電気工事士やラーメン店のスタッフが、オリジナルのキャップをかぶって働いているのを見たことはありませんか? そんな刺繍入りのキャップやTシャツなどを手掛けているのが、新発田市にある「大中小店」です。和気あいあいとアットホームな雰囲気の工房にお邪魔して、代表の大倉さんにお話を聞いてきました。
大中小店
大倉 卓也 Takuya Okura
1982年新発田市生まれ。専門学校を卒業して食品会社の研究員、村役場の臨時職員、ガソリンスタンドのアルバイトを経て、鯉のぼりの染め職人を経験。その後は刺繍店で修業を積み、2021年に独立して刺繍業「SUKIMA(スキマ)」を立ち上げる。移転後は「大中小店」としてリニューアルオープン。最近はけん玉にハマっている。
——今日はよろしくお願いします。少し前まではかなり忙しかったみたいですね。
大倉さん:毎年3月には中学校や高校から、学校指定体操服にネーム刺繍を入れる仕事が入ってくるんですよ。中学校はあらかじめ入学する生徒がわかるから時間の余裕があるんですけど、高校は合格発表が終わってからの採寸になるので、何千着もの刺繍を2週間でやらなければならないんです。その間は全スタッフ総出でかかりっきりになるので、電話にも出られないくらいの修羅場になります(笑)
——それはお疲れ様でした。ところで、大倉さんは以前から刺繍に興味があったんですか?
大倉さん:そうでもありませんでした(笑)。ただ、高校3年生のときに入っていたスケボーチームのオリジナルTシャツを、カッティングシートやアクリル絵の具を使って自作したことはありましたね。
——刺繍やプリントの仕事には、いつ頃から関わるようになったんですか?
大倉さん:25歳くらいのときに、鯉のぼりを作っている会社で染め職人をはじめたのが最初ですね。廃校になった学校の体育館を作業場に使っていたので、とにかく動き回るんですよ。試しに万歩計をつけて仕事をしてみたら、1日で6万歩も歩いていて驚きました。
——距離にすると42kmくらいだから、フルマラソン並みですね(笑)。かなり忙しい職場だったんでしょうか。
大倉さん:そうですね。国内で流通している鯉のぼりの7割を生産していたそうです。だから、そこらへんで見かける鯉のぼりは知っているものばかりで、なかには自分の手掛けたものもありました(笑)
——それはすごい(笑)。染め職人の経験がプリントに生かされているわけですね。刺繍はどこで経験されたんですか?
大倉さん:その次に働いた刺繍店です。自分の考えたデザインが形になって、それをクライアントに喜んでもらえることが嬉しかったですね。でも、そのお店は作業着の刺繍がメインだったので、もっといろいろな可能性に挑戦してみたいと思って独立することにしたんです。
——それで「大中小店」を立ち上げられたんですね。
大倉さん:その頃はまだ「SUKIMA」という屋号でした。実家が農家なので、米の乾燥機が置いてある小屋を作業場に使って、ひとりではじめたんです。
——「SUKIMA」って、どういう意味でつけた屋号なんですか?
大倉さん:はっきり覚えていないんですけど、「誰もやっていない、隙間になっていることをやる」っていう意味だったと思います(笑)
——なるほど。最初はどんなふうに仕事を集めたんでしょうか?
大倉さん:SNSで宣伝したり、インターネットのスキルマーケットに登録したりしていましたね。刺繍入りキャップを作らせていただいた電気工事会社が、Instagramで多くのフォロワーを持っているインフルエンサーだったので、そこから紹介していただいたおかげで瞬く間に県外企業からの受注が増えました。
——いいご縁に恵まれましたね。県内での受注はいかがですか?
大倉さん:地元のラーメン店で刺繍入りキャップやワッペンを作ったのをきっかけに、県内のラーメン店に紹介していただき広がりました。本当に人の縁には助けられてきたんですよ。
——「大中小店」を立ち上げたのは、いつからなんでしょうか?
大倉さん:ありがたいことに仕事が増えたことで、ひとりでは回せなくなって作業場も手狭になってきたので、現在の場所に移転してスタッフを増やしたんです。スタッフそれぞれの名字から頭文字をとって「大中小店」という店名にしました。
——うまい具合に名前が揃ったんですね(笑)。刺繍するのはどんなアイテムが多いんでしょうか?
大倉さん:キャップやワッペンが多いですね。高齢化で閉業する刺繍業者が多いので、キャップに刺繍できるところも減ってきているんです。特に立体刺繍はやっているところが少ないので人気がありますね。
——ほんとだ。ぼっこりと盛り上がっていて存在感がありますね。
大倉さん:YouTubeで海外ユーザーが投稿していた立体刺繍を見たことで興味を持って、いろいろと調べながら独学で学んだんです。平面的な刺繍と比べて5倍くらい手間がかかるので大変なんですけど、その分需要は多いんですよ。
——それは大きな武器になりますね。どんなところからの注文が多いんでしょうか?
大倉さん:電気工事会社やスポーツチーム、飲食店からの注文が多いですね。新しくオープンするお店からオープンツール一式の相談を受けることも多いんですが、専門外のジャンルに関してもお断りせずに引き受けるよう心掛けています。頼っていただいたことには全力で対応したいんですよね。
——新しくお店をはじめる方にとっては心強い味方ですね。仕事をしているなかで難しいと思うことはありますか?
大倉さん:お客様のイメージをしっかり把握することが難しいですね。具体的なサンプルがあればイメージしやすいんですけど、なかにはヒアリングをしながら探っていかなければ把握できないこともありますし、何度も確認と修正を繰り返して形になることもあります。
——逆に、嬉しいのはどんなときですか?
大倉さん:もちろん完成した製品を喜んでいただけたときです。以前、スタッフの息子が芸人の小島よしおさんとお会いする機会があったので、お土産として「440」という白の刺繍を入れた黒いキャップを持たせたんです。「よしお」を数字にしたものですけど、鏡に映すと「OPP(オッパッピー)」にも見えるんですよ。受け取った小島さんはとても喜んでくれて、いろいろなバラエティ番組にかぶって出演してくれました。
——へぇ〜、それは素晴らしい経験でしたね。大倉さんはどんなことを大切に「大中小店」の営業を続けていきたいと思っていますか?
大倉さん:完成した製品を納品して終わりなのではなくて、その後もお客様とつながり続けていけるような仕事をしていきたいですね。人の縁に助けられて今までやってきたので、今後も縁を大切にしながら続けていきたいと思っています。
大中小店
新発田市三日市213-1
070-8326-9283
9:00-16:00
土日曜祝日休