を運んでみて欲しいです(byキタザワリョウ)。