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30以上の樹種をベースに、新しい床材を提案する「and wood」。

中央区の「and wood」は、無垢のフローリングを扱う専門商社。30以上の樹種にさまざまな加工を施し、個人住宅や商業施設などへ「and wood」ならではの提案をしているのだそうです。今回は代表の遠藤さんに、起業するまでのことや印象深かった仕事のことなど、いろいろとお話を聞いてきました。

 

アンドウッド株式会社

遠藤 大樹 Hiroki Endo

 1981年大阪府生まれ。京都府の大学を卒業。在学中にイタリアの大学へ編入。下北沢のカフェなどでアルバイトを経験した後に、IT系の企業に勤める。その後、フローリングの卸業で10年ほど働く。2017年に暮らしの拠点を新潟に移し、独立。2018年に「アンドウッド株式会社」を設立。業界内では「木材=遠藤」として知られている。

 

就職氷河期からITバブル。起業に至るまでのストーリー。

――遠藤さんのこれまでのキャリアについて、教えてください。

遠藤さん:えっと……。どこから話しましょうか(笑)。私、就職氷河期世代なんですよ。若い頃は仕事がなくて。いろいろ転々として、逃げるように東京に出たんです。下北沢のカフェでアルバイトをしたりして生活していました。それからIT系の企業に勤めました。

 

――私も同世代なので、当時の苦労がよくわかります。

遠藤さん:今になると、ITの会社に勤めていたことがとても役に立ったなと思っているんです。「and wood」の社内システムは、私が構築していますんで。2006年でしたかね。その会社がなくなってしまい、もう途方に暮れました。それで、フローリング材の卸業をしている会社に転職したんです。

 

――社内システムを組めるレベルということは、ITの会社には長く勤めていたんでしょうか?

遠藤さん:3年くらいですか。それほど長くはないです。でももう、生きるか死ぬかでしたから、当時はもう必死ですよね。

 

――それほど熱心に学ばれたのに、業界を変えたいと思ったのはどうしてですか?

遠藤さん:日進月歩で技術が進んでいく世界ですから。若い脳みそに負けてしまうんじゃないかと思って。息の長い商売をしていきたかったんですね。

 

 

――「and wood」さんにつながるのは、前職であるフローリングの会社ですね。

遠藤さん:そうなりますね。恥ずかしい話ですが、前職に転職したのは、会社や仕事に興味があったからですけど、それ以上に「もうなんとかしてどこかに勤めないと」って厳しい状況だったんですよ(笑)。銀行口座の残高は、1万円を切っていました。だからもう「選択肢は、ここしかない」って。「とにかくお給料をもらわないと」って気持ちが大きかったです。

 

――営業をされていたんですか?

遠藤さん:最初は、営業職として入社しました。がむしゃらに働いていましたんで、とても可愛がっていただいて。ホームページの制作や買い付けにも関わらせてもらいました。仕入れの仕事は、業界の花形なんです。そこまで任せていただきました。お世話になった会長は、恩人です。

 

ニーズが生まれる前に仕掛ける。「and wood」のおもしろさ。

――ここまでのお話を聞くと、遠藤さんはやりがいを持って働いていらしたと思うんです。なぜ独立を決めたんですか?

遠藤さん:子どもが生まれるとき、妻と「移住しようか」という話になりまして。世田谷の暮らしがとても不便で。「会社を辞める」と告げると、会長は「新潟支店をつくろうか」と言ってくださいました。でも他の社員に示しがつきませんから、スパッと辞めることにして。それで、妻の実家がある新潟へ越してきたんです。

 

――そうでしたか。

遠藤さん:私ができることといったら、フローリングを仕入れて販売することだけだったんですね。そんな会社はありませんから、もう起業するしかありませんでした。

 

――「and wood」さんでは主にフローリングを扱っていますよね。素人考えですが、商材が限定的過ぎないかと思ったんです。

遠藤さん:おっしゃる通りです(笑)。「and wood」で扱っているフローリングは特殊なものが多いので、そういったものが好きなお客さましかいらっしゃいません。でも、だから相性のいいお客さまが多いんですよ。間口が非常に狭い分、日本中からフローリング材にこだわりのある方が来てくださいます。

 

――ほぉ~。それは強みですよね。

遠藤さん:今はスマホひとつで情報が手に入る時代ですから。こんなにニッチな商売をしている「and wood」でも生き残れるんでしょうね。20年前は無理ですよ。

 

――そういう予感があったんですか?

