SDGsの観点から消費や生活を見直す動きが広まっている中、服飾分野でもお気に入りの一着を長く着続けるために修繕したりサイズや形を直したりする「お直し」という仕事に再び注目が集まっています。村上市にある「ハナキリン」さんはそんな洋服のお直しを手掛けるお店のひとつ。同店はただ直すだけでなく、注文する人との対話に力を入れているのだとか。店主の増子さんに、いろいろとお話を伺ってきました。
洋服なおしのハナキリン
増子 由乃 Yuno Masuko
1975年村上市生まれ。村上市松山「洋服なおしのハナキリン」代表。東京服飾専門学校を卒業し、都内のアパレル会社にデザイナーとして勤務、その後オーダーメイドフラメンコドレスのアトリエを経てUターン。新潟市内の洋服直し専門店に勤め、2019年に独立し同店を開業。店名は自身の誕生花から。最近は「書く瞑想」といわれるジャーナリングを生活に採り入れている。人生のパートナー募集中。
――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、ハナキリンさんではどんなことができるんですか?
増子さん:当店は洋服のリペアやサイズ直し、土台を活かしたリメイクなどを承っています。ご注文をお受けする際はお客様との対話を重視し、その方の好みやライフスタイルまで詳しく伺い、ご希望以外の加工方法も提案しながら、最終的にどのように直すのか話し合って決めていきます。
――なるほど。……聞き流しそうになりましたが、ライフスタイルまで?
増子さん:割と細かく聞いちゃいますね(笑)。普段どういう生活をなさっていて、その服をどういった場面でお召しになるのかによっても、直し方は変わってきますから。普段の姿勢であるとか、腕の上げ下げは多いのかとか、座って着用する時間が長いのかとか……。まずは「なぜお直ししたいのか」をお訊ねし、それを糸口にお客様のお話を様々に伺い、それぞれの方に合ったお直しの方向性を見出して、ご納得いただいてから具体的な作業に入ります。中にはその服に対する思い入れやエピソードを語ってくれる方もいて、それを聞くのと聞かないのとでは仕上がりも大きく違ってくると思っています。
――実際、そういったカウンセリング(?)を経て、当初の予定と違ったやり方で注文する方もいるんでしょうね。
増子さん:そうですね。仕上がりの完成度はもちろんですが、「ここに頼んでよかった」と言ってもらえることは大きな喜びです。開店して2年半ほど経ちましたが、常連になってくれる方もいて、とてもやりがいを感じています。
――服って、気に入って買ったものでも意外とほんのちょっとしたことで着なくなっちゃったりしますよね。どこが不満なのかはハッキリとは分からないけど、何となく着なくなってそのまま箪笥の肥やしになったりとか。
増子さん:まさにそういった漠然とした不満でも、ぜひご相談いただければ嬉しいです。話し合いながらいっしょに原因を探り、お直しを通して、またお気に入りの一着としてもらえればと思います。
――開店から2年半とのことですが、これまでの手応えはいかがですか。
増子さん:今も試行錯誤、探求の毎日です。服、またそれを着る人の思いって本当に千差万別で、お直しのやり方もひとつではありませんから、日々正解のない問いに答えているような感じです。ただ、それを解くカギもあって、最終的には「着る人に適しているか/いないか」だと思っています。例えば「トレーナーの前が開くようにしたい」という注文があった場合、通常ならオープンファスナーを付けますが、手に障がいがありファスナーが苦手な場合、その方にファスナーは適していません。スナップボタンやマグネットボタン、マジックテープ、大ボタン1つだけ、あるいは何も付けないなど、前開きひとつとっても様々な手法があり、それらをご案内しながら、その方に最も適した方法で加工するんです。なので、先ほど述べたように対話やライフスタイルを大切にしているんです。
――なるほど。ちなみに、どういったお客さんが多いんですか? 先入観ですがやっぱり女性の方が多いんでしょうか。
増子さん:いえ、うちでいえば男女の比率は半々くらいです。年齢層も10代後半から90代まで幅広くご利用いただいています。どの方も、いい意味で着るものにこだわりのある方がやっぱり多いですね。
―― 最近だと、ネットの通販やオークションで買ったもののサイズが合わないで持ち込まれるパターンも多かったりするのでしょうか。
増子さん:そうですね。逆に、もう直すことを前提にして服を購入する方もいらっしゃいます。最近は古着がまたブームになっていますが、デザインや柄が気に入ってどうしても着たいけどサイズやシルエットが合わない、ということで持ち込まれる方も増えています。昔の洋服は、失礼ながら名もないメーカーでも生地や縫製が本当にしっかりしたものが多いですね。現在のものよりも長く着ることを前提に作られている感じです。
――最近増えている注文はあるんですか?
