新潟市東区の住宅街。迷路みたいに入り組んだ路地を進んでいくと、緑色のドアのお洒落な住宅兼店舗が見えてきます。さりげなく掲げられた看板には「A pied(アピエ)」というフランス語の店名。こちらはフランス人と日本人のご夫婦が、今年6月にオープンしたカフェなんです。アットホームな空間で、オーナーのガリさんと円香さんから、おふたりの馴れ初めやカフェをはじめたいきさつを聞いてきました。
A pied
ラフォーレ ガリ LAFORET Gary
1985年フランス生まれ。大学時代に来日し円香さんと知り合う。その後、早稲田大学に留学したり、ワーキングホリデーを使ったりして度々日本を訪れ、3年間の遠距離恋愛を経て2014年に円香さんと結婚し日本に移住。「ハッピースマイルイングリッシュ」の講師やカフェのマネージャーを務め、2021年に自宅で「ハッピースマイルイングリッシュ」「A pied」をオープンする。「ドラゴンボール」「聖闘士星矢(セイントセイヤ)」などのアニメが好きで、お気に入りキャラクターは「ドラゴンボール」の18号。
A pied
ラフォーレ 円香 LAFORET Madoka
1989年柏崎市生まれ。大学で栄養士の勉強をし、大学卒業後は栄養士として働きながら、趣味としてパン作りを続け、2021年に自宅やコミュニティセンターを利用したパン作り教室「クィスドベベ」をはじめる。
——まずは気になる、おふたりの出会いから教えてください。
円香さん:私は大学生の頃から海外旅行が好きで、お金を貯めてはヨーロッパの国々を旅行していました。それで、もっと海外旅行を楽しみたいと思って、友達と一緒に英会話の勉強をはじめたんです。その友達が「Penpal(ペンパル)」というインターネットの交流サイトで外国の人たちと交流しながら、お互いの国の言葉を教え合っていました。その中のひとりがフランス人のガリだったんです。
ガリさん:僕が日本に遊びに行くことになったから「東京で会いませんか?」って友達を誘ったんです。そしたら一緒について来たのが円香でした。
——そのときに初めて出会ったんですね。ちなみにガリさんは何のために日本へ来たんですか?
ガリさん:僕は子どもの頃から、フランスで放送されていた日本のアニメが大好きだったんです。それで日本にはとても興味があったので、日本語の勉強と観光を兼ねて日本に行きました。
——アニメから日本に興味を持つ外国の人って多いですよね。はじめて日本に来たときに感じたことってありますか?
ガリさん:食べ物がみんな小さいと感じましたね(笑)。マックのハンバーガーひとつとってもフランスのはもっと大きいし、牛乳もフランスでは6パックセットで買ったりするんです。
——それはダイナミックですね(笑)。あ、話を戻しますけど、ガリさんがフランスに帰ってからも交際は続いたんですね。
円香さん:はい。まだスマホのない頃だったのでパソコンのメッセンジャーでやり取りをしていました。時間が合うときはスカイプやチャットで何時間も話したりして……。でも私はまだ、仲のいいお友達という感覚だったんです。だから私がフランスに行ったとき、ガイドをしてくれた彼から告白されたんですけど、一度断っちゃったんです。
——あらら……やっぱり友達としか見れなかったんでしょうか。
円香さん:そうですね。日本とフランスという距離のせいで、お付き合いする実感がわかなかったのかもしれません。でも東日本大震災が起こったとき、彼がものすごく私のことを心配してくれたんです。その様子に心を打たれて、彼と付き合うことを決めました。それから3年間は日本とフランスで遠距離恋愛が続いたんです。
——3年間って結構長いですよね。しかも日本とフランスっていうとかなりの遠距離ですけど、お互いに心配はなかったんですか?
ガリさん:その間も日本とフランスをお互いに行き来していましたし、ふたりとも恋愛には奥手だったから問題はありませんでしたね(笑)。スカイプで相手の顔を見るだけで満足していました。
——遠距離恋愛からどのようにして結婚まで行き着いたんですか?
円香さん:彼が早稲田大学に留学することになって、日本〜フランスの遠距離恋愛が、新潟〜東京に短縮されました(笑)。その後、ワーキングホリデーを使って新潟に来てくれて、ビザが切れて日本にいられなくなるというギリギリのタイミングで、ついにプロポーズしてくれたんです。
——おお!ホッとしました(笑)。ご両親も賛成してくれたんですか?
