先日、鳥屋野潟公園で開催されたイベント「潟マルシェ」は、久々に陽気のいい1日になったせいもあって多くの来場者で賑わっていました。その中でもひときわ人気だったのが「DAIDOCO(ダイドコ)青果氷店」のキッチンカー。地元新潟で採れた旬の農産物で作ったシロップのかき氷を提供するお店です。素材の色や香りをそのまま生かし、添加物を使わずに手作りしたシロップは、「ハネモノ」と呼ばれる規格外の農産物も活用しています。いったいどうして「ハネモノ」の農産物を使うのか?「C’s kitchen(シーズキッチン)」代表の佐藤さんにお話を聞いてきました。
C’s kitchen
佐藤 千裕 Chihiro Sato
1976年兵庫県生まれ。短大卒業後、調理師専門学校やフードコーディネータースクールに通う。その後、銀座の無国籍料理のレストランに就職。2000年に新潟に移住し、結婚式場でパティシエとして働くが、アトピー体質の悪化で療養生活を送る。32歳の頃から料理教室やケータリングを始め、「C’s kitchen」として「rucoto(ルコト)」「DAIDOCO青果氷店」などの取り組みをおこなっている。
――お店には美味しそうな焼き菓子やジャムが並んでますね。あれはこちらで作っているんですか?
佐藤さん:はい。あのお菓子やジャムはみんな「ハネモノ」の農産物で作っているんですよ。
――「ハネモノ」?
佐藤さん:「ハネモノ」っていうのは、規格の形や大きさに合わなかったり一部に傷があって、市場には出せない果物や野菜のことです。「C’s kitchen」ではそうした「ハネモノ」の農産物を使った加工食品も作ってるんです。
――どうして「ハネモノ」の農産物を使っているんですか?
佐藤さん:10年程前にあるとき農家の方から相談を受けたんですよ。収穫は果樹農家にとって1年にたった1回のことなのに台風や気候の影響で「ハネモノ」だらけの年もあるんです。見た目が悪いけど充分美味しく食べることができる農産物なのに、加工してくれる業者などが見つからないと廃棄せざるを得なくなってしまうので、それを買い取って丁寧に加工して美味しく生かそうと思ったのがきっかけです。
――捨てるものが収入になれば農家にとってもありがたいですよね。ところで「C’s kitchen」ってどんな活動をしているんですか?
佐藤さん:新潟で生産者の方々とつながりながら、旬の食材を大切にしたおやつやご飯のケータリング、食育ワークショップ、レシピ考案といった取り組みを通して、食の魅力を伝える活動をしています。
――たとえばどんな取り組みをしているんでしょうか?
佐藤さん:「ハネモノ」の果物で作ったシロップのかき氷を提供するキッチンカー「DAIDOCO青果氷店」や、農業・福祉・食がつながっておいしい循環を作る「rucoto」といった取り組みをしています。
――「rucoto」って、どんなふうに食が農業や福祉とつながるんですか?
佐藤さん:まず農家から「ハネモノ」の農産物を仕入れることでフードロスの削減につながります。その農産物を使った一次加工を福祉事業所にお願いすることで障がいのある方の活躍の場やお仕事を作り出すことができて、みんなの力で美味しく生かせるといいなと。そうしてできた商品を販売するし、購入していただくことで、お客様も美味しく社会貢献をすることもできるんですよ。ちなみに「rucoto」っていうのは「つくルコト、たべルコト、つながルコト、いきルコト」っていうところから取った「ルコト」なんです。
――なるほど。いろいろな社会問題の解決にもつながるんですね。どういったいきさつで、そういう取り組みを始めたんですか?
佐藤さん:最初は「C’s kitchen」のアトリエスタッフのみんなで「ハネモノ」の加工をやっていたんですが、だんだん追いつかなくなってきたんです。その頃、スイーツを作ったりしていた障がい者施設が、機械や設備の充実した厨房に移転したんです。うちの厨房より格段に立派な設備の厨房なんですが、ほとんど生かせていない状況だったんですよね。すごくもったいないと思ったこともあり、1次加工作業を手伝ってもらえませんかと依頼する形でコラボすることになったんです。最初は少しずつやってきたんですが、2018年にクラウドファンディングで資金を集めて本格的にスタートしました。
――障がいを持つ人たちに作業を依頼するときはどんなことに気をつけていますか?