増子さん:増えているわけではないですが、ペットの服やダンスの衣装、またジェンダーレスなお直しの相談もあります。
――ジェンダーレスな注文とは?
増子さん:例えば女性向けに作られた服を男性が着られるように直したりすることです。洋服のつくりは男女でけっこう違いますから、ただサイズを大きくすればいいというわけではありません。これに限らず、気に入っている服をリサイズし、「今の自分」にピタリと当てはまったときは、とても喜んでいただいて、こちらも嬉しくなっちゃいます。
――それでは、開店までの経緯を教えてください。
増子さん:もともとは服飾の専門学校を卒業し、東京都内で10年ほどアパレル会社やオーダーメイド衣装のアトリエで働いていたのですが、激務が祟って体調不良になってしまい、帰郷しました。実家に戻り、かつて自分が着ていた服とも再会したわけですが、静養中であまり洋服を買いに出掛けられないでいる中、それらを「少しいじれば今でも全然着られるじゃん」と思って直しているうちに、どんどん探求心が生まれてきたんです。試行錯誤が楽しくて、「いつかは自分のお店が持てたらなぁ」と考えるようにもなり、新潟市内のお直し専門店に就職しました。
――ほうほう。それから満を持して独立、と。そもそも増子さんが服飾に興味を持ったきっかけは?
増子さん:ルーツは幼少期のバービー人形です。子どものころはあまりおもちゃを買ってもらえなかったんですが、バービー人形だけは買ってもらえて。でもやっぱり着せ替えの服はなかなか買ってもらえなかったので、自作するようになったんです。母が洋裁をやっていたのもあって、家には端切れがたくさんあったのでそれを利用して、いちばん最初に着ていた服を参考に、手縫いで。中学校に上がるくらいまでやっていたと思います。
――それは筋金入りですね! お店の今後の展望はいかがですか。
増子さん:「お直し」ってファッションの観点からだけでなく、環境や福祉の面からも重要だと考えています。なので、「洋服はお直しできる・再利用できる」という発想を一人でも多くの方に持ってもらいたいな、もっと広めていけたらな、と思っています。
――ん? 環境は分かりますが、福祉の面とは?
増子さん:「ユニバーサルリメイク」という手法があるのをご存知でしょうか。ごく簡単に言うと、身体の不自由な方でも着用しやすいように服をリメイクすることです。例えば片手が不自由になってしまった方が、それまでずっと着ていたお気に入りのシャツを以後も着られるようにボタンを替えたり、介護される方が着替えしやすいようなデザインにしたり、といったものです。どんな状況でも自分らしさを失わずおしゃれを楽しむやり方があることを、もっともっと紹介していけたらなと思っています。
――なるほど。では「再利用」とは?
増子さん:服は直せるだけでなく、生地として別のものに生まれ変わらせることもできます。生活用品や小物として「第二の人生」を歩んでもらい末永く使い続けてゆくことは、SDGsの観点からも理に適っていると思います。そういった提案もしていきたいですね。
――そうですね。具体的にはどんな?
増子さん:様々なものが考えられますが、例えば自分の着ていたものをペットの服として再利用することも、生活に豊かさが生まれる方法のひとつだと思います。これについては現在、セミオーダーできるように準備を進めている最中です。今後も探求心を持って取り組んでいきたいと思っています。
――アイデアが広がりますね。本日は色々なお話を聞かせていただきありがとうございました!
洋服なおしのハナキリン
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