Thingsの過去記事でご紹介した陶芸家の岡﨑宗男さんと廣川智子さんが、新潟市の「ART&COFFEE SHIRONE PRESSO」にて、作陶展「circus(キルクス)」を開催しています。(期間は、7月28日まで)会場にお邪魔し、おふたりがコラボするきっかけや企画の見どころ、陶芸作家としてのお考えなどを聞いてきました。
陶芸家
岡﨑 宗男 Takao Okazaki
1966年魚沼市生まれ。幼少の頃、家族で長岡市に転居。東京の「日本デザイナー学院」を卒業後、益子焼最大の窯元「つかもと」へ入社。2002年に退社し、「ゆみ陶」「和田窯」で修業。2007年に長岡市に戻り、2008年から「陶 岡﨑」としての活動をはじめる。料理が趣味で、唐揚げが得意。
陶芸家
廣川 智子 Tomoko Hirokawa
1966年長岡市生まれ。新潟大学教育学部彫塑科を卒業し、新潟市内の中学校で美術科の教員となる。その後、茨城の製陶所や栃木の陶芸家の下で修業を積み、1999年に長岡市で「一黙窯」を開設し陶芸家としての活動をはじめる。
——Thingsに登場してくださったおふたりの作品展、楽しみにしていました。今回の企画は、どういったきっかけで開催されることになったんですか?
岡﨑さん:「COFFEE SHIRONE PRESSO」の奥さまから「陶芸家の廣川さんに、ぜひここで展示会をして欲しいと思っているんだけど、お知り合いではないですか?」と聞かれましてね。それで去年、こちらで私の作品展を開催したところ、会期中に廣川さんがお越しになったんです。「この方ですよ」と奥さまに廣川さんをご紹介したことがはじまりです。
——そこからおふたりがコラボする企画となったんですね。
岡﨑さん:廣川さんは動物のオブジェなどを作られます。彫刻みたいにすごく時間がかかる作り方をされているので、おひとりで会場を埋めるのは難しいかもしれないということで、私も一緒に「2人作陶展」として開催することになりました。
——廣川さんは、主にオブジェを作られているんですね。
廣川さん:そうですね。展示しているような動物のオブジェのご依頼が多いです。あまり器は作っていないですね。
岡﨑さん:そうおっしゃいますけど、飲食店さんからのご注文がありますから、実際は器も作っているんですよ(笑)
——おふたりともに1966年生まれで、長岡に拠点を持っていらっしゃいます。長いお付き合いなんですか?
岡﨑さん:一緒に展示会などでお会いするようになって、仲良くなったのはここ数年ですかね。
廣川さん:長岡でグループ展だとかを開催すると、他の作家さんのお名前を目にしますから、岡﨑さんのことは存じ上げていたんですよ。岡﨑さんの展示会に伺ったことは何度もあるんですけど、会場でわざわざ自分の名前を名乗ったりしませんからね。「私が廣川です」とご挨拶したのは、コロナ禍前のイベントでご一緒したときだったと思います。
岡﨑さん:よく覚えていますね(笑)
廣川さん:岡﨑さんと私は、同じ時期に栃木県の益子で陶芸を学んでいたんです。でも、そこではお会いしなかったですね。
岡﨑さん:廣川さんはとても有名な先生のもとで、修業されていましたね。東京の決まった画廊でしか展示会をされないような。
——そんなところにも共通点があったんですね。ということは、作り方のベースは近しいものがあるんでしょうか?
岡﨑さん:益子独特の文化がありますから、器の作り方は似ているかもしれません。できあがるまでに気にしなくちゃいけないポイントなんかは、きっと同じでしょうね。益子焼きにはおおらかさがあるんですよ。釉薬の濃さを測るにしても、測定器を使わず、手の感覚で「あらかたこれでいいかな」みたいな。
廣川さん:私も共通点はあると思います。私たちが作るのは、絵が描かれていたり、奇抜な形状だったりという器ではないですね。益子焼自体が生活に馴染む、使いやすい器ですから。岡﨑さんとは年齢も同じ、益子で過ごした時期も同じなんだけど、まったく別々のものを作っているところがおもしろいと思っていて。作品はかけ離れていても、ものを作る上での考え方とか価値観は近いものがありますよ。
——改めて今回の2人作陶展「circus」について教えてください。
廣川さん:「COFFEE SHIRONE PRESSO」のオーナーさんが、私たちふたりのコラボレーションを「サーカスのようにエキサイティングになる」と企画名を考えてくれました「circus(キルクス)」はラテン語で「輪」を意味し、サーカスの語源となった言葉だそうです。
岡﨑さん:廣川さんは動物のオブジェを展示されますから、私はその傍に平らな器を用意して、土台のようにしてみようと思いました。
廣川さん:写真家でもあるオーナーが、私たちの作品を見事に表現してくれました。それがポスターやフライヤーのデザインに使われています。
——素敵なお写真だなと思いました。
廣川さん:最初は、岡﨑さんと私の作品が、あまりにもかけ離れているのではないかと思っていたんです。でも、オーナーさんは「それがおもしろいんだ」って。その通りでしたね。私も器を展示していたら、きっとすごく普通になっちゃったかもしれないです。おもしろくなかったと思います(笑)
——廣川さんが作られる動物のオブジェも、器と同じような工程で制作されるんですか?
