インドカレー屋さんに行ったことがある人なら、一度は聴いたことがあるであろう「インド音楽」。ですが聴いているだけでは、どんな楽器を使ってどんなふうに演奏しているのか、まったく想像がつかない方も多いのではないでしょうか。そんなインド音楽の魅力をもっと知ってもらおうと、新潟で活動しているグループがいます。その名も「でぃがでぃなエチゴ」。インド料理店「ナタラジャ」での定期演奏の他、県内各地のイベントに出演しています。今回はシタールを担当する斉藤さん、タブラを担当する大野さんと福井さんに、インド音楽にハマったきっかけや面白さについてお話を聞いてきました。
でぃがでぃなエチゴ
斉藤 勇 Isamu Saito
1967年新潟市生まれ。シタール奏者ラヴィ・シャンカールの演奏映像をきっかけに、シタールに興味を持つ。現地や東京で演奏を学び、腕を磨く。2008年に新潟で「でぃがでぃなエチゴ」を結成し、活動をはじめる。2011年よりデリー在住のシュベンドラ・ラオ氏に師事。現在はシタール教室も開いている。
でぃがでぃなエチゴ
大野 美千絵 Michie Ohno
新潟市生まれ。たまたま聴いたインド音楽をきっかけにタブラの音色に興味を持ち、当時住んでいた東京でボーカルやタブラを習う。個人で演奏活動を続けた後、「でぃがでぃなエチゴ」のメンバーに加入。
でぃがでぃなエチゴ
福井 智弘 Tomohiro Fukui
1986年三条市生まれ。大学生の頃、研修旅行で行ったインドでタブラと出会う。当時住んでいた京都でタブラの先生を見つけ、4年間習う。2011年に実家である「徳誓寺」に入り、僧侶となる。知人を通じて斉藤さんと知り合い「でぃがでぃなエチゴ」に加入。
――「でぃがでぃなエチゴ」さんはいつから活動されているグループなんでしょう?
斉藤さん:結成は2008年です。タブラをやっている人を紹介してもらったら、そのひとがたまたま近所に住んでいて。ふたりでいろいろ演奏するなかで「でぃがでぃなエチゴ」という名前で活動をはじめました。メンバーは5人いるんですけど、今はほぼこの3人で回しています。
――そもそも皆さんとインド音楽との出会いが気になります。斉藤さんはどんなきっかけでシタールに興味を持つようになったんですか?
斉藤さん:もともとワールドミュージックは好きでしたし、中学生の頃はギターをやっていました。シタールをはじめたのは大学を卒業してからです。ビートルズのジョージ・ハリスンが主催した「バングラデシュ・コンサート」のレーザーディスクがあったんです。その映像の中でラヴィ・シャンカールという、世界でいちばん有名なシタール奏者が演奏していて……。
――その方の演奏に影響を受けたんですね。
斉藤さん:超絶技巧っていうんですかね。演奏が速くて力強くて、自由自在に演奏している様がすごくよくて。「こんなふうにシタールを弾いてみたい」と思って引き込まれたのがきっかけです。それからしばらくして、インドに行ってシタールを買ってきました。
――すごい行動力ですね(笑)。念願のシタールを手に入れてみて、いかがでしたか?
斉藤さん:楽器があれば弾けると思っていたんですけど、ぜんぜん弾けなくて(笑)。結局またインドに行って習って帰ってきました。それからは東京で先生を見つけて習っていたんですけど、仕事をしながらだと練習する時間がなかなか取れなくて、ダラダラとやっていましたね。
――練習に力を入れるようになったのはいつからなんでしょう?
斉藤さん:2010年頃に、ラヴィ・シャンカールの直弟子であるシュベンドラ・ラオ先生が新潟でコンサートを開いたことをきっかけに、彼からシタールを習いはじめました。シタール歴は延べでいえば30年くらい、真面目にやっているのは10年くらいですね(笑)
――大野さんがインド音楽と出会ったのには、どんなきっかけが?
大野さん:小さい頃からインドのお香とかファッションが好きだったんですけど、こういう音楽があることは知らず。インドカレー屋さんに行ったときに流れていた音楽を聴いて、タブラの音に衝撃を受けて興味を持ちました。タブラの音には名前がついていて、それを「ボル」というんですけど、口ずさむとラップのようなノリのよさがあるんです。
――打楽器なのに、音に名前があるって面白いですね。
大野さん:そこから「インド音楽って素敵だな」と思って、インド音楽を教えている方を見つけて、最初はボーカルを習っていたんです。だけど理論が難しくて、1年も経たないうちにやめてしまいました。「インドに行った方がきっと理解できるはず」と思ってひとり旅もしたんですけど、それでも結局わかりませんでしたね(笑)
――理論を勉強しようとすると難しいんですね。タブラをはじめてからどれくらい経つんですか?