佐藤さん:それぞれの施設や利用者さんの特性に合わせて、無理なくいいものが作れるように指導や提案をしています。難しいと思われるような作業でも細分化していくと誰もができる作業になるんです。障がいのある方も、旬の農産物の色や香りを感じて楽しみながら作業してもらえたら嬉しいなと思います。
――そのようにして作った商品はどこで販売してるんですか?
佐藤さん:「C’s kitchen」のお店で販売したり、イベント出店してキッチンカーで販売したり、趣旨に賛同してくださるカフェやお菓子屋さんに卸したりしています。新型ウィルス感染症拡大防止に伴うステイホームでおうち時間が増えたこともあり、ジャムなどを取り扱ってくださるお店も増えました。
――「料理で自信を持てた」というお話が出てきましたよね。佐藤さんはいつ頃から料理を始めたんですか?
佐藤さん:子供の頃は親の転勤で引っ越しが多い上に病気がちだったので、友達ができなくて動物が友達だったんです。小学2年生の頃東京のど真ん中でニワトリを飼っていて、そのエサの菜っ葉やリンゴの皮を刻んでいたのが料理のきっかけでしたね(笑)。家庭科の時間に包丁使いを先生に褒められて、どんどん料理が好きになっていきました。家庭科の時間に習った料理を家で作っては両親が褒めてくれるのがうれしくって、おせち料理や餃子作りといった母親の料理作りを手伝うようになっていきました。
――まさか、料理のきっかけがニワトリのエサだったとは(笑)。でも褒めることって大切なんですね。
佐藤さん:本当にそう思いますね(笑)。ゆくゆくは料理の仕事をしたかったので調理師専門学校に行こうと思ったんですが、少し前に亡くなった父の遺言に従ってとりあえず短大で勉強をして、卒業してから調理師専門学校やフードコーディネータースクールに通いました。
――へ~!それはすごいですね!ところで新潟で暮らすようになったのはいつからなんですか?
佐藤さん:24歳で新潟に移住してから、結婚式場のパティシエとしてウェデイングケーキを作っていたんですが、働き過ぎでアトピー体質が悪化してしまったんです。医師から処方された塗り薬について調べてみたら、ステロイド剤の中でも2番目に強い薬だったので、びっくりして薬を塗るのをやめてみたら、もっと症状が悪化してしまったんですよ。皮膚はボロボロになるし、アトピー性の白内障にもなって、精神的にも参ってしまって仕事を辞めて自宅にひきこもっていました。
――大変じゃないですか!それでどうしたんですか?
佐藤さん:そのときにいろいろな療法を調べて、全国で1カ所だけ食事の力で体質改善をするという医療機関を見つけて入院しました。昔ながらの日本食をゆっくり噛んで食べるという生活を数カ月送って、改めて食の大切さを実感するきっかけになりましたね。
――そのときの経験が今の取り組みにも生かされているわけですね。ところでケータリングを始めたのはいつからなんですか?
佐藤さん:自宅療養して少しずつ回復してきた32歳の頃からお菓子や料理の教室を始める傍ら、ワインのおつまみや軽食のケータリングを始めたんです。そんな活動の中で、いろいろなの農家の方々と知り合うことができたんです。農家の方々の声を聞くうちに「ハネモノ」の相談を受けて、現在取り組んでいる「DAIDOCO青果氷店」や「rucoto」に発展していったんです。
――今後はどんなふうに活動していきたいですか?
佐藤さん:「rucoto」の取り組みやシステムが新潟に浸透してくれるよう、これからも活動していきたいと思ってます。ただ、「C’s kitchen」のスタッフは子育て中のママさんも多いので、家庭と両立しながら仕込みやイベント出店するのは大変なんですよね。だからこれからは飲食業を志す若い人にも活動を伝えていけたらと思っています。
規格外のために廃棄される農産物を使い、福祉事業所へ一次加工の作業を依頼して美味しい商品を作ることで、農業、福祉、そして食がつながっておいしい循環ができる取り組みをしている「C’s kitchen」の佐藤さん。その活動が新潟のいろんなところに浸透していって、みんなが笑顔になれたらいいですね。
C’s kitchen
〒950-0064 新潟県新潟市東区松島3-1-3
080-3514-6907