円香さん:交際中、両親はずっと反対していました。でもプロポーズを受けた報告をしたときは認めてくれた……というよりは諦めたようです(笑)。それから、東京のフランス大使館まで行って書類申請をしたんですけど、手続きが遅れたりして大変でしたね。
——ガリさんは新潟に来てからどんな仕事をしていたんですか?
ガリさん:英会話教室の講師として働こうと思ったんですけど、なかなか勤め先が見つからなかったんです。ようやく勤めることができたのが「ハッピースマイルイングリッシュ」という子ども英会話教室だったんです。そこで講師をやりながら、新潟駅南口にあるカフェでマネージャーとして働いていました。
——ふたつの仕事を兼ねていたんですね。どうして自宅で「A pied」をはじめることになったんでしょうか?
ガリさん:「ハッピースマイルイングリッシュ」の分校みたいなかたちで、自宅で英会話教室をやらせてもらえることになったんです。教室に来る子どもたちにはお母さんが付き添って来るので、レッスンの間待っていることができるスペースとしてカフェを作りました。カフェからは子どもたちがレッスンを受ける教室の様子も見ることができるんです。
——じゃあカフェを始めたきっかけは、子どもの付き添いに来たお母さんのためだったんですね。店名の「A pied」ってどういう意味なんですか?
ガリさん:フランス語で「歩いて」という意味です。「子どもたちが成長して、自分で歩き出せるようになってほしい」という意味を込めています。
円香さん:あと駐車場がないから「歩いてきてね」という意味でもあるんです(笑)。マークになっているイラストは、私たちの娘がモデルになっています。
ガリさん:大きいお店じゃないし駐車場もないから、わざわざここまで来てもらったのに満席でお店に入れなかったら申し訳ないじゃないですか。だから完全予約制にさせてもらっているんです。
——英会話教室とカフェの他に、パン教室までやっているんですよね。
円香さん:毎週金曜日にお店で開催している「クィスドベベ」っていう教室です。お店の他にも月1回コミュニティセンターでも開催しているんですよ。私は昔から料理を作ることが好きで、高校生のときは栄養士かパン職人のどちらかで進路を迷ったんです。結局、栄養士の道に進みましたけど、パン作りも趣味として続けてきました。パン教室に通いたくても子どもを連れて通える教室がなかったので、ずっと子どもと一緒に行けるような教室があればいいのにと思っていました。それで子育て中の方でも気軽に参加できるパン教室を開いたんです。
——「A pied」ではどんな料理が食べられるんですか?
ガリさん:フランスの家庭料理です。シンプルなんだけど、ちょっとした工夫をしながらオリジナリティのある料理を作っています。素材の産地にはこだわっていて、なかでもフランス産マスタードには強いこだわりを持っているんです。日本のマスタードではフランスの味が出ないんですよね。
——へ〜、美味しそうですね。料理はそのときどきで変わるんですか?
ガリさん:そうなんです。僕も彼女も同じことをするのは苦手だから……(笑)
——(笑)。それにしても、友達の家に遊びに来たみたいなあったかい雰囲気のお店ですね。
円香さん:ありがとうございます。先日も看護学生の方々が貸切でお誕生会を開いたんです。いろいろな飾り付けをして、ホームパーティーみたいでした。小さなカフェですので、お客様に合わせたいろいろな楽しみ方ができると思います。アットホームな空間でくつろぎながら、フランスの家庭料理を味わっていただきたいですね。
ガリさん:お客様ものんびりくつろいでいるから、僕もその間に2階のお風呂掃除をしたり子どもを迎えに行ったりしているんです(笑)
——とんでもなくアットホームですね(笑)。最後に今後やってみたいことはありますか?
ガリさん:やりたいことはあり過ぎて……。パパやママが子どもと一緒に楽しめて、笑顔が生まれるような場所を作っていきたいですね。
円香さん:ふたりともクリスマスが大好きなので、見学者が来るくらいのイルミネーションを施したいんですよね。10年後には、いろんな飲食店やハンドメイド作家の方を集めて、クリスマスマーケットを開催したいんです。ヨーロッパではおなじみのお祭りを、新潟市の東区で開催できたらいいなって思います。
居心地のいい空間でくつろぎながら取材させてもらうことができました。日本語ペラペラなガリさんと、お子さんをあやしながら取材に応じてくれた円香さん、いい雰囲気のご夫婦でした。皆さんもアットホームなお食事をしたいときは、「A pied」に予約の電話をかけてみてください。とくに小さなお子さんがいらっしゃる方には、おすすめのカフェですよ。
A pied
新潟市東区藤見町2-5-14-1
025-250-7106
11:30-14:00(完全予約制)
土日月曜祝日休