遠藤さん:いえいえ、まったくないです。ほんとう、運が良かっただけ。氷河期時代の悪運をここで挽回したなって感じです。

 

 

――取り扱っている種類がとても多いそうですね。

遠藤さん:小さな会社ですけど、ホームページ上に建築写真をたくさん載せているから、お客さまに関心を寄せてもらえるのだろうなと思っています。掲載している物件数は500以上です。ありとあらゆる無垢の床材をご紹介しています。でも、すべて当社で在庫として保管しているわけではありません。前職やお付き合いの深い同業さんの扱っている商材も把握しているので、それも含めるてかなりの種類というわけです。私がこの業界が好きだから、これだけの情報が集まっているんだと思っています。

 

――どれくらいの種類になるんですか?

遠藤さん:樹の種類が30以上で、さらに形状とか塗装方法とかを掛け合わせると……。ものすごい数になると思います。

 

――お客さんにしてみると、遠藤さんに相談するメリットは、いろいろな商材を紹介してくれることにあるんでしょうか。

遠藤さん:それもメリットに感じていただいていると思います。あとは、いろいろな建築事例を経験しているところが大きいでしょうか。

 

――大量生産されているようなフローリングとは違うわけですよね

遠藤さん:いわゆるツルツルと加工されている床材ですかね。そういったものは用意できないです。当社の倫理観があって。自分がおもしろいと思うものを売りたいと思っています。無垢材のフローリングには魅力を感じますし、とにかくおもしろいんですよ。

 

――どんなところにおもしろさがあるんですか?

遠藤さん:「こういうフローリングがあってもいいんじゃないかな」って、ニーズがある前に作っちゃうんです。ニーズに合わせてものを作るのが真っ当な商売ですけど、当社の場合は、ニーズが生まれる前に作っちゃう。市場調査もしません。私の主観で作って「どうでしょう」とお披露目すると、案外いい反応をもらえるんです。

 

思い出深い仕事。歴史ある建物への提案。

――海外にも仕入れに行かれているそうですね。

遠藤さん:海外調達での特別なエピソードは、最近少なくなりましたね。コロナ禍で全世界の人がリモートの使い勝手の良さを味わっちゃって。以前は1ヶ月に数回、海外を訪れていましたけど、今は年に1回あるかないかです。ちなみに今は、仕入れ先を2カ国に抑えています。

 

――いちばん印象に残っているのは、どんな依頼ですか?

遠藤さん:南魚沼市のとある旅館のお仕事ですかね。床を全部任せてもらいました。築300年ほどの建物をリノベーションするというので、「これはとんでもない仕事だ」と覚悟しました。どんなものをチョイスしたらいいか迷ったあげく、樹齢150年の丸太をインドネシアから輸入して床材を作りました。旅館は移築する可能性があるから、それを見据えて、接着剤を一切使わない施工を提案して。あの仕事は、かなりの冒険でしたね(笑)

 

 

――なんだかゾクゾクしますね。

遠藤さん:ここまで突っ込んでフローリングのことを考えている人間は珍しいと思います。ちゃんと儲かる商売をするのが商社のあり方でしょうけど、私はおもしろいものを売る方が楽しいから、ついついそうしちゃうんです。

 

――学生時代に悔しい思いをして、今は好きな仕事ができているって幸せですね。

遠藤さん:カフェでアルバイトをしていたときは、あえて閉店時間にシフトに入って、残り物を食べてました。今振り返ると、あの頃ってけっこう楽しい思い出なんですよね。そして、苦しかった。苦しいときは当時を思い出すんです。それで頑張れるところもあります。でも子どもにはそんな思いをさせたくないから、守りに入っている部分もありますけど(笑)

 

 

 

and wood

新潟市中央区本馬越2-18-1

025-385-6763

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