大野さん:難しすぎて絶望することもありましたけど、10年くらい続けていますね。当時は東京に住んでいたので、大使館のタブラクラスで習ったりしていました。
――同じくタブラ担当の福井さんのお話も聞かせてください。
福井さん:大学の研修旅行で、インドの仏跡を巡る旅に行きまして。インドは初めてだったんですけど、たまたま行ったレストランでタブラとシタールを演奏している人がいたんです。
――へ〜、やっぱりインドでは身近な楽器なんですね。
福井さん:そのとき初めてタブラの音を聞いて「かっこいい」と思いました。演奏を見ていても何が起きているか分からなくて、自分もそんなふうに演奏できたら楽しいかなって。そのまま勢いでタブラを買って日本に帰りました。
――タブラに一目惚れしたんですね(笑)。日本に戻ってからは誰かに教わったんですか?
福井さん:その頃京都に住んでいたんですけど、ちょうど近くにタブラを教えている先生がいらっしゃって。習いに行ったらハマって、かれこれ17年続けています。
――インド音楽では、シタールとタブラで演奏する構成が一般的なんでしょうか。
斉藤さん:そうですね。主奏者と、伴奏のタブラで構成されます。「タンプーラ」という持続音が鳴る楽器もあるんですけど、それはアプリでも賄うことができるんです。インド音楽はボーカルが基本なので、楽器だけで演奏するときはボーカルを模しているようなかたちです。
――疑問に思っていたんですけど、曲があってその通りに演奏しているんですか? それとも即興で演奏しているんですか?
斉藤さん:決まった音階とかリズムはありますけど、演奏は即興です。季節とか時間とか、その場の雰囲気を演奏で表現するんですよ。インド音楽には「ラーガ」というものがありまして、直訳すると「彩るもの」。その時間帯や雰囲気にふさわしいラーガがあって、ラーガをたくさん知っている人なら「この時間帯ならこのラーガをやろう」となります。僕はそんなに知らないので、時間帯によってできるラーガをやる感じです。
――なるほど……。ラーガを知っている人ほど演奏の幅が広がるんですね。
斉藤さん:それにプラスして、タブラにもリズムのパターンがたくさんあります。「ターラ」というんですけど、16拍子のリズムサイクルで演奏する曲だったり、10拍子や7拍子、9.5拍子だったり。そういうリズムをタブラがキープしています。ラーガとターラがあって初めてインド音楽が成り立つんです。
――独自のルールや理論があって奥深いですね。その分、知れば知るほど聴くのが面白くなる音楽だと思います。
大野さん:インド音楽って、やっぱり説明しないと伝わらないところがあると思います。だから最近は、この硬い理論の世界を分かりやすいものにしていきたいと考えていて。お客さんにカウントしてもらうとか、今までしていなかったことをはじめているところです。
――やっぱり、活動を続ける中でも「インド音楽のことをもっと知ってもらいたい」という思いがあるんでしょうか。
大野さん:知ってもらいたいし、日本とのつながりを感じて「身近なものなんだな」と思ってもらいたいです。自由に捉えていい音楽なので、聴きながら何か思い出してくれたりしたら素敵だなって思います。
――最後に、皆さんそれぞれの目標があれば教えてください。
福井さん:いちばんは技術の向上ですね。あとはお寺でインド音楽のコンサートを企画しているんですけど、いろんなミュージシャンの方とコラボできたら面白いなって思います。
大野さん:私は音楽界だけじゃなくて、アート作品を作る人たちとかも巻き込んで何かやりたいですね。あまり垣根を作らずに「つながれる音楽なんだよ」という魅力を伝えていきたいです。
斉藤さん:新潟の人にインド音楽の魅力を知ってもらって、コンサートにも気軽に足を運んで欲しいなって思います。ちょうど来月、僕の師匠であるシュベンドラ・ラオ先生が新潟でコンサートをやるんです。一流のタブラ奏者の方とふたりで演奏するので、ハイレベルな共演が何を生み出すか、新潟でどんな演奏をするのか、ぜひこの機会に観に行ってみてほしいですね。
でぃがでぃなエチゴ