廣川さん:使う道具、例えば土を削ぎ落としたりする細かい道具が必要ですけど、基本的には同じですね。動物を作るのにろくろを使いますし。筒状の状態から、土が柔らかいうちに偏平にして形を作っていくんですよ。
——おふたりとも、年間通じていろいろな展示会に参加されていらっしゃいますよね。
廣川さん:お話をいただいて、スケジュール的に可能であれば、参加させていただきます。お仕事をいただけるのはありがたいですね。今回の企画は自然にお話ができて、似ているところがいっぱいある岡﨑さんとご一緒できると楽しみにしていました。
岡﨑さん:私も今回の企画は、「これはやりたい」と心底思いました。僕らは会社員でいうと定年間近の世代です。そうすると次世代のために何かをしていかなくちゃいけないわけですよね。自分が稼ぐというより、次の世代のためにできることをする。「それが仕事だ」と考えを少しずつ切り替えていくんでしょうけど、我々の世界では50代後半なんて、まだまだこれから脂がのる頃。60代、70代で一人前みたいな世界ですから、やっぱりまだ「しっかり暮らせるようにしなくちゃ」って気持ちがあります。「廣川さんとの企画はきっとおもしろい」って思いと、「生活したい」って思いの両方を考えて仕事をお受けしているかな。
——本音のところを教えていただけたような気がします。ちなみに廣川さん、例えば依頼がバッティングしたときはどうされているんですか?
廣川さん:難しいですね(笑)。これまでのつながりもあるし、簡単には選べないかも。でもやっぱり作家も商売ですから。趣味だったらまた違うけど、食べていけるかどうかは大事ですよね。
——作家さんというと、得意なこと、やりたいことを仕事にしているイメージがありますけど、もちろん生活を支えられるかどうかも大事なことですよね。
廣川さん:そう、そこも大事なんですよ。ただ、それが100%だとたぶん続かないんですよね。私が動物のオブジェを作りはじめたのは、ただ動物が好きだったから。最初はあてもなく、次々に制作していたんです。今ももちろんあのときと同じ気持ちでいるんですけど、今はテーマを何にするかじっくり考えちゃいます。
岡﨑さん:その気持ち、共感しちゃうな(笑)。私も好きに作る器より、ご注文いただいて作ることが増えてきて。いいことなんですけどね。独立してからしばらくは「注文がいっぱいで忙しい」って人が羨ましくてしかたなかったですから。
——さて、2人作陶展「circus」は7月28日までということですが、会期中おふたりに会えるときはありますか?
岡﨑さん:7月13日(土)は、ふたりとも在廊しています。7月20日(土)は私、21日(日)は廣川さんが在廊予定ですので、ぜひお越しください。
廣川さん:最終日に近づくと展示の数が少なくなってしまって申し訳ないです。でも岡﨑さんも私も追加の作品を持って来ますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。
陶 岡﨑
長岡市乙吉町972-354
TEL 0258-37-5212
E-mail:takao69@sky.plala.or.jp
<今後の予定>
9/8、9 Ojn handmade hut オープンギャラリー(出雲崎町)
9/21、22 暮らしの道具とうつわ展 お菓子工房十三夜(新潟市)
10/2~ 摂田屋6番街発酵ミュージアム・米蔵 陶芸展(長岡市)
10/30~ 片口展 LIS摂田屋(長岡市)
一黙窯
<今後の予定>
9月 静岡 ギャラリーnoir/nokta 二人展
11月 北海道 yukimich グループ展
12月 弥彦 rafie 個展、tetote 冬